(2727) 砂の器
【監督】野村芳太郎
【出演】丹波哲郎、森田健作、加藤剛、島田陽子、緒形拳、加藤嘉、春田和秀、佐分利信、山口果林
【制作】1974年、日本
蒲田操車場で起きた殺人事件を扱った作品。刑事の説明、過去の回想、ピアノ協奏曲が同時進行するクライマックスシーンが圧巻。
蒲田操車場で顔を殴打された身元不明の死体が発見される。刑事の今西栄太郎(丹波哲郎)と吉村弘(森田健作)が遺留品のマッチをもとに店の従業員に話を聞くと、殺された男には東北訛りがあり、もう一人の若い男に「かめだ」と言っていたという証言が得られる。若い男は白いスポーツシャツを着ており、相当の返り血を浴びたはずだが、シャツは発見されていない。その恰好で遠くに行くとは思えないため、男は蒲田近くに住んでいるのか、蒲田でシャツを処分したのかと思われた。今西と吉村は東北まで行くが手掛かりは得られない。帰りの食堂車で、二人は新進気鋭の音楽家、和賀英良(えいりょう)(加藤剛)を見かける。
手掛かりのないままだったが、ようやく死体の身元が判明する。岡山に住む三木謙一だった。謙一の養子の彰吉(松山省二)が、謙一が旅に出ると言って50日も戻らないので捜索願を出していたのだ。謙一が東北弁を話すはずはないと彰吉は言う。今西は国語研究所で、東北訛りと同じ音韻は出雲の一部にもあると聞かされ、島根県の地図を調べると、「亀嵩(かめだけ)」という地名を発見する。三木謙一はそこで長年巡査をしていた。亀嵩に赴いた今西が人々に話を聞くと、三木謙一は温情のある立派な人物で、乞食の親子の面倒を見たこともあり、彼を恨むような人はいないということだった。
吉村は、中央線の甲府付近で列車から紙吹雪を撒いている女がいたという新聞の随筆を読み、女が撒いたのは紙ではなく切り刻んだスポーツシャツではないかと考え、筆者の川野栄造(穂積隆信)に連絡。その女性の情報を教えてもらう。吉村は情報をもとに、高級クラブ「ボヌール」の女給、高木理恵子(島田陽子)に会う。吉村が理恵子に、中央線に乗らなかったかと聞くと、理恵子は否定し、そのまま席を外して行方をくらます。吉村は中央線沿線をしらみつぶしに調べ、血の付いた布の欠片を発見。鑑識の結果、血は三木謙一の血液型O型と一致する。理恵子は和賀の情婦だった。和賀には後援者の前大蔵大臣、田所重喜(しげき)(佐分利信)の娘、佐知子(山口果林)という婚約者がいた。理恵子は和賀の子を身ごもっており、和賀は堕ろすよう理恵子に命じていた。理恵子は生む決心をするが、出血流産し、そのまま命を落とす。
今西は、謙一が旅の途中で訪れた伊勢に向かい、謙一が宿泊中に行ったという映画館を訪ねる。事務所の壁には、田所重喜の写真があった。今西は、そこで別の写真に気づく(それが何かは後でわかる)。今西が亀嵩で話を聞いた、謙一の知人、桐原小十郎(笠智衆)から今西に手紙が届く。そこには謙一が養子にした乞食親子の名前と本籍地が記されていた。今西は本籍地の石川県上沼郡大畑村に向かい、親子の縁者(菅井きん)に話を聞く。父親の本浦千代吉が病を患って、母親は出ていき、千代吉は息子の秀夫を連れて村を離れたということだった。
今西は続いて、和賀英良の本籍地である大阪市浪速区の区役所を訪ねる(なぜ和賀英良の本籍を調べたのかは後でわかる)。区の職員(松田明)の説明によると、英良の両親は空襲で死亡しており、戸籍も焼失したため、本人の申し立てにより戸籍が作り直されたということだった。現地で話を聞くと、英良の両親とされる夫婦には子供はおらず、従業員の小僧をかわいがっていたということだった。
警視庁で合同捜査会議が開かれ、今西は和賀英良の逮捕状を要求。事件の全容を話す。和賀英良の本名は本浦秀夫。彼の父親、千代吉(加藤嘉)はらい病を患い、幼い秀夫(春田和秀)を連れて各地を転々としながら亀嵩にたどり着いた。謙一(緒形拳)は、息子と離れたがらない千代吉を説得してらい病の隔離病院に送り、秀夫を我が子として育てることにするが、秀夫は謙一の家を出ていき、大阪の和賀夫婦の世話になる。空襲を機に、秀夫は戸籍を捏造し、和賀英良として高校を出、音楽家としての道を歩んだのだった。謙一が映画館で見たものは、田所重喜や佐知子と並ぶ、和賀英良の写真だった。和賀英良が本浦秀夫だと気づいた謙一は、急遽、東京に向かって和賀に会い、まだ生きている父親に会うよう説得。自分の過去が明かされることを恐れた和賀が、秀夫の首に縄をつけてでも父親のもとに連れていくと話す謙一を殺害したのだった。
和賀は、自ら作曲したピアノ協奏曲「宿命」を大ホールで披露していた。今西と吉村は、和賀英良こと本浦秀夫の逮捕状を手に、ホールで待機するのだった。
殺害の動機は弱い気がするが、オーケストラの演奏を背景に、秀夫の幼少時代の回想と、今西の事件の全容の説明が同時に進む演出は見事。回想シーンはオーケストラの演奏がBGMとしてあるだけで無音声であり、これは、人形浄瑠璃における三味線と、声を出さず動く人形、そして語りをする太夫と同じスタイルになっているということらしい。回想シーンはちょっと長いなあと思ったが、名シーンだった。公開当時21歳の島田陽子のスレンダーなヌードも登場。とても美人である。
【5段階評価】4
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