(2608) ファーストラヴ
【監督】堤幸彦
【出演】北川景子、中村倫也、芳根京子、窪塚洋介、木村佳乃、板尾創路、菊地麻衣、石田法嗣、坂上梨々愛
【制作】2021年、日本
島本理生のミステリ小説の映画化作品。女子大生による父親刺殺事件を追う公認心理士を描いている。
芸術大学の女子トイレで教授の聖山那雄人(ひじりやまなおと)(板尾創路)が包丁で刺し殺される事件が起き、父親をトイレに呼び出した娘の環菜(かんな)(芳根京子)が逮捕される。公認心理士の真壁由紀(北川景子)は環菜に取材を申し込む。環菜の弁護士は庵野迦葉(あんのかしょう)となる。迦葉は由紀の夫、我聞(窪塚洋介)の弟(正確には従弟)で、二人は大学時代に交際した過去があったが、我聞には秘密にしていた。
驚いたことに、環菜の母親の昭菜(木村佳乃)は、弁護側ではなく検察側の証人になると言う。由紀と迦葉は母親を訪問するが、昭菜は環菜には虚言壁があると言い、父親を殺して帰宅しておきながら涙も見せない娘への処罰感情を口にする。
面会室で、環菜から、小学生の時にコンビニ店員が好きだったことがあると聞いた由紀は、その店員を探す。迦葉は、環菜が父親の開くデッサン会でモデルをしていたことを知り、当時の生徒を探す。由紀と迦葉は富山に住む元生徒に訪ね、デッサンを見せてもらう。そこには全裸の男性に囲まれた少女時代の環菜の姿があった。
由紀は、元コンビニ店員の小泉裕二(石田法嗣)を探し当て、話を聞く。彼は、小学生の環菜が店の前でひざをすりむいて座っており、手当てをした後、家に帰りたくないと話す彼女をアパートに連れ帰ったことをきっかけに、週に一度ほど環菜がアパートを訪ねるようになったこと、二人で一つの布団で寝ていたとき、欲情して環菜の肩に手を伸ばしたところ、慣れているからいいよと環菜がほほ笑んだことを明かすが、証言台に立つことは拒否する。由紀は、環菜が大人の気持ちを優先するがために嘘をつくのだと考える。実は由紀自身、我聞に隠していることがあった。由紀の父親(カゴシマジロー)には少女買春癖があり、由紀自身も父親の目におびえていたのだ。由紀は環菜に面会し、勝手に小泉裕二に会ったことを詫びつつ、自分の過去を環菜に告白。環菜が父親を刺し殺したとしても、あなたは大人たちに心を殺されたんだと理解を示すと、環菜は、自分は父親を刺し殺していないと驚きの証言する。また、環菜は那雄人の実の子ではなく、昭菜と同棲中の男性との間にできた子だった。同棲相手は昭菜に堕胎を迫ったが、那雄人は産むように言ったため、母親は那雄人に頭が上がらず、環菜も父のおかげで生を受けたため父に逆らえずにいたのだ。
由紀はすぐさま迦葉のもとを訪ね、環菜が殺意を否定したことを伝えるが、迦葉は今更方針変更しても心証が悪くなるだけだ、由紀は環菜に自分を投影しているだけではないのか、と反論。たまらず迦葉の事務所を飛び出た由紀は、心配でやってきた我聞を見つけ、車道によろよろと歩み出て、車に追突される。運び込まれた病室で、由紀は我聞に、父親に少女趣味があったこと、かつて迦葉と交際していたことを告白するが、我聞には全てお見通しだった。罪の意識から解放された由紀は、我聞に抱き着いて号泣する。
環菜の裁判が始まる。環菜は殺意を否定し、迦葉も争う姿勢を見せる。迦葉は、環菜の異常な生育環境を説明し、デッサン会のことを知らないという母親の証言の矛盾を突く。さらに小泉裕二も罪の意識から証言台に立ち、当時の環菜がデッサンモデルになることに怯えていたことを証言する。環菜は改めて、包丁は父親ともみあいになった際に、濡れた床で足を滑らせた父親に包丁が刺さったと証言する。しかし、救急措置をせずに父親を放置したことが殺意の証明となり、環菜は懲役8年の実刑判決を受ける。環菜は、感謝の言葉とともに、罪を甘んじて受け、いずれ手記を出したいという手紙を由紀と迦葉に送る。由紀と迦葉の間のわだかまりも消えるのだった。
魅力的な謎の提示から、登場人物のおぞましい親子関係があらわになっていき、事件の真相が明らかになるという展開は、ミステリ映画として十分な内容。無罪を勝ち取れないという苦い結末ではあったが、見ごたえのある作品だった。一点、終盤に環菜の母親の腕にもリストカットの傷跡があることが明らかになるのだが、それが何を意味するのかが、よくわからなかった。環菜の自傷癖は母親譲りだということなのかと思ったが、母親も昔、那雄人にモデルをさせられたのか、と考えたりもした。もう少し説明があるとよかった。
【5段階評価】4
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