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2024年6月16日 (日)

(2705) 桜色の風が咲く

【監督】松本准平
【出演】小雪、田中偉登、吉沢悠、吉田美佳子、リリー・フランキー
【制作】2022年、日本

視力と聴力を失った息子とその母親の生き様を描いた作品。実話に基づいている。

福島令子(小雪)と正美(吉沢悠)夫婦の三男、智(遠藤千空(せんくう))は、3歳の正月のとき、右目に異常が現れる。医者(リリー・フランキー)にかかり、治療を受け続けるが、最終的に眼球癆と診断され、右目を失明する。小学生になり、明るく生きる智(森優理斗)だったが、左目にも異常が出て、ついに全盲になってしまう。東京の盲学校に通うことになった智(田中偉登)は、女子学生、増田真奈美(吉田美佳子)の声とピアノの演奏を気に入るが、次第に聴力が衰えていく。処方される薬を信用できなくなった智は、食事療法や運動療法にも挑戦するが、効果はなく、ついに全盲聾となる。息子が絶望の淵に立たされていることを感じた令子は、心中することまで考えるが、夫の正美は、それは智が迷惑がるから死にたいなら一人で死ね、と強く諭す。
ある日、母親の支度が遅いと文句を言う智に言い返したくなった令子は、点字を打つのももどかしく、智の指に自分の指を当て、点字をタイプするように直接、文字を伝える。この指点字により、智は孤独から解放される。同級生の山本正人(山崎竜太郎)も指点字で、君には思索がある、と智を励ます。智は、自分が全盲聾であることでたどり着く場所があるのではないかと考え、大学進学を決意。智の覚悟を聞いた正美は、まだ未成年の智とビールを飲み交わす。智はまだ盲聾者で大学に進学した人が日本にいない時代に大学を卒業し、大学教授となったのだった。

全盲聾という状態に置かれた中で思索を繰り返し、だからこそ見える景色、だからこそたどり着ける境地を目指すという前向きな気持ちを持つことに、素直に感動する。自分が不幸だと考えている人は、本作を観てみるといいだろう。実はその不幸は、人生を豊かに、あるいは新たな成長の機会の糧だと考え直すことができるかもしれない。
個人的には、この実在の人物、福島智教授の講義を直接拝聴したことがあり、署名入りの書籍も持っている。こういう人が使命感を持って社会に貢献していることは、尊いことだと思う。一方で、こういう人には普通に生きてほしいとも思う。聖人君子である必要はない。立派な人物でなければいけないわけではない。誰だって、肩の力を抜いて人生を楽しむ権利があることも、再認識した気がした。

【5段階評価】4

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