(2736) 志乃ちゃんは自分の名前が言えない
【監督】湯浅弘章
【出演】南沙良、蒔田彩珠、萩原利久、奥貫薫、山田キヌヲ、渡辺哲
【制作】2018年、日本
押見修造の漫画の映画化作品。うまく話せない少女の高校生活を描いた青春映画。
沼津市の西高に入学した大島志乃(南沙良)は、人前で話そうとするとどもってしまう性質があり、最初の自己紹介も失敗。クラスには、空気を読めずバカ騒ぎする菊地強(萩原利久(りく))や、性格の暗そうな岡崎加代(蒔田彩珠(あじゅ))がいた。互いに友だちのいない志乃と加代はやりとりするようになり、加代は志乃を家に招く。志乃は加代の部屋にギターがあるのを見つけ、加代に弾いてほしいとねだる。加代は笑ったら殺すと言いながら弾き語りを始めるが、加代は極度の音痴だった。思わず噴き出した志乃を見て、加代は「帰れ!」と志乃を追い出す。志乃はせっかくできた友だちを失った悲しみで、泣きながら帰宅する。
志乃は加代に笑ったことを謝罪。二人でカラオケ店に入り、加代は志乃に歌わせる。志乃は歌ではまったくどもらず、きれいな歌声を聞かせる。加代は志乃とバンドを組み、文化祭で披露しようと提案。バンド名を「しのかよ」に決め、二人で路上で歌い始める。人前で歌うことに慣れてきた二人だったが、初めて人通りの多い駅前で歌い始めたとき、菊地が現れる。志乃は驚き、その場から逃げ去ってしまう。
菊地は学校で二人をからかい、加代は菊地にビンタを食らわせる。帰り道、菊地は二人に謝罪し、仲間に入れてほしいと言ってタンブリンを取り出す。菊地もお調子者の性格が災いしてクラスメートからウザがられていて友だちがおらず、居場所がなかったのだ。しかし志乃は菊地と一緒の状況を受け入れられず、バンドの練習から遠ざかり、学校にも行けなくなってしまう。
加代は志乃がバンドを続けられないことを受け入れ、一人で文化祭に出演。自分で作詞作曲した「魔法」という歌を披露する。校舎裏でそれを耳にした志乃は会場に現れ、うまく話せないことで葛藤している自分の気持ちを爆発させる。加代はステージ上で温かい目で志乃を見守る。文化祭が終わり、加代、菊地、志乃はそれぞれで昼休みを過ごす。席にいた志乃の席に「あげる」と言って飲み物を置いたのは、クラスの別の女子だった。志乃はあいかわらずどもりながら「ありがとう」と言ってほほ笑むのだった。
吃音を抱える少女が主人公。「惡の華」や「血の轍」など、少年少女の心の内面を描く漫画の多い押見修造らしい作品。人から笑われないように話さないようにしてきた、私が私を追いかけてくる、話せない自分を馬鹿にしているのは自分なんだ、自分はこれからも大島志乃なんだ、と叫ぶ志乃の言葉に、はっとさせられた。吃音も音痴も、自ら望んでそうなったわけではない。ラストシーンは、吃音を持つ自分を受け入れ始めた志乃の姿が暗示されていた。加代が歌った「魔法」の歌詞もよかった。
【5段階評価】3
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