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2024年4月

2024年4月30日 (火)

(2658) 張込み

【監督】野村芳太郎
【出演】大木実、高峰秀子、宮口精二、田村高広、高千穂ひずる、浦辺粂子、清水将夫
【制作】1958年、日本

殺人事件の犯人を張り込む刑事の奮闘を描いた作品。松本清張の短編が原作。

質屋殺人事件の犯人、石井久一(きゅういち)(田村高広)を追って、警視庁の刑事、柚木隆雄(大木実)と下岡雄次(宮口精二)が佐賀に向かう。石井が、かつての恋人で、今は銀行員の後妻となった横川さだ子(高峰秀子)を訪ねる可能性があったため、佐賀にあるさだ子の家で張り込みをすることにしたのだ。横川家の真向かいが旅館だったため、彼らは二階の部屋に陣取り、旅館のおかみ(浦辺粂子)らには、サンプルの到着を待つ農業機械のセールスマンだと身分を偽って張り込みを開始する。
さだ子の夫(清水将夫)は、さだ子と年が20も離れた厳格な男で、さだ子は三人の子供たちとなんとかやっているようだったが、年より老けて見え、疲れ切っているように見えた。さだ子の日常は平凡な暮らしの繰り返しで、怪しい行動を起こす様子がない。一週間が経ち、さだ子に石井が接触する形跡がないため、柚木と下岡は東京に帰る準備をする。ところがその日になって、怪しい傘直しの男が横川家に入ると、突如、さだ子が家を出る。いつもの買い物に出る時刻より早く、何より買い物かごを持っていなかった。一人で旅館にいた柚木はあわてて後を追い、何度か見失いながらも、温泉地で石井とさだ子を見つけ、物陰に隠れて様子をうかがう。いつも沈んだ様子のさだ子がいきいきとしており、二人は物陰で熱い口づけをかわす。さだ子は、石井について東京に行かなかったことを後悔し、横川家を出て石井についていく決意を口にする。しかし、石井は重い肺病を患っていた。石井は旅館で話そうと言って、さだ子と旅館に入る。
柚木は、下岡や佐賀県警の警官と合流し、温泉から上がった石井を逮捕。柚木は何も知らず戻ってきたさだ子に、今ならバスに間に合うから家に帰りなさいと伝え、バス代を置いて立ち去る。さだ子は石井が逮捕されたことを悟り、号泣する。柚木は、さだ子がまた、夫の横川との暗く平凡な暮らしに戻ることに思いを馳せる。東京行きの切符を買った柚木は、東京に残してきた恋人の高倉弓子(高千穂ひずる)に、東京に帰ったら結婚しようと電報を打つのだった。

短編小説の長編映画化にありがちな、間延びした作品だった。平凡な暮らしのことを丁寧に描き過ぎていたり、山場の尾行も、やたら見失ったり追いついたり、山肌の発破待ちで待たされたり、を繰り返す。さすがに、実はさだ子が黒幕だった、みたいなどんでん返しはないのだった。当時は冷暖房もない蒸気機関車で、東京と佐賀を往復していたのか、といったことに驚いた。

【5段階評価】3

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2024年4月29日 (月)

(2657) 山河あり

【監督】松山善三
【出演】高峰秀子、田村高廣、小林桂樹、久我美子、ミッキー・カーチス、桑野みゆき、早川保、石浜朗
【制作】1962年、日本

ハワイに移民した家族の激動の運命を描いた作品。

大正7年。井上きしの(高峰秀子)と井上義男(田村高廣)の夫婦は、新天地ハワイに移民する。船で知り合ったすみ(久我美子)は郷田久平(小林桂樹)と結婚。ハワイで苦しみながらも生活の礎を築く。義男ときしのの息子、春男(早川保)と明(ミッキー・カーチス)、郷田家のさくら(桑野みゆき)と一郎(石浜朗)はハワイ二世となり、親とは日本に対する意識の持ち方が変わってくる。日本とアメリカの関係は悪化し、戦争に突入する気配があった。春男と義男は意見の対立から衝突し、興奮した義男が急逝。きしのは明とともに義男の遺骨を日本に持っていく。
日本はアメリカに宣戦を布告。きしのと明はハワイに戻れなくなり、米国籍の明は身柄を拘束され、衰弱して死んでしまう。春男と一郎は米兵として戦争に参加。日本がアメリカに降伏し、一郎は進駐軍として日本に渡り、食料を携えてきしのと明に会いに来るが、明が亡くなっていることを知る。ハワイに戻ったきしのは、春男の墓に明の眠る日本の土をまくのだった。

永遠の人」同様、高峰秀子が世代をまたいで生き抜く女性を演じている。「カルメン故郷に帰る」の能天気な娘から、本作のような悲劇のヒロインまで、多彩な役どころを演じる名優であることが分かる。高峰秀子特集を企画したBS松竹東急に感謝。郷田家の娘、さくらを演じた桑野みゆきが、由紀さおりのような愛嬌のあるかわいい顔立ちをしていた。

【5段階評価】4

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2024年4月28日 (日)

(2656) 沈黙のパレード

【監督】西谷弘
【出演】福山雅治、柴咲コウ、北村一輝、飯尾和樹、椎名桔平、檀れい、吉田羊、戸田菜穂、出口夏希、田口浩正、岡山天音、酒向芳
【制作】2022年、日本

東野圭吾の小説、ガリレオシリーズの映画化第3弾。少女失踪殺人の謎を追う。「真夏の方程式」の続編。

歌手を志していた高校出たての少女、並木佐織(川床明日香)が行方不明となり、3年後、静岡で白骨となって発見される。関与が疑われたのは蓮沼寛一(村上淳)。彼は、過去にも少女殺害の嫌疑がかかったが、沈黙を貫き通して無罪となっており、本件でも不起訴処分になっていた。刑事の内海薫(柴咲コウ)は、物理学者の湯川学(福山雅治)に協力を依頼する。蓮沼は佐織の住んでいた東京都菊野市に戻り、佐織の父親、祐太郎(飯尾和樹)の営む小料理屋「なみきや」に現れ、家族や常連客を挑発する。
菊野市で恒例の仮装パレードが行われることになり、なみきやの常連客らも参加。蓮沼は菊野市で、知人の増村栄治(酒向芳)の住むプレハブ小屋の物置部屋に住んでいたが、パレードの日、死体で見つかる。睡眠薬が検出され、死因は窒息死だった。湯川は、部屋の中に液体窒素を充満させて窒息死させたと推理。実験により、それが事実だと判明する。祐太郎の親友、戸島修作(田口浩正)の店の作業場から液体窒素が持ち出されていることが判明。佐織の恋人だった高垣智也(岡山天音)が液体窒素ボンベを蓮沼の住む小屋に運んでいた防犯カメラの映像が見つかる。複数犯による犯行が疑われ、祐太郎が計画にかかわっていたはずだと考えた湯川はなみきやを訪ねるが、そこに、佐織の歌唱レッスンをしていた新倉直紀(椎名桔平)が自首したという知らせが入る。
直紀は、娘のようにかわいがっていた佐織を蓮沼が殺したのか問い詰めようと、液体窒素を部屋に吹き込み、蓮沼が児童公園に佐織を連れ込んで殺したと白状したのを聞き、そのまま殺したと証言する。蓮沼の過去の少女殺人事件を立件できなかった刑事の草薙俊平(北村一輝)は、その線で事件を落着させようとするが、湯川は、容易に白状しないことを学んでいた蓮沼が自供をするとは思えず、それを草薙も分かっているはずだと見抜く。薫は、児童公園という具体的な情報を直紀が知っていることを根拠に、直紀が真実を話しているのではないかと湯川に問うが、湯川は、直紀が別の事情でそれを知っていたのだと考える。直紀の妻、留美(檀れい)は、かつて歌手を目指して直紀のレッスンを受けていたが、売れずに夢を断念し、直紀と結婚したという過去を持っていた。佐織は、智也の子を身ごもり、歌手の道を諦めると児童公園で留美に相談。留美が直紀の思いを無駄にするのかと佐織を問い詰めると、佐織は夢を押し付けるのは重荷だと言い、留美が自分に嫉妬していると言い返す。留美はとっさに佐織を突き飛ばし、佐織は頭を打って倒れる。留美は現場から逃げ出し、思い直して現場に戻ると、佐織の姿は消えていた。蓮沼が、留美と佐織が争う様子を目撃し、脅しのネタに使えると佐織を連れ去っだのだ。直紀は、妻から事情を聴かされ、佐織殺害の罪で自首しようとしていた妻を守るために、蓮沼を殺害していた。しかし湯川は、真相は別にあると考える。佐織は、留美に突き飛ばされたときには死んでいなかった。蓮沼は、ゆすり目的で佐織をさらったものの、佐織は死んでおらず、静岡への運搬中に息を吹き返したため、蓮沼自身が佐織の後頭部を殴って殺害していたのだ。佐織のつけていたバレッタ(髪留め)に血痕がなかったことが決め手となり、草薙は直紀に留美が殺人犯ではないという事情を説明。蓮沼を液体窒素で苦しめて犯行を自供させようという計画に加担した祐太郎らは何らかの罪に問われることにはなったが、事件は落着するのだった。

当たりはずれのある東野圭吾原作映画の中では、当たりの部類だろう。腹痛を訴えた客(しゅはまはるみ)の搬送のため、蓮沼の小屋に行けなくなった祐太郎の代わりに、佐織の妹の夏美(出口夏希)が実行役を担ったのでは、なんていうミスリードがほのめかされたり、佐織の身ごもった子供は、智也の子ではなく、直紀が教え子に手を出してできた子で、それを知った留美が佐織を殺したのか、なんて考えさせられたりもした。蓮沼の同居人で、彼に睡眠薬を盛った増村栄治が、過去の少女誘拐殺人事件の被害者遺族の母親(山田キヌヲ)の異母兄妹だったというくだりには、ホロリとさせられたが、「容疑者Xの献身」の感動を超えるには至らなかった。

【5段階評価】4

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2024年4月27日 (土)

(2655) カルメン故郷に帰る

【監督】木下惠介
【出演】高峰秀子、小林トシ子、坂本武、笠智衆、望月美恵子、佐田啓二、見明凡太郎、佐野周二
【制作】1951年、日本

東京で有名になった踊り子の娘が故郷に帰って起こす騒動を描いた作品。初の国産カラー映画。

浅間山のふもとで農業を営む青山正一(しょういち)(坂本武)のもとに、娘のゆき(望月美恵子)がやってきて、東京に家出して踊り子になった、妹のおきん(高峰秀子)が帰ってくることを知らせる。正一は娘に素直に会う気になれずにいたが、地元の校長先生(笠智衆)に説得され、娘を出迎える。おきんはリリー・カルメンと名乗り、友人のマヤ朱美(小林トシ子)を連れて派手ないでたちで地元に戻る。
小学校の運動会で、戦地で全盲になった田口春雄(佐野周二)が、自ら作詞作曲した曲を家族とともに披露するが、歌っているさなか、金貸しの丸野十造(見明凡太郎)が朱美にちょっかいを出し、驚いた朱美が飛び上がったとたんにスカートが脱げたため、人々は大爆笑。春雄は演奏ができなくなり、校長はリリーたちを追い返す。
リリーは名誉挽回に地元で踊りを披露しようと朱美に提案。十造は金儲けになると踏み、急ごしらえの劇場を準備する。裸で踊るという噂が地元に流れ、校長は止めさせようとするが、それを聞いた正一は、泣きながら、馬鹿な娘が一番かわいい、やらせてあげればいい、自分も笑いものになる、と校長に話す。意気に感じた校長は正一とともに、芸術のためと言いながら金の亡者になっていると十造に猛抗議。校長と正一は、小川先生(佐田啓二)と、ゆきの亭主、青山一郎(磯野秋雄)とともに、校長の家で酒を酌み交わす。劇場ではリリーと朱美が肌を露出した踊りを披露。観客たちはそれを楽しむ。
翌日、リリーと朱美は、人々に見送られながら地元を去る。上機嫌な十造は、春雄の借金のかたに取り上げたオルガンを返すと、春雄の妻、光子(井川邦子)に言い、光子は泣いて喜ぶ。リリーの稼ぎは正一の手に渡り、正一はそれを校長に託して、娘が地元に錦を飾ったと受け止めるのだった。

リリーの踊りが父親に認められるという筋書きなのかと思ったが、リリーの踊りは最後まで、男たちの歓心を買う低俗な見世物という扱いだった。公開当時27歳の高峰秀子が、はつらつとした歌と踊りを披露。父親の理解を得るには至らない、ほろ苦い終わり方だが、最後までリリーと朱美は明るくふるまっていた。

【5段階評価】3

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2024年4月26日 (金)

(2654) ナチュラル

【監督】バリー・レビンソン
【出演】ロバート・レッドフォード、グレン・クローズ、キム・ベイシンガー、ロバート・デュバル、ウィルフォード・ブリムリー
【制作】1984年、アメリカ

16年の空白期間を経て大リーガーになった男の活躍を描いた作品。

父親のエド・ホッブス(アラン・ファッジ)に野球を仕込まれた少年ロイ(ポール・サリバンJR.)は、若くして父親を亡くす。成長したロイ(ロバート・レッドフォード)は、ピッチャーとしてカブスの入団テストに招かれ、恋人のアイリス(レイチェル・ホール)と喜ぶ。テストに向かう汽車の給水中、ロイは大物スラッガーのワーマー(ジョー・ドン・ベイカー)と勝負する機会を得、彼から見事に三球三振を取る。それを見ていた黒ずくめの女性ハリエット・バード(バーバラ・ハーシー)は、宿泊先のホテルでロイに「最高の選手になるの? 」と問い、ロイが「ああ」と答えると、突然銃を取り出してロイを撃ち、ロイは倒れる。ハリエットは大物スポーツ選手を連続的に襲っていた人物で、ロイを撃った後、自死する。
16年後、負け続けの大リーグ球団NYナイツに、定位置ライトの野手としてロイ・ホッブスが現れる。監督のポップ(ウィルフォード・ブリムリー)は、中年デビューの男をいぶかしみ、全く試合に起用しないが、ライトのレギュラー、バンプ・ベイリー(マイケル・マドセン)が試合中にフェンスに激突して事故死し、ロイにレギュラーの座が渡る。ロイはホームランを量産して大活躍。ポップの姪メモ(キム・ベイシンガー)が彼に接近し、ロイとの交際が始まるが、とたんにロイはスランプに陥る。ロイの活躍を新聞で知ったアイリス(グレン・クローズ)は彼を球場に応援に行き、それを機にロイはスランプを脱出。チームはプレーオフに進出する。ところが、銀の銃弾が腹部に残っていたロイは腹痛を起こして入院。ナイツのオーナーで判事(ロバート・プロスキー)は、ナイツの負けに賭けており、ロイの戦列離脱を喜ぶが、ロイは怪我を押してプレーオフに出場。特大のホームランでチームをリーグ優勝に導くのだった。

最初は、銃殺された野球選手が亡霊となって球界で活躍するファンタジーものかと思ったが、そういうことではなかった。だとすると、ピッチャーだったのがスラッガーになって戻ってきたのが謎だし、途中でピッチングもすごいことが判明するシーンがある割に、ピッチャーとして活躍する流れはないなど、挿話が回収されずに放置されているのはなんだかな、だった。撃たれるのもなんだか唐突で、シリアルキラーに狙われているようなハラハラ感もない。スポーツものは感動に震える作品がいろいろある(「メジャーリーグ」とか「コッホ先生と僕らの革命」とか)が、本作はそうでもなかった。
ただ、サウスポーのロバート・レッドフォードの野球シーンは堂に入っていた。野球の特待生として大学に進学した経歴があるだけのことはあった。

【5段階評価】3

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2024年4月25日 (木)

(2653) 永遠の人

【監督】木下惠介
【出演】高峰秀子、仲代達矢、佐田啓二、加藤嘉、乙羽信子、田村正和
【制作】1961年、日本

望まぬ結婚を強いられた女性の半生を描いた作品。

昭和7年の阿蘇。小作人の娘、さだ子(高峰秀子)は、戦地にいる隆(佐田啓二)と思いを寄せ合っていたが、負傷して戻ってきた地主の息子、小清水平兵衛(仲代達矢)は横恋慕でさだ子を手籠めにする。地元に戻った隆はさだ子に夜逃げしようと約束し、さだ子は夜明けに待ち合わせ場所に向かうが、隆は直前で思い直し、さだ子の幸せを願って一人で旅立つ。
昭和19年。さだ子は平兵衛と結婚し、二男一女を儲けていたが、夫婦関係は冷え切っていた。家では平兵衛の父親の平左衛門(永田靖)が寝たきりになっており、彼が鈴を鳴らすとさだ子が世話をしなければならない。隆と大阪で結婚したが戦地に出ており、妻の友子(乙羽信子)が、息子を連れてさだ子の住む村に疎開してくる。平兵衛は手伝いに友子を雇い、さだ子と隆の関係を知子に話す。友子はさだ子に複雑な感情を抱き、さだ子に反発。平兵衛は友子の同情を買いつつ友子に言い寄るが、知子は拒絶。手伝いをやめ、地元に帰る。
昭和24年。さだ子は平兵衛に馬された長男の栄一(田村正和)を愛することができずにいた。平兵衛は過去の恨みを引きずるなとさだ子を責めるが、であればあなたは村に戻ってきた隆と私が会っても何も言わないのかと言い返す。隆は肺病を患って村に帰って来ていたのだ。さだ子と平兵衛の話は地元で有名であり、栄一は自分の出自の経緯を知って自分が母親に愛されない理由を悟り、遺書を残して失踪。探しに出たさだ子は、久しぶりに隆と再会。二人で栄一を探すが、栄一は阿蘇の火口に身を投げ、自殺してしまう。
昭和35年。さだ子と平兵衛の娘、直子(藤由紀子)が、隆の息子、豊(石浜朗)が結婚し、大阪に渡る。そのことをさだ子から聞かされた平兵衛は怒り、結婚を許さないと言い張って、隆を呼ぶよう、さだ子の父の草二郎(加藤嘉)に命じる。草二郎が隆を連れてくる道中、隆の別れた妻、友子が隆の前に現れる。友子は隆の看病をせずに逃げたことを謝罪し、息子の豊の居場所を隆に聞き出そうとするが、知子を恨んでいた隆ははねつけると、血を吐いて倒れてしまう。
昭和36年。死の床に臥せている隆のもとに、豊と直子が生まれた子を連れて帰ってくる。さだ子も枕もとで、生まれた孫がさだ子と隆の間にできた子供のようだと隆に話す。隆が、平兵衛に悪いことをした気がするので謝っておいてほしいと言ったのを聞いて、さだ子は居てもたってもいられず、自宅に走って帰り、囲炉裏端にいた平兵衛に謝罪して、直子の結婚を許してやってほしいと懇願する。平兵衛はそれでも結婚を許さなかったものの、自分は人の道には外れたがさだ子を愛していたことは本当だと心情を吐露する。さだ子は、平兵衛の許しが出たと隆に嘘をつくと言って家を後にする。すると、さだ子を呼ぶ声がし、平兵衛が杖を突いて家から出てくる。さだ子が自分を許すなら、自分も直子の結婚を許そうと言うのだ。平兵衛はさだ子に先に行くよう促し、さだ子を追うように隆の家に急ぐのだった。

戦前戦後の日本の映像に、激しいフラメンコの楽曲という独特な組み合わせが印象的。世代をまたがる長期間を描くので、退屈しそうだが、本作は一章から五章までの章立てで物語が進行し、小気味よく時代が移っていき、展開に中だるみがない。さだ子と平兵衛、そして隆の運命はどうなるのか、興味をそがれることなく見続けられた。映画の冒頭に登場する、記者に乗った若い男女が、主人公の娘でした、というのも、映画ではよくある演出ながら、「そういうことかぁ」という感慨が面白かった。役者の世代を超えた老けメイクも、古い作品にしては違和感がなかった。白黒映像のおかげかもしれない。
作中、「ちんば」や「かたわ」といった用語が登場するが、最近は「ピー」音入れずに流す風潮だな。

【5段階評価】4

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2024年4月24日 (水)

(2652) ロクな人生

【監督】ゴリ
【出演】橋本真美、ゴリ、大峰淳、照屋まさお、伊舎堂さくら、マスミ・ロドリゲス
【制作】2014年、日本

沖縄で夢をつかもうとする旅行雑誌記者を描いた作品。

旅行雑誌記者の上野(橋本真美)は、嫌味な課長(ゴリ)に異動させるぞと怒られ、沖縄に行くが、橋の上を歩いているとき、虫を追い払おうとしてカバンを川に投げ込んでしまい、ロクな人生じゃないと橋の上で泣く。そこにタクシーが通りかかり、運転手(照屋まさお)が上野を食堂に連れていき、Aランチを食べさせる。上野は食堂の女主人(マスミ・ロドリゲス)に取材をするが、彼女の恋バナを2時間聞かされるだけだった。さらに落ち込んだ上野がベンチで泣いていると、道端で飲む男(大峰淳)に励まされ、女子中学生ドラマー(伊舎堂さくら)のロックパフォーマンスを見に連れていかれる。感激した上野は、課長に「ロクな人生よりロックな人生を!」というコピーをたたきつけるのだった。

30分の短い作品。分かりやすくそつのない内容で、最後に異動を命じられるのは上野ではなく課長のほうだった、という落ちも軽快。ただ、そつがないことの裏腹でありきたりの内容でもあり、大きな感動があるかというと、そうでもなかった。

【5段階評価】2

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2024年4月23日 (火)

(2651) ロビンとマリアン

【監督】リチャード・レスター
【出演】ショーン・コネリー、オードリー・ヘップバーン、ニコル・ウィリアムソン、リチャード・ハリス
【制作】1976年、アメリカ

王の部下の身分から解放された男と修道女となった女の運命を描いた作品。

圧政を敷くリチャード獅子心王(リチャード・ハリス)に歯向かったかどで、相棒のリトル・ジョン(ニコル・ウィリアムソン)とともに死刑を待つ身となったロビン(ショーン・コネリー)だったが、自らの死期を悟った王は、旧友でもあったロビンを赦し、崩御する。王への従属から解放されたロビンとジョンは、古巣のシャーウッドの森に戻り、かつての仲間ウィル(デンホルム・エリオット)、タック(ロニー・バーカー)と再会。ロビンがかつて愛したマリアンが尼僧になったと聞き、ロビンは修道院に向かい、マリアンとの再会を喜ぶ。リチャード獅子心王の跡を継いだジョン王(イアン・ホルム)の指令により、ノッティンガム代官(ロバート・ショー)がマリアンを捕らえに来るが、ロビンはマリアンを連れて森に逃げ込む。マリアンは、戦いに身を投じて便りをよこさなかったロビンにそっけない態度をとっていたが、ロビンが連れ去られた他の修道女を命がけで救出し、彼のもとに悪性に苦しむ農民が集まってくる様を見て、彼が代官や王と戦うことを認める。
ノッティンガム軍がシャーウッドの森に進軍。彼らは森には入らず、平原に出てきたロビン軍を討つ作戦に出る。ロビンはノッティンガム代官に、一騎打ちによる決着を申し込む。長い戦いの末、ロビンは勝利するが、自身も重傷を負い、マリアンはロビンを修道院に連れていく。マリアンは薬を口にし、ロビンにも飲ませる。その薬は毒薬だった。ロビンはマリアンとともに逝く運命を受け入れ、「矢が落ちたところに俺たちを一緒に埋めてくれ」とジョンに頼み、矢を放つ。放たれた矢は空に消えていくのだった。

今どきこういう映画は作らないよなあ、と思える、退屈な昔話のような作品だった(退屈な昔話なんですけど)。オードリー・ヘップバーンが「暗くなるまで待って」以来9年ぶりの映画出演というのがせめてものトピックか。

【5段階評価】2

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2024年4月22日 (月)

(2650) ニライの丘~A Song of Gondola~

【監督】大城直也
【出演】神谷健太、津波真一、垣花きらら、松田ゆうな、仲本興次、ジョニー宜野湾
【制作】2010年、日本

空手を習わせてくれない父親に反発する中学生の心の成長を描いた作品。

中学生の桑江良(神谷健太)は空手を習いたいと父親の良造(津波真一)に頼むが、良造は幼い娘の風子(ふうこ)(垣花きらら)には優しいが良に冷たく、絶対に習わせてもらえない。良は友だちの凪(松田ゆうな)に借金して月謝を払い、空手を習い始めるが、父に見つかり、殴られる。良は父親に反発。祖父の良助(仲本興次)の家に泊まる。
留守番をしていた風子のもとに、良造の知り合いの男(藤木勇人)が現れ、風子に一方的に話しかける。男は突然、良は良造の本当の子ではないという話をする。その話は良の耳に入る。良は家出状態となり、迎えに来た良造に、自分の子じゃないから金がもったいなくて空手を習わせないんだろう、と叫ぶ。良造は良にうまく接することができないことを悩んでおり、良に何も言い返すことができなかった。良造は風子と観覧車に乗り、寝ている風子に対して、困った男の話をする。困った男には、好きになった女性(桃原(とうばる)遥)がいたが、自分を振り向かせることができず、イケメンの先輩を通じて自分を振り向かせようとするが、結果は、女性がその先輩と恋仲となって妊娠。先輩はアメリカに行ってしまい、空手の師匠になり、困った男はその女性のお腹の子の父親になろうとしたのだ、と。困った男とは明らかに良造のことだった。良造はイケメンの先輩、照屋(ジョニー宜野湾)に電話し、良に会ってもらう。照屋は良に気さくに話しかけ、家に帰りなさい、と優しく告げて立ち去る。良が家に帰ると、父親は背中を向けたまま、「良、一緒に食べよう」「良、もう寝なさい、休んでいいよ」と優しく話す。良は鳴き声で「ごめんなさい」と言うのだった。

はじめはスラップスティック風で間延びしたシーンが続き、全然面白くないのだが、良が良造の実の子じゃないと分かったあたりから物語がぎゅっと引き締まる。ぶっきらぼうな沖縄方言が作品の個性を引き立てて印象的だった。
ただ、残念なのはラストシーン。息子の良が「ごめんなさい」と謝って終わるのだが、二人の関係がぎくしゃくしたのは、良造も相当悪い。良造が良に向き合うなら、良造自身も謝るべきだった。息子だけが反省を表明したのは一方的。「ごめんなさい」は無条件降伏のようなもの。父親が戦勝国のような対応なのは、後味が悪かった。心で反省しても表明しないのは、反省していないのと見た目は同じなのである。

【5段階評価】3

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2024年4月21日 (日)

(2649) 美しい星

【監督】吉田大八
【出演】リリー・フランキー、亀梨和也、橋本愛、中島朋子、佐々木蔵之介
【制作】2017年、日本

自分が地球以外の惑星人だと悟った家族の運命を描いた作品。原作者は三島由紀夫。

お天気キャスターの大杉重一郎(リリー・フランキー)はある夜、車を運転中、強烈な光を浴び、気が付くと田舎の田んぼに車ごと突っ込んでいた。彼は自分が火星人だと悟り、番組内で地球温暖化の危機を視聴者に訴え始める。重一郎の息子の一雄(亀梨和也)は自分が水星人だと考えるようになり、娘の暁子(橋本愛)は自分が金星人だと悟る。一雄は国会議員の鷹森紀一郎(春田純一)の秘書の黒木(佐々木蔵之介)に導かれるように鷹森の秘書となる。鷹森は黒木の傀儡となって地球温暖化は長期的な気候変動の波に過ぎないと主張する。重一郎は鷹森に生放送中に食って掛かり、謝罪騒ぎとなる。謝罪コメントの収録中、重一郎はまたしても地球温暖化の危機を訴えはじめ、それをスタジオ内で見ていた黒木と論争になる。重一郎は自説が正しいことを証明するために空飛ぶ円盤を呼ぶと言って屋上に上がるが、血を吐いて倒れる。
地球人としての重一郎は末期がんだった。暁子はそのことを重一郎に伝える。重一郎の妻の伊余子(中島朋子)は、重一郎の願いを叶えるため、一雄と暁子とともに、重一郎を山奥に連れていく。重一郎はそこに現れた空飛ぶ円盤に乗り込む。空飛ぶ円盤は火星を目指していた。重一郎が窓から外を見ると、そこには地球人としての重一郎と、家族三人が空を見上げているのだった。

有名どころの俳優が出ており、重一郎がカメラの前で両腕を突き上げて奇妙なポーズを繰り返す姿には思わず笑ったりはしたのだが、意味不明な映画は好きではない。よってこの作品も好きにはなれなかった。結局、彼らが他の惑星人だと考えたのは妄想に過ぎなかったのか、事実だったのかは明かされない。金星人だと自称した竹宮(若葉竜也)は本当に金星人だったのか、それとも暁子に薬を盛って妊娠させた悪人なのかもわからないまま。こういうところはスッキリさせてほしかった。なお、原作では妻の伊余子は木星人を自覚するが、本作では「美しい水」のマルチ商法にひっかかる平凡な地球人という設定になっている。

【5段階評価】2

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2024年4月20日 (土)

(2648) 香港発活劇エクスプレス 大福星

【監督】サモ・ハン・キンポー
【出演】サモ・ハン・キンポー、ジャッキー・チェン、シベール・フー、ユン・ピョウ、西脇美智子
【制作】1985年、香港

警察の捜査に協力する盗人5人組の活躍を描いた作品。「五福星」の続編。

香港の刑事ジャッキー(ジャッキー・チェン)とリッキー(ユン・ピョウ)は、日本で犯罪組織を追っていたが、リッキーが犯罪組織にさらわれてしまう。香港警察は、服役中のデブゴン(サモ・ハン・キンポー)を捜査に協力させることにする。デブゴンは、仲間のハンサム(チャールス・チン)、念力(リチャード・ン)、ヒゲ(フォン・ツイファン)、ウスノロ(エリック・ツァン)を集め、美人の刑事ウー(シベール・フー)と日本に渡る。彼らは香港で銀行強盗を働いた6人組という偽情報をもとに、日本の犯罪組織「かかし組」に接近。彼らのあじとを突き止め、合流したジャッキーとともにリッキーを救い出し、犯罪組織の一斉逮捕に成功するのだった。

主な舞台が日本という、当時としては珍しい作品で、富士急ハイランドで奮闘するシーンが描かれている。お化け屋敷での戦闘に現実味はないが、アクションには見ごたえがあった。
デブゴンたちの一人が下着姿のウーの部屋に入り込み、強盗役に扮した仲間が、ウーと抱き合ったまま縛られて喜ぶという行為を順番に繰り返したり、ベッドのシーツの下に5人が隠れて寝転がったウーの感触を楽しんだり、といったシーンが1980年頃の古き悪しき(!)時代を偲ばせていた。美人ボディビルダーとして当時有名だった西脇美智子が、悪者側の壺振り兼用心棒役として登場し、切れのある動きと肉体美を披露している。

【5段階評価】3

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2024年4月19日 (金)

(2647) ボロボロな人

【監督】だいたひかる
【出演】水野透、阿部智則、黒田アーサー
【制作】2007年、日本

企画に困ったテレビスタッフが、息子の家庭内暴力を題材にする姿を描いた作品。

テレビスタッフの吉田茂(水野透)は、やらせ取材が上司(黒田アーサー)にばれ、視聴率20%超えの企画を考えないと首にすると言われる。困った茂は、息子の守(阿部智則)が自分に家庭内暴力を働く姿を隠し撮りすることにする。怪我をしながら息子に暴力をふるわれる映像に上司は満足し、茂は第2弾を期待される。テレビ局を出ると、外にはBMWに乗った守が待っていた。実は家庭内暴力の映像は狂言で、茂が怪我をしているのは嘘だった。茂は守に感謝の言葉を述べ、第2弾への協力を頼むと言って肩を叩くと、守は茂の腹を力任せに殴り「任せとけって、くずやろう」と言い、茂を乗せて車を走らせるのだった。

30分という短い作品。やらせ取材をして首になりそうな男が、身を削る迫真映像を撮ったと見せかけて、それもやらせでした、という落ちを見せながら、息子は父親に協力的な素直な子だったと見せかけて、実は本当に父親を馬鹿にしている息子でした、という再どんでん返しが用意されていた。どうしてもPOISON GIRL BANDの阿部という姿がちらついた。ハンディカメラの映像の素人くささを、それを逆手に取った設定ではあるが、それでもやっぱり素人くさい作品だった。

【5段階評価】2

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2024年4月18日 (木)

(2646) ペギー・スーの結婚

【監督】フランシス・フォード・コッポラ
【出演】キャスリーン・ターナー、ニコラス・ケイジ、バリー・ミラー、ケビン・J・オコナー、バーバラ・ハリス
【制作】1986年、アメリカ

高校時代に戻った女性が、自らの結婚を見つめ直す過程を描いた作品。

冴えないテレビタレントのチャーリー(ニコラス・ケイジ)を夫に持つペギー・スー(キャスリーン・ターナー)は、25年ぶりの同級生パーティに出席。ペギーは高校時代から付き合っていたチャーリーと結婚したが、彼の浮気などが原因で離婚間近。パーティにも夫を同伴せず、娘(ヘレン・ハント)と出席していた。ペギーはパーティで懐かしい友人と再会し、喜ぶが、チャーリーの話題になると顔を曇らせる。パーティの主役となるキングとクイーンが選ばれることになり、キングは、高校時代は本の虫だったがビジネスで成功したリチャード・ノービック(バリー・ミラー)が、そしてクイーンには若々しいドレスで出席したペギーが選ばれる。驚いたペギーはステージ上で卒倒。目が覚めると、そこは25年前の高校時代になっていた。ペギーは混乱しつつも、若い母親(バーバラ・ハリス)や妹のナンシー(ソフィア・コッポラ)との再会に喜び、ボーイフレンドのチャーリーとの付き合いを考え直す。ペギーは、秀才のリチャードに将来ヒットする商品のアイディアを伝えたり、文才のあるマイケル・フィッツシモンズ(ケビン・J・オコナー)に接近したりして、将来進む道を探る。チャーリーは、ペギーが他の男と一緒にいることにショックを受けつつも、ペギーに愛を語り続ける。ペギーは、チャーリーと二度も結婚するなどありえないと考えていたが、リチャードやマイケルとの結婚の道も選べない。ペギーは次第に、元の時代に残してきた子供たちに再会したいと強く考えるようになる。祖父母に会ったペギーは、自分が未来から来たことを告白。祖父(レオン・エイムズ)は時間旅行者がいるという秘密の会にペギーを招き、彼女を元の世界に戻す儀式を行う。停電が起き、ペギーは消失。しかしそれは、チャーリーがペギーをその場から連れ去っただけだった。ペギーはチャーリーの愛を本物と感じ、彼を強く抱きしめる。彼女は元の世界に戻る。
ペギーは、卒倒した後、危篤状態になっており、夢の世界で高校に戻っていたのだった。目を覚ますと、目の前にいたのは壮年のチャーリーだった。チャーリーは浮気相手と別れたことを告げ、ペギーとやり直したい意志を表明。ペギーはチャーリーを受け入れるのだった。

高校時代にタイムスリップするファンタジー作品なんだ、と思い、これはきっといろいろあった末にやっぱり元の夫と結ばれるんだろうと予想して観ていた。チャーリーと結ばれるという意味では半分当たりで、ファンタジーではなく夢の世界のできごとだったという意味では半分外れだった。高校時代と言いながら、ペギーが他のクラスメートよりおばさんくさい見た目であることが気になっていたのだが、夢なら説明がつく(単にメイクの限界だったのかもしれないが)。ちなみに、男の俳優(ニコラス・ケイジ、ジム・キャリーなど)は、女優(キャスリーン・ターナー、キャサリン・ヒックス、など)よりおしなべて10歳ほど若かった。

【5段階評価】3

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2024年4月17日 (水)

(2645) 影踏み

【監督】篠原哲雄
【出演】山崎まさよし、尾野真千子、北村匠海、中村ゆり、滝藤賢一、鶴見慎吾、大竹しのぶ、中尾明慶、竹原ピストル
【制作】2019年、日本

母と弟を失った双子の兄の周囲で起こる殺人事件や過去の無理心中の真相を描いた作品。横山秀夫の小説が原作。

深夜に住居に侵入して窃盗を働くノビ師の真壁修一(山崎まさよし)は、資産家の稲村家に忍び込む。すると、宅内に灯油をまいて火をつけようとしている稲村葉子(中村ゆり)に気づき、それを阻止。そこに刑事の吉川聡介(竹原ピストル)が立ち入り、修一は逮捕される。出所後、聡介が溺死体で発見される。修一は事件を追い、葉子に接近する。修一を「修兄(しゅうにい)」と慕う若い男(北村匠海)が、事件に深入りしようとする修一を諫めるが、修一は事件を追い続ける。
修一は双子で、啓二(北村匠海)という弟がいたが、啓二が窃盗で捕まり、中学教師だった母親(大竹しのぶ)は、絶望して家に火を放ち、啓二と無理心中していた。修一の幼馴染で恋人だった安西久子(尾野真千子)は、修一の罪を知りながら彼を思い続ける。久子は文具店を営む久能次朗(滝藤賢一)とお見合いし、求婚されていたが、それを断る。ところが男はプロポーズを続け、ついには久子の帰宅を狙って部屋に侵入し、久子に暴行を働く。久子はそれが次朗ではないと気づいていた。その男は次朗の双子の兄、新一郎(滝藤賢一、二役)だった。
聡介を殺したのは、修一の窃盗品を買い取っていた闇業者の大室誠(中尾明慶)だった。葉子の営むスナックで葉子に優しくされた大室は、葉子を振り向かせるため、葉子の周囲の男に片っ端から暴行していた。聡介も葉子の店に行ったことから、大室の魔の手にかかってしまったのだ。修一も大室に襲撃されるが、刑事の馬淵(鶴見慎吾)が現れ、大室は逮捕される。
次朗は粗暴な性格の新一郎に恋路や文具店経営など、人生を振り回されたことを恨み、衝動的に新一郎を殺害。修一は文具店に侵入し、次朗の罪を咎める。そこに突然、いつもの若い男が現れる。若い男は啓二の幻影だった。啓二との会話を終えた修一は、絶望する次朗に、生き続けるよう諭す。修一は啓二の幻影とたもとを分かち、久子と生きていくことを決めるのだった。

推理ものかと思ったが、聡介殺しの真犯人は取ってつけたような動機の犯人。二組の双子の運命を描いたヒューマンドラマだった。終盤、修一は、自転車の後ろに乗る啓二から、自分は母親に殺されたのではない、母親は途中で心中を思いとどまり自分を逃がそうとしたが、自分が母親を置いて逃げる選択をせず、母親と運命をともにしたのだと告白される。実在の人物のようにふるまっていた若い男が、啓二が幻影だったという、映画でときどきあるトリック(思えば序盤で、修一と啓二が図書館で言い争っているのを見て利用者が逃げ出すシーンがあるが、これは実は修一が独り言で「うるせえよ!」と言っているのを周囲が気味悪がっていたという伏線になっていた)とともに、無理心中の真相が明かされるという、悲劇の中にも救済のあるどんでん返しが用意されていた。このあたりの物語の重厚さは、さすが横山秀夫原作というところ。とは言え、修一と啓二の双子の運命はともかく、久能新一郎と次朗の双子の話まであるのは、ややこしすぎた。映画に登場する双子は一組でお願いしたい。

【5段階評価】3

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2024年4月16日 (火)

(2644) とんがり頭のごん太 -2つの名前を生きた福島被災犬の物語-

【監督】西澤昭男
【出演】石川由依(声)、斉藤暁(声)、ブリドカットセーラ恵美(声)、神尾佑(声)
【制作】2022年、日本

東北大震災で被災した一家と、はぐれた飼い犬との再会を描いたアニメ作品。

2011年3月11日、浪江町で食堂を営む富田家は東北大震災に見舞われ、店主の清(斉藤暁)や息子の正樹(神尾佑)夫婦らは飼い犬のごん太を置いて避難せざるを得なくなる。関西出身の大学生、吉野由紀(石川由依)は、被災したペットを保護するボランティアに参加し、福島の街を徘徊していたごん太を保護する。
由紀はごん太にピースと名付け、保護した他の犬とともに世話をする。ごん太は悪性リンパ腫を患っており、ごん太を飼い主に引き合わせたい由紀は、マスコミに掛け合ってごん太を記事に取り上げてもらう。掲示板でごん太を見つけた清は正樹に報告。正樹が家族とともにごん太に再会する。やがて清とも再会したごん太は、余命1か月と言われながらも1年近く生き続けるが、2012年2月8日、由紀らに看取られて息を引き取る。雑誌記者の中井(岩田光央)の計らいで、ごん太を偲ぶ会が開かれ、清は感謝の言葉を、由紀はペットの保護活動を続ける言葉を語るのだった。

実話に基づく作品のように見えて、最後に「この物語はフィクションです」と出る。エデュテイメント作品であり、ボランティアにまつわるダークな部分などは描かれず、一人クレーマーのような婦人が登場するが、善人ばかりが登場する。泣ける話ではあったが、ちょっと話が長かった。

【5段階評価】3

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2024年4月15日 (月)

(2643) ブルージャスミン

【監督】ウディ・アレン
【出演】ケイト・ブランシェット、サリー・ホーキンス、アレック・ボールドウィン、ボビー・カナベイル
【制作】2013年、アメリカ

虚飾に満ちた生活を送る女性の運命を描いた作品。

おしゃべりで情緒不安定な女性、ジャネット・フランシス、自称ジャスミン(ケイト・ブランシェット)が、妹のジンジャー(サリー・ホーキンス)の家を訪ねてくる。ジャスミンは夫のハル(アレック・ボールドウィン)と豪勢な暮らしをしていたが、ハルは実は詐欺師で、それが発覚して刑務所行となり、獄中で自殺。無一文となったジャスミンは、生活を立て直すまでジンジャーの家に居候になることにしたのだ。ジンジャーは元夫のオーギー(アンドリュー・ダイス・クレイ)と離婚しており、二人の子供がいた。オーギーはかつて、宝くじで20万ドルを当てており、事業を起こす相談をハル夫妻にしたところ、資金をハルに託すようジャスミンに勧められた結果、20万ドルを失った経験があり、ジャスミンを激しく恨んでいた。
ジャスミンは酒と精神安定剤に頼る暮らしをしながらも、インテリア・コーディネーターになるべくパソコンの勉強から始める。収入のため歯科の受付係を始めるが、歯科医(マイケル・スタールバーグ)に言い寄られて襲われそうになり、仕事をやめざるを得なくなる。ジンジャーの恋人のチリ(ボビー・カナベイル)は粗野な男でジャスミンとは馬が合わず、ジンジャーの家に長居するのも難しかった。新たな出会いを求め、友人の誘いでパーティに参加したジャスミンは、国務省に勤めるドワイト(ピーター・サースガード)と出会い、とっさに自分がインテリア・コーディネーターで夫と死別し、子供はいないと嘘をつく。ドワイトと急接近し、婚約の運びとなったジャスミンは、ドワイトと二人で婚約指輪を買いに宝石店に入ろうとしたところ、オーギーに呼び止められる。オーギーは、ジャスミンとハルの詐欺に遭った恨みをぶつけ、息子が楽器店で働いていた、と告げて立ち去る。ドワイトはジャスミンの嘘に怒り、二人の婚約は破談となる。ジャスミンがジンジャーの家に戻ると、ジンジャーはチリと仲良くしていた。ジャスミンは、チリのようなつまらない男と一緒になっているから今の生活から抜け出せないのだと妹をなじると、家を出ていく。あてもなく公園のベンチに座ったジャスミンは、いつものように大きな独り言を言い続けるのだった。

バッドエンドのブラックコメディ。ジンジャーが、一度はアル(ルイ・C・K)という男と恋仲になってチリと疎遠になるも、アルに妻がいることが発覚して関係が切れ、チリとよりを戻すというハッピーエンドを迎えるのに対し、ジャスミンは何もうまくいかず、希望の光がないまま映画が終わる。俳優の演技力に見ごたえのある作品だが、メッセージ性は特にない娯楽作品だった。自分を飾って見栄を張り、嘘をつくのはやめましょうということか。

【5段階評価】3

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2024年4月14日 (日)

(2642) SING/シング: ネクストステージ

【監督】ガース・ジェニングス
【出演】マシュー・マコノヒー(声)、リース・ウィザースプーン(声)、ボビー・カナベイル(声)、ボノ(声)
【制作】2021年、アメリカ

地方の劇場で活躍する動物たちが、より大きな舞台を求めて奮闘する3DCGアニメ作品。「SING/シング」の続編。

地元の劇場で大評判のステージを披露しているバスター・ムーン(マシュー・マコノヒー/内村光良)ら一団は、ショービズ都市レッドショア・シティでの興行を目指す。伝説の大物歌手クレイ・キャロウェイ(ボノ/稲葉浩志)を仲間に引き入れ、見事なステージを披露するのだった。

やはり音楽の力はすごい。3DCGによる、音楽に負けないダイナミックな映像が、感動を盛り上げる。観ていて思わず声が出るほどの素晴らしい作品だった。ゴリラのジョニー(タロン・エガートン/大橋卓弥)が苦労してダンスを身に付けたり、ステージのボス、ジミー・クリスタル(ボビー・カナベイル/大塚明夫)のわがまま娘ポーシャ(ホールジー/アイナ・ジ・エンド)が主役を明け渡して脇役を生き生きと演じたり、15年間歌ってこなかったクレイがヤマアラシのアッシュ(スカーレット・ヨハンソン/長澤まさみ)のパフォーマンスを目にして歌に加わったり、感動的な話が目白押し。胸が熱くならざるを得なかった。いつもはアニメだろうが何だろうがオリジナル音声で鑑賞するのだが、本作はやはり、MISIAや稲葉浩志のように、音楽活動でしかお目にかかれない人物の声優ぶりが聞けるとあって、日本語吹き替えを楽しんだ。稲葉浩志はライオンの役だが、話し声は甘めのハイトーンだった。

【5段階評価】5

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2024年4月13日 (土)

(2641) エイジ・オブ・イノセンス 汚れなき情事

【監督】マーティン・スコセッシ
【出演】ダニエル・デイ=ルイス、ミシェル・ファイファー、ウィノナ・ライダー、ミリアム・マーゴリーズ
【制作】1993年、アメリカ

婚約者のいる男の恋の葛藤を描いた作品。

アメリカの上流社会に生きる弁護士のニューランド・アーチャー(ダニエル・デイ=ルイス)には、メイ(ウィノナ・ライダー)という若く美しい婚約者がいた。彼は幼馴染のエレン(ミシェル・ファイファー)に再会。彼女は夫との離婚に悩んでおり、ヨーロッパからアメリカに戻ってきていたが、ニューランドは彼女に離婚を思いとどまるよう説得。しかし、ニューランドはエレンと会うごとに、彼女の魅力にひかれていく。メイは鋭い感でニューランドが自分との結婚をためらっているのでは、と疑う。ニューランドは彼女との結婚に踏み切るが、エレンへの思いは募るばかり。彼女と秘密の逢瀬を重ね、彼女と熱い口づけをするに至る。エレンとつかず離れずの関係を続ける中、エレンはヨーロッパに渡って自立することになる。ニューランドはメイに、旅行に行きたいと告げるが、メイは自分が妊娠したと告白。ニューランドの旅行は幻となり、メイが病死するまで共に過ごす。息子のテッド(ロバート・ショーン・レナード)は成長して建築家となる。ヨーロッパに出張中のテッドは、57歳になったニューランドをヨーロッパに呼び寄せ、エレンに会いに行くと言い、彼女の住むアパートまでニューランドを連れていく。ニューランドはエレンに会うことなく、その場を立ち去るのだった。

ニューランドは、エレンへの断ち切れぬ思いをメイや周囲には隠し続けていたが、メイにはお見通しだった、というのが本作の含意。無邪気で可憐な表情の裏には、夫を自分につなぎとめる狡猾さがうかがわれる。メイの表情や企みは一切描かずに、それをほのめかす描き方が独特。光るのあたる範囲がニューランドとエレンだけに絞られたり、ニューランドの背景の光が赤く染まったり、彼の顔に光が強く当たったり、といった光の使い方も特徴的だった。

【5段階評価】3

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2024年4月12日 (金)

(2640) フィラデルフィア

【監督】ジョナサン・デミ
【出演】トム・ハンクス、デンゼル・ワシントン、アントニオ・バンデラス、ジェイソン・ロバーズ、メアリー・スティーンバージェン
【制作】1993年、アメリカ

エイズに侵された弁護士の不当解雇を巡る法廷劇を描いた作品。

フィラデルフィアの大手法律事務所、ワイアント事務所に勤める弁護士アンドリュー・ベケット(トム・ハンクス)は、上司のチャールズ・ウィーラー(ジェイソン・ロバーズ)から重要な裁判の担当を任されるが、ほどなくして解雇される。アンドリューはエイズを患っており、同性愛者だった。アンドリューは、エイズであることによる不当解雇だと事務所を訴えるため、弁護士のジョー・ミラー(デンゼル)を頼る。同性愛者を嫌悪していたジョーだったが、依頼を引き受ける。
次第に同性愛者に対する理解と共感を深めていくジョーは、巧みな弁護で被告側の弁護士ベリンダ・コーニン(メアリー・スティーンバージェン)と渡り合い、勝訴する。しかし、判決の直前、アンドリューは病状が悪化して法廷で昏倒し、病院に運ばれる。ジョーはアンドリューを見舞うが、その晩、彼はパートナーのミゲル(アントニオ・バンデラス)に見守られて息を引き取る。アンドリューの家族や知人たちはアンドリューを偲ぶ会を開き、ジョーは妻のリサ(リサ・サマーラー)と娘のラリースを連れて参加。フィラデルフィアの兄弟愛が称えられるのだった。

世界を代表する名優トム・ハンクスが主演男優賞を初受賞した作品。エイズで衰弱していく男を演じる姿は見ごたえがある。一方で若干残念なのは、エイズが同性愛者特有の病であるという偏見そのままに作品が作られている点。当時は仕方のないことだったのかもしれないが、エイズへの偏見を問題視すると同時に、偏見を助長する要素も併せ持つ作品だ。

【5段階評価】4

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2024年4月11日 (木)

(2639) プレイス・イン・ザ・ハート

【監督】ロバート・ベンソン
【出演】サリー・フィールド、ダニー・グローバー、ジョン・マルコビッチ、エド・ハリス、エイミー・マディガン
【制作】1984年、アメリカ

一家を守るために奮闘する未亡人を描いた作品。

酔った少年の銃の暴発で、保安官のロイス・スポルディング(レイ・ベイカー)が死亡。妻のエドナ(サリー・フィールド)、息子のフランク(ヤンクトン・ハットン)、幼い長女のポッサム(ジェニー・ジェームズ)が遺される。エドナは住宅の借金を抱えることになり、銀行員のデンビー(レイン・スミス)は家の売却を勧めるが、エドナは反対。流れ者の黒人、綿花栽培の心得があるというモーゼス(ダニー・グローバー)を家に置いて、綿花栽培を始める。
デンビーはエドナの収入の足しにと、戦争で失明した義弟のウィル(ジョン・マルコビッチ)を紹介し、エドナの家に下宿させることを提案。エドナはしぶしぶ了承する。はじめは干渉を嫌うウィルだったが、次第にエドナ一家に溶け込んでいく。
重労働や大嵐にも耐えながら、綿花は収穫の時期を迎えるが、綿花相場は低く、エドナの収入見込みは借金の返済額に届かない。エドナは、綿花収穫の一番乗りに100ドルの賞金が出ることを知り、家族総出で綿花の収穫を始める。無謀な挑戦にモーゼスは反対するが、エドナの強い意志に従わざるを得ず、労働者を雇い入れることで一番乗りを果たす。モーゼスは喜ぶが、黒人差別者の襲撃を受け、エドナの家を出ることを決める。エドナは悲しむが、モーゼスを勇気づけて送り出す。エドナの一家は教会の礼拝に参加。そこには浮気をして妻(リンゼイ・クローズ)に失望されたウェイン(エド・ハリス)が妻と手を取り合い、亡くなったロイスの横には彼を撃った少年も並んでいるのだった。

エドナの奮闘記ではあるが、エドナの姉で美容師のマーガレットの夫、ウェインが友人夫婦の妻で教師のバイオラと浮気をして、それが妻にばれるというエピソードも進行。1935年頃のアメリカを切り取ったような内容にもなっており、ロイスを撃った黒人少年が引き回しの末、死体のまま木に吊るされるという仕打ちを受けたり、黒人のモーゼスが理不尽な暴力を受けたり、といった様子も描かれていた。

【5段階評価】3

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2024年4月10日 (水)

(2638) ビニー/信じる男

【監督】ベン・ヤンガー
【出演】マイルズ・テラー、アーロン・エッカート、キアラン・ハインズ
【制作】2016年、アメリカ

不慮の事故に遭ったボクサーの復活劇を描いた作品。実話に基づいている。

減量に苦しんでいたボクサーのビニー・パジェンサ(マイルズ・テラー)は、コーチのケビン(アーロン・エッカート)の指導のもと、2階級上げてタイトルマッチに挑戦し、見事に勝利。その直後、車の正面衝突の交通事故に遭い、首を骨折。ハローという器具で頭部を固定され、歩けるようになるかすらわからないと医者に言われるが、ビニーは再びボクシングで戦うことを諦めず、ケビンと自宅の地下室でトレーニングを再開。
6か月後、激痛に耐えて麻酔なしでハローを除去。再戦を希望するが相手が見つからない中、1階級上のデュラン戦が決まる。ビニーは序盤は苦戦するものの後半押し返し、12ラウンドを戦い切って判定勝利を手にするのだった。

ボクシングの試合での選手の動きは、殴られてふらついたりする動きが素人っぽく嘘くさいのは残念。それでもクライマックスのデュラン戦は熱い展開。最後に大きな悲劇が起きやしないかとひやひやするが、見事勝利。フィクションだったら出来過ぎだが、実話なのがすごかった。エンドロールでは、実際のビニー・パジェンサや家族の映像が流れる。ビニーは実物と俳優があまり似ていないが、家族やコーチは俳優が本人の特徴をとらえているのが面白かった。イケメン俳優アーロン・エッカートが、腹が出て禿げ上がったコーチのケビンを演じているのも見どころ。

【5段階評価】3

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2024年4月 9日 (火)

(2637) われらが背きし者

【監督】スザンナ・ホワイト
【出演】ユアン・マクレガー、ステラン・スカルスガルド、ナオミ・ハリス、ダミアン・ルイス
【制作】2016年、イギリス、フランス、アメリカ

ロシアンマフィアの資金洗浄役の亡命劇を描いたサスペンス作品。

大学教授のペリー(ユアン・マクレガー)は、弁護士の妻ゲイル(ナオミ・ハリス)とモロッコ旅行中、ディマ(ステラン・スカルスガルド)という富豪と出会う。ディマはペリーをとゲイルを強引に自分のパーティに招待。彼はそこで、自分がロシア・マフィア「ボーリー」の口座管理役であり、新たなボス、プリンスに家族全員殺されそうになっているとペリーに告げ、MI6に情報を渡してほしいとUSBメモリを託す。ペリーは空港でMI6のヘクター(ダミアン・ルイス)とルーク(ハリド・アブダラ)にUSBメモリを渡す。
ヘクターは上司のマトロック(マーク・ゲイティス)に、プリンス(グレゴリー・ドブリギン)が英下院議員で貿易金融委員会のトップ、オーブリー・ロングリッグ(ジェレミー・ノーサム)と接触し、ロンドンに資金洗浄のためのアリーナ銀行を設立しようとしていると説明。マトロックはヘクターの捜査に反対するが、ヘクターは自らの意志で捜査を進める。
ディマはベルンでプリンスに口座を譲渡することになり、その後に家族ともども殺される疑いが濃厚となる。ヘクターはペリーとゲイルに協力を依頼。パリの美術館でペリーとゲイルがディマと接触。ヘクターらは、プリンスの腹心エミリオ・デル・オロ(ベリボール・トピッチ)らの監視をかいくぐり、ディマから贈賄情報の一部を入手する。ディマは追加の情報はベルンでの取引後に渡すと告げる。
ヘクターらは、ベルンでディマの家族を保護。別行動中のディマは、ホテル内でエミリオ側の厳しい監視下にあったが、監視役を不意打ちし、駆け付けたペリーとともに脱出。家族と合流したディマは、ヘクターのチャーターした飛行機でロンドンに飛ぼうとするが、ロングリッグの差し金でディマ一家の入国禁止措置が取られたという報告がヘクターに入る。ディマ一家とペリー夫婦はフレンチ・アルプスの山小屋に潜伏することにする。しかし、ディマの長女ナターシャ(アリシア・フォン・リットベルク)がロシア・マフィアのアンドレイ(マレク・オラベック)の子を身ごもっており、彼女が彼に電話連絡したため、ディマ一家の居場所が分かってしまい、山小屋は襲撃を受ける。ディマは殺し屋に襲われるが、ディマから拳銃を託されていたペリーが殺し屋を撃ち殺す。
ディマはヘクターの求めに応じ、家族に先んじてヘリでロンドンに渡ることにする。ペリーもディマに同行するが、ヘリに乗る直前、ディマはペリーに残るよう言い、ルークとヘリに乗り込む。ペリーはゲイルに電話し、ディマがヘリで飛び立ったと報告するが、その直後、ヘリは白煙を上げて操縦不能状態となり、爆発する。ディマの家族たちは嘆き悲しむ。
ペリーはヘクターの家を訪ね、ディマから託された拳銃を渡す。銃身には、収賄を受けた者の口座番号のリストが隠されていたのだった。

写実的な映像で一級品のサスペンス作品に仕上がっていた。豪華なパーティや一流銀行、ホテルの装飾が、映像の魅力を引き立たせ、ステラン・スカルスガルドの演じるロシア・マフィアの迫力も素晴らしかった。

【5段階評価】4

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2024年4月 8日 (月)

(2636) 現代やくざ 与太者の掟

【監督】降旗康男
【出演】菅原文太、待田京介、山城新伍、若山富三郎、安部徹
【制作】1969年、日本

やくざの世界で生きる男の運命を描いた作品。

やくざに絡まれた女性(藤純子)を助けようとして傷害罪で服役していた勝又五郎(菅原文太)が出所。五郎は電車内でスリ(大辻伺郎(しろう))に有り金を掏られ、職員に捕まるが、荒尾組の福地鉄男(待田京介)が乗車賃を貸し、五郎を助ける。五郎が金を返しに福地を訪ねると、福地は組長の荒尾(安部徹)に鉄砲玉を命じられたところだった。五郎は勝手に福地に加勢。福地は五郎を気に入り、二人は兄弟分の関係となる。
五郎はヤッパの政(山城新伍)の率いるチンピラ集団に兄貴と慕われ、銀行でパクリ屋を成功させる。荒尾はパクった手形を横取りしようとし、福地は五郎をかばうが、荒尾に親子の盃と兄弟の盃とどちらが大事かと問われ、五郎と闘わざるを得なくなる。その場は荒尾の兄弟分の五代竜三(若山富三郎)が収めるが、荒尾はなおも五郎たちの手に入れた手形を取り上げようとする。福地は親子の盃に背くことはできず、五郎との戦いにわざと負けて仁義を通し、果てる。五代は荒尾組に乗り込み、荒尾に挑みかかるも何発も銃弾を浴び、絶命。五郎は単身で荒尾組に乗り込み、満身創痍になりながら荒尾を葬るのだった。

銃のある時代にドス一本で大勢のヤクザに向かっていくという、戦術の合理性が皆無の様式美だけの戦いが延々と繰り返される内容。つまらないかもなあと思いながら観てみたが想像以上につまらなかった。若く髪の豊かな石橋蓮司や小林稔侍が見られるのが数少ない見どころか。

【5段階評価】2

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2024年4月 7日 (日)

(2635) サヨナライツカ

【監督】イ・ジェハン
【出演】西島秀俊、中山美穂、石田ゆり子、マギー、加藤雅也
【制作】2010年、韓国

タイで出会った男女の恋を描いた作品。

弱小航空会社に勤める東垣内(ひがしがいとう)豊(西島秀俊)は、婚約者の尋末(たづすえ)光子(石田ゆり子)を日本に置いてタイに長期出張。同僚の木下(マギー)を通じて、真中沓子(まなかとうこ)(中山美穂)という女性と出会う。沓子は豊のホテルに突如現れて下着を脱ぎ、豊と肉体関係を結ぶ。豊は光子にばれないようにしながら沓子との関係に溺れていく。しかし、光子はタイにやってきて沓子に会い、戸惑う沓子に、豊の前から消えるよう告げる。沓子はニューヨークに飛び、豊は彼女を見送った後、嗚咽する。
25年後、副社長となった豊は再びタイに飛ぶ。宿泊予定のホテルに向かうと、VIP担当マネージャーとして現れたのは沓子だった。豊はずっと会いたかったと沓子を抱きしめる。しかし、沓子は病に侵されており、帰らぬ人となる。豊は、かつて沓子と乗ったメルセデスベンツ500Kロードスターを駆り、彼女への思いを振り払うように絶叫する。オフィスに戻った豊は、窓ガラスに映る沓子の幻影に、愛してると繰り返すのだった。

激しめの濡れ場があるものの、退屈で感情移入できない作品だった。色情狂の沓子と婚約者がいる豊の肉体関係が、いつの間にか純愛のようになっているのが理解しがたく、その時点でほとんど共感できないのだが、「まあ、沓子が病気という設定で不倫を正当化していないだけましかぁ」と思ったら、沓子が突然亡くなり、実は延命措置をしていました、という落ち。豊と沓子が惹かれ合う理由が描かれておらず、美男美女だから(要するに性欲目的)としか思えない。それを美談にしようとしたり、くっついたり離れたりを見せられたりしても、全く心が揺さぶられないのだった。
ちなみに本作はAmazonプライムで視聴した。

【5段階評価】2

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2024年4月 6日 (土)

(2634) 決断の3時10分

【監督】デルマー・デイビス
【出演】バン・ヘフリン、グレン・フォード、レオラ・ダナ、ロバート・エムハート、リチャード・ジャッケル
【制作】1957年、アメリカ

強盗団のボスを護送する男の死闘を描いた西部劇。2007年に「3時10分、決断のとき」としてリメイクされている。

ベン・ウェイド(グレン・フォード)率いる強盗団が、バターフィールド(ロバート・エムハート)の駅馬車を襲い、抵抗した御者ビル・ムーンズが殺される。その場に居合わせたダン・エバンス(バン・ヘフリン)はベンの逮捕に協力。保安官はベンを3時10分コンテンションシティ発の列車まで護送することにし、生活苦にあえいでいたダンは、200ドルの報酬目的に護送に協力することにする。
ベンは10,000ドルをえさに自分を逃がせとそそのかすが、ダンはベンの申し出を拒否。コンテンションシティにベンがいることを知ったベンの部下チャーリー(リチャード・ジャッケル)は仲間を呼び、護衛の一人アレックス(ヘンリー・ジョーンズ)を撃ち殺してベンとダンを待ち伏せする。バターフィールドは絶望的な状況を前に退散しようとダンに提案するが、ダンは家族のために護送をやり遂げると決断。心配してコンテンションシティまで来た妻アリス(レオラ・ダナ)の制止も振り切り、ベンを連れて駅に向かう。ベンはダンの行動に従い、最後は自ら動き出した列車に乗り込み、ダンもそれに続く。ダンの護送は成功し、アリスとバターフィールドはダンの無事を喜ぶのだった。

主役はダンだが、不敵なボス、ベン・ウェイドも主役級の役どころ。「3時10分、決断のとき」に比べると物語はシンプルで、犠牲者は出るがハッピーエンドになっている。さらに古い西部開拓の時代がうまく白黒で映像化されていた。

【5段階評価】3

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2024年4月 5日 (金)

(2633) いちご白書

【監督】スチュアート・ハグマン
【出演】ブルース・デイビソン、キム・ダービー、バッド・コート、ダニー・ゴールドマン、マーレイ・マクロード
【制作】1970年、アメリカ

学生運動に熱を上げる学生たちを描いた青春映画。

ボート部のサイモン(ブルース・デイビソン)は、ルームメイトのチャーリー(ダニー・ゴールドマン)が連れ込んだ女から学生運動の話を聞かされ、学長室を占拠中の学生たちの仲間に加わる。食料係になったサイモンは、チャーミングな女性リンダ(キム・ダービー)と食料を調達。リンダには彼氏がいたが、二人はやがて恋仲となる。
サイモンは黒人住民に公園を開放する運動をしていたにもかかわらず、リンダと公園に行くと有色人種の5人組に絡まれ、持っていたビデオカメラを踏み潰されてしまい、無力感を味わう。大学側は州兵を用いた実力行使で大学施設を占拠する学生の排除にかかる。体育館に集まった学生に催涙ガスがまかれ、学生たちは警棒を持った州兵に排除されていく。リンダが州兵から暴力を受けているのを見て、サイモンは州兵を押しのけ、リンダを取り囲む州兵に飛びかかるのだった。

学生運動への熱意を語る場面と、ボート部の練習やレコード店での買い物のような学生生活の日常が写実的に描かれている。当世を切り取った代表作とは言えるものの、内容自体は退屈だった。

【5段階評価】2

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2024年4月 4日 (木)

(2632) ポーラー・エクスプレス

【監督】ロバート・ゼメキス
【出演】トム・ハンクス(声)、ダリル・サバラ(声)、ジョシュ・ハッチャーソン、ノーナ・ゲイ(声)
【制作】2004年、アメリカ

北極点に向かう列車に乗り込んだ少年の冒険を描いた3DCGアニメ作品。

サンタクロースの存在を信じなくなった少年、ヒーロー・ボーイ(ジョシュ・ハッチャーソン)は、イブの夜、家の横に蒸気機関車が停まるのを発見。車掌(トム・ハンクス)に導かれて列車に乗り込む。ヒーロー・ガール(ノーナ・ゲイ)やロンリー・ボーイ(ピーター・スコラリ)といった子ども達とともに、大勢のエルフのいる北極点に到達。サンタ(トム・ハンクス、複数役)に鈴をもらい、家に帰る。彼はもらった鈴とともに、信じることを大切にするのだった。

3DCG技術が洗練される少し前の作品。「シュレック」や「シュレック2」と同時期で、同程度のクオリティ。人間の再現度が低く、動きや表情、目の焦点なんかが心許ない。エルフのおじさん顔も感情が乏しく、不気味の谷を超えきっていなかった。列車が氷上を滑ったり、ジェットコースターのような走りをしたり、といったハプニングも、唐突かつ不連続で、ストーリー上必要というより、CG技術を見せたいようにすら思えた。
トム・ハンクスの芸達者ぶりには頭が下がるが、明らかに複数の人間を一人の役者が演じていることが聞いていて分かるので、それに何の意味があるのかが理解しがたかった。誰かが本を読み聞かせているような効果を狙ったのかもしれないが、何かの伏線か、と疑われた。もしトム・ハンクスの器用さをアピールしたかったのであれば、彼個人のファンならともかく、観客の関心とは必ずしも一致しないだろう。
なお、本作の主人公ヒーロー・ボーイは、声をダリル・サバラが、パフォーマンスをジョシュ・ハッチャーソンが演じている。後者は「(声)」ではなく何と書けばいいのか迷ったのだが、これまでも実写映画で着ぐるみに入っている人物にはかっこ書きを付けなかったので、それに倣うことにした。

【5段階評価】3

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2024年4月 3日 (水)

(2631) ノートルダムの鐘

【監督】ゲイリー・トルースデール
【出演】トム・ハルス(声)、デミ・ムーア(声)、ケビン・クライン(声)、トニー・ジェイ(声)
【制作】1996年、アメリカ

ノートルダム寺院に幽閉された奇形の青年の活躍を描いたディズニーアニメ。

ジプシーを迫害する判事フロロー(トニー・ジェイ)は、ジプシーから奇形の赤子を取り上げ、井戸に捨てようとするが、ノートルダム寺院の司祭に咎められ、赤子を寺院に幽閉して育てることにする。成長したカジモド(トム・ハルス)は、若いジプシーの女性エスメラルダ(デミ・ムーア)に出会い、恋をする。フロローもエスメラルダの虜になりつつ、自分の意に沿わないなら死刑にしようとし、正義感の強い兵隊長フィーバス(ケビン・クライン)にエスメラルダを捕らえるよう命じる。フィーバスはフロローの残虐なやり方に逆らい、自分自身もフロローに追われる身となる。エスメラルダはフロローに追われて負傷したフィーバスをノートルダム寺院に運び込み、彼を匿ってほしいとカジモドに頼む。カジモドはエスメラルダとフィーバスが愛し合っていることを知り、悲しみながらもそれを引き受ける。
フロローがジプシーの根城に攻め込むことを知ったカジモドとフィーバスは、ジプシーを救おうとするが、三人ともフロローの軍勢に捕らえられてしまう。フロローはエスメラルダの心を支配できないことを知り、彼女を火あぶりにしようとするが、それを見たカジモドは自分を縛る鎖を引きちぎり、エスメラルダを助け上げてノートルダム寺院に逃げ込む。フロローはノートルダム寺院に入り込んで二人を追い詰めるが、カジモドとエスメラルダは必死に逃げ、フロローは塔から落下して絶命する。フィーバスとエスメラルダは結ばれ、カジモドは英雄として街の人々に祝福されるのだった。

カジモドとエスメラルダが結ばれるのかと思ったら、そうはならなかった。カジモドがほぼ梶本なのが気になった。3DCG全盛ではないアニメ作品だが、群衆や聖堂の描写ではところどころ立体的な映像があった。ミュージカル仕立てだが、抽象的で退屈な歌が多めだった。

【5段階評価】3

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2024年4月 2日 (火)

(2630) 舞妓はレディ

【監督】周防正行
【出演】上白石萌音、長谷川博己、草刈民代、田畑智子、富司純子、竹中直人、濱田岳、岸部一徳
【制作】2014年、日本

舞妓を目指す少女と、その育成をする大学教員を描いた作品。

津軽弁と鹿児島弁のなまりのきつい少女、西郷春子(上白石萌音)が、舞妓になりたいと言って、京都のお茶屋、万寿楽を訪ねてくる。常連の北野織吉(岸部一徳)は、彼女のきつい訛りを聞いて舞妓は無理だと言い、方言を研究している京野法嗣(のりつぐ)(長谷川博己)は、彼女を舞妓にしてみせると言って、二人は賭けをすることにする。
春子は稽古を頑張り、京野の教えもあって次第に舞妓の技術を習得していく。厳しい稽古で声が出なくなったりしつつも、正式に舞妓の小春としてデビューするのだった。

タイトルで気づくべきだったが、「マイ・フェア・レディ」のパロディ。「マイ・フェア・レディ」同様、ミュージカル仕立ての映画だ。舞妓のうんちくシーンがあまり面白くなかったり、俳優のミュージカルシーンがあまり上手じゃないのとで、特に中盤は退屈。母親がかつてお茶屋にいた一春だったということが明らかになる落ちも、盛り上がりに欠けた。映画監督の思いついたダジャレを壮大に見せられた感じだ。
とは言え、千春(富司純子)の少女時代を演じた大原櫻子の歌と踊りは別格で聞き惚れた。上白石萌音の歌声もよかった。ラストシーンで、竹中直人と渡辺えりがペアで踊り出すのは、周防正行監督作品「Shall we ダンス?」のセルフオマージュで、おもわず「おっ」と笑ってしまった。

【5段階評価】3

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2024年4月 1日 (月)

(2629) パウ・パトロール ザ・ムービー

【監督】カル・ブランカー
【出演】ウィル・ブリスビン(声)、イアン・アーミテージ(声)、マルサイ・マーティン(声)、ロン・パード(声)
【制作】2021年、アメリカ、カナダ

街の安全を守るためにがんばる少年と犬のパトロール部隊を描いた3DCGアニメ作品。「パウ・パトロール カーレース大作戦 GO! GO!」の続作。

アドベンチャーシティの市長に、迷惑者のライバール(ロン・パード、魚建(うおけん))が就任。大量の花火が暴発したり、電車を宙返りコースターのようにして車両が宙づりになったり、事故が起きる。パウ・パトロールの少年ケント(ウィル・ブリスビン、潘めぐみ)は、仲間の犬と出動し、事態を収める。アドベンチャーシティに捨てられて恐怖を味わった過去を持つチェイス(イアン・アーミテージ、石上静香)は、勇気を出せずにいたが、ケントに勇気づけられる。
ライバール市長は、高層ビルの上に塔を設けて市長室にするが、雨雲を吸い取るクラウドキャッチャーが限界を超えて暴走し、街に嵐が起きる。ケントやチェイスに加え、新たに仲間になったリバティ(マルサイ・マーティン、安倍なつみ)も活躍し、街の安全を守るのだった。

コミカルな悪者の起こすトラブルに正義の少年としゃべる犬たちが立ち向かうという、完全に子ども向けの作品。登場する乗り物の映像はとってもかっこよかった。

【5段階評価】3

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