(2590) ひとよ
【監督】白石和彌
【出演】佐藤健、田中裕子、鈴木亮平、松岡茉優、MEGUMI、佐々木蔵之介
【制作】2019年、日本
夫を殺した母親と三人の子供たちの生きざまを描いた作品。
15年前、タクシー運転手の稲村こはる(田中裕子)は夫の雄一(井上肇)をひき殺す。常習的に暴力をふるう夫から三人の子供たちを守るためだった。こはるは甥の丸井進(音尾琢真)に連れられ、自首する。丸井はタクシー会社を引き継ぎ、稲丸タクシーとして経営を続ける。長男の大樹(鈴木亮平)は電気屋で働き、妻の二三子(MEGUMI)との間には幼稚園に通う娘がいたが、不仲で別居状態。末っ子の園子(松岡茉優)は美容師の夢を諦め、ホステスとして働いており、次男の雄二(佐藤健)は小説家を目指しながら、今は風俗ルポを書く記者をしていた。
ある日、母親が家に帰ってくる。出所後、仕事を転々としながらの突然の帰宅だった。家にいた大樹と園子は驚き、家に寄り付かなくなっていた雄二を呼び出す。母親は約束通り帰ってきたと言い、園子は素直に喜ぶが、雄二は15年前から人生を狂わされたことを素直に受け止められておらず、母親に悪態をつく。大樹はそんな雄二に怒りを感じていた。一時期やんでいた、タクシー会社へのいやがらせが再開。「聖母は殺人者だった」という週刊誌記事のコピーを貼られるようになるが、その記事を書いたのは誰あろう雄二だった。
大樹は母親のことを二三子に話していなかったため、二三子は大樹への怒りを増大させる。大樹は二三子に手を挙げてしまい、それを見たこはるが大樹を責めると、大樹は母親に、立派なかあさんはだめな俺を殺すのかと口走る。こはるは、かつて雄二(池田優斗)が万引きしてつかまった「デラべっぴん」を堂々と万引きして店主につかまり、迎えに来た大樹に、こんな母さんは立派か、とつっかかる。三人は母親のしたことに苦笑いする。
最近、タクシー運転手の仲間入りをした堂下道生(佐々木蔵之介)は、やくざから足を洗った経歴を隠しており、酒を断ち、更生しようとしていた。彼は息子と久々に再会して、焼き肉やバッティングセンターで遊んだことを幸せに感じていた。ところが元子分(大悟)からブツの運搬を依頼され、断れずに乗せた若い運び屋が息子だった。堂下は息子がシャブをやっていることにショックを受け、息子を責めるが、息子にお前のせいだ、とキレられる。堂下は断(た)っていた酒を煽りながら事務所に戻ると、こはるを乗せてタクシーを走らせる。それに気づいた雄二たちがタクシーで追いかけ、堂下がタクシーごと海に飛び込もうとしたところを、体当たりして制止する。堂下は、親が何をしても子供には伝わらず、子供は道を踏み外したのは親のせいだと言ってくることに嫌気がさして自暴自棄になっていた。こはるを突き飛ばした堂下に雄二は掴みかかり、自分は自分の身に起きたことを記事にして成りあがるしかなかった、と堂下に告白。堂下も、どんなにあの夜が嬉しかったか、と雄二にしがみつく。夜が明け、雄二は母親の事件を書いた記事をパソコンから抹消。園子は夢に見ていた母親の髪のカットをする。雄二は同級生だった牛久真貴(韓英恵)のタクシーに乗り、「じゃあまた」と言って家族のもとを去るのだった。
激しいDVを働く父親であれば、殺害しても正当化されるという単純な描き方ではない。母親は、取り返しのつかないことをしたと思いつつ、自分は間違っていないという姿勢を貫かなければ、子供たちが迷ってしまうと独白する。この母親を主役にすれば、また全く異なった作品になっただろう。主役級の俳優が集まった見ごたえのある作品だった。クライマックスで堂下と雄二が自分の思いのたけをぶつけ合うシーンには、不思議な感動があった。
【5段階評価】4
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