(2663) Millions of tears
【監督】ナタリー・ベーダー
【出演】アンドレ・ウィルム、ミリアム・テカイア、ナタリー・ベーダー
【制作】2015年、フランス
初老の男と金欠の若い女の関係を描いた作品。23分の短編映画。
外は雨。初老の男(アンドレ・ウィルム)が食堂でコーヒーを飲んでいると、若い女(ミリアム・テカイア)が入ってくる。雨に濡れた女は男の座る席の隣のテーブルに陣取り、悪態をつきながら上着を脱ぎ、無遠慮に、荷物を見ていてくれと男に頼んでトイレに向かう。女が席に戻り、今度は男が荷物を見ていてくれと席を立って外でタバコを吸って戻ると、女はいなくなっていた。男はとっさにカバンを見るが、財布は無事だった。
男は車で女を探す。女は道路を早足で歩いていた。男は女に話しかけ、車に乗るよう誘う。女はいぶかしみつつも車に乗る。夜になり、男はホテルに泊まることにし、車に乗ったままの女に、車中泊するか、宿代は出すからホテルに泊まるか考えろ、と言うと、女はホテルに向かう男に付いていく。二人は別の部屋に泊まり、男が寝ていると、ノックの音がする。ドアを開けると、下着姿の女が立っており、知らないところでは寝られないと言って勝手に男のベッドにもぐりこむ。男は一緒に寝たくない、と言いつつ、仕方なくベッドに入る。
翌朝、男は先に車で待つ。女はなかなかやってこず、ホテルから出てくると、車ですればいいのに靴ひもを結び直したり(こういうのにイライラするのわかるわ)、男は遅いと文句を言い、ホテルのブランケットをくすねていた女にいらだつ。女は優しくしたり冷たくしたりなんなんだと文句を言い、男は黙ってろと叫ぶ。女が窓を開けて口笛を吹きだし、男は音がうるさいと言って、ついには女を車から押し出して走り去ってしまう。しかししばらくして男は車を反転させ、女を探す。女を見つけると、男は昼食を買ってやるからと言って再び女と合流する。男はハンバーガーを下品にほおばる女の行儀をたしなめつつも、ナプキンに火をつけてロケットだ、と言って、火をつけたナプキンが燃え尽きる瞬間に空中に飛び上がる様子を見せて喜ぶ。
男は目的地に着いたようだ。女に小銭をせがまれ、言われるがままに小銭を渡すと、男は係の者(ナタリー・ベーダー)に呼ばれて部屋に入る。そこは遺体安置所だった。彼は娘の遺体確認に来ていた。シーツに覆われた遺体から覗く手の指の爪は、車に乗っていた女と同じマニキュアで、遺留品にある靴下に入れた小銭も、女の持ち物と同じだった。男は小銭の入った靴下だけ持ち出すと、車に戻る。女は車内におらず、車の横でドアにもたれて座っていた。何をしていると聞かれた女は「隠れてた」と答え、降り始めた雨を避けて男は車に乗り込む。たたきつけるような雨が降るが、車に女は乗り込んでこない。車は激しく雨漏りし、男は濡れながら驚き戸惑うのだった。
最後まで来て、男と女のやりとりが、すべて父と娘の、ときに穏やかな、ときにぎこちない、そしてときに険悪なやりとりだったのだとわかり、「そうだったのか」という感動が押し寄せる。観る人によっては男の前に娘の幻影が現れたとも、男と女のシーンは全て回想だったとも受け取れるだろう。
同じ店に入って別のテーブルに座り、荷物を見ておけと命じる。男のベッドに無警戒に潜り込む。小銭を無遠慮にせびる。これらが父親に対する娘の行動だったのか、と思うととたんに納得がいく。逆に、女の行動の細かなことにいらだち、説教する。突き放しておきながら追いかける。食事で汚れた女の口元に手を伸ばし嫌がられる。これらも典型的な父親の行動だろう。
BS松竹東急の短編映画劇場を初めて観たが、いきなり当たり作を引いた感覚だ。
【5段階評価】4
| 固定リンク
コメント