(2312) 記憶にございません!
【監督】三谷幸喜
【出演】中井貴一、ディーン・フジオカ、小池栄子、石田ゆり子、草刈正雄、佐藤浩市、吉田羊、斉藤由貴、田中圭
【制作】2019年、日本
記憶喪失になった支持率最低の総理大臣の復活劇を描いたコメディ作品。
総理大臣の黒田啓介(中井貴一)は、聴衆の投石が頭に当たり、記憶を失った状態で目覚める。秘書官の井坂(ディーン・フジオカ)はその事実を隠して総理を任務に当たらせる。記憶を失う前の黒田は、横柄で口汚く、私腹を肥やすことを考えていた男だったが、記憶を失った黒田は謙虚で遠慮深く、何とか任務をこなすうち、過去のしがらみに影響されない清廉な総理になることを決意するようになる。事務秘書官の番場のぞみ(小池栄子)は黒田を応援し、井坂は影響力の強い鶴丸官房長官(草刈正雄)を退任させる必要があると進言する。黒田は、不都合な写真を売りつけようと自分に接近していた政治ゴロの古郡(佐藤浩市)を呼び、鶴丸の弱みを握る証拠を掴むよう依頼する。
古郡は、ゴルフ協会の名誉会長である鶴丸が、ゴルフ中に不正行為を働いている写真を鶴丸に突きつけ、鶴丸は退任するが、鼬の最後っ屁とばかりに、古郡が持っていた、黒田の妻、聡子(石田ゆり子)と井坂の密会写真を週刊誌に暴く。しかし黒田は国会中継の場で、自分の愛が足りなかったと妻に詫び、やり直したいと改めて愛を告白。黒田を嫌っていた聡子はそれを聞いて黒田のもとに戻る。それでも黒田の支持率は微増にすぎなかったが、父親を軽蔑していた息子の篤彦(濱田龍臣)が「僕もいつか、総理大臣になりたい」と言うのを聞き、黒田は満足そうに微笑んで頷くのだった。
三谷幸喜作品らしい、ユーモラスで痛快な政治コメディ。声を上げて笑ってしまうようなシーンもあれば、妻への謝罪シーンや、最後の息子の告白のシーンでは目頭が熱くなる。「面白いなあ」としみじみ思いながら観ることができ、ずんの飯尾和樹やジャルジャルの後藤淳平、有働由美子なんかが隠れキャラ的に出ているのも面白く、サービス精神に富んだ作品。フィリピンパブがどうとか、ところどころ今ひとつなギャグもありはしたが。
ところで映画の内容ではないのだが、本作を放送したのはフジテレビの土曜プレミアム。この番組の度しがたい点は、CM明けにすっと本編に入らず、これまでのハイライトを映すのはまだしも、これから先のシーンの内容をばらすような映像やテロップを流すという愚挙を犯すことだ。本作だと、この先、アメリカの大統領が登場します、みたいなことを字幕で出したり、あろうことか大統領(木村佳乃)と黒田が握手する画面までハイライトで映してしまうのだ。本作では、アメリカンチェリーの関税に関して、黒田と大統領が反発し、大統領が「こんな傲慢な首相は初めてだ」と共同記者会見で話すシーンがあるのだが、ハイライトシーンを見てしまっているから、この後どんでん返しがあるな、と観る側は分かってしまい、案の定、大統領は、こういう腹を割って話すことが必要だ、と黒田を持ち上げて握手を求める。このフジテレビの無神経な先見せのせいで、せっかく盛り上がるシーンが台無しになっている。視聴者をつなぎ止めたいのかなんだかしらないが、映画制作者の意図をも踏みにじるようなことをしてまで、する必要のあることとはとても思えないのだった。
【5段階評価】4
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