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2011年6月14日 (火)

(466) トウキョウソナタ

【監督】黒沢清
【出演】香川照之、小泉今日子
【制作】2008年、日本、オランダ、香港

リストラされた会社員の家族の再生を描いた作品。

健康器具会社、タニタの総務課長の佐々木竜平(香川照之)はリストラされ、それを家族に告げず、公園の食事の配給に並びながら、ハローワークで職を探す日々を送っていた。家庭での父親の威厳を保とうとするあまり、子供の教育にはことさら厳しく、次男の健二(井之脇海)がピアノを習いたいというのを唐突すぎるという理由で拒絶し、長男の貴(小柳友)が米軍に志願したことにも反対した。妻の恵(小泉今日子)は、夫が炊き出しに並んでいるのを見て、夫の失業を知ってしまう。
ピアノ教室の講師、金子(井川遥)は、健二にたぐいまれな音楽の才能があることを見抜き、音楽学校への進学を勧める手紙を親宛に出す。竜平は、息子が親を騙してピアノ教室に通っていたことに激怒し、恵に対して親の威厳を守るべきだとどなるが、恵は夫の失業を知っていたことを明かす。
ショッピングビルの清掃員の職に就いた竜平は、清掃場所のトイレで札束の入った封筒を拾い、あたふたとトイレを去ろうとする。するとそこで、買い物をする恵に出くわす。竜平は慌ててその場から走り去る。一方の恵は、家に押し入った強盗(役所広司)に連れられ、車で逃げているところだった。自分の人生に疑問を持っていた恵は、強盗から逃げることなく、行動をともにしていたのだった。車で海岸に到着した恵は、強盗に「やり直せるでしょうか」とつぶやく。強盗と恵は海辺の小屋で一夜を明かすが、恵が朝起きると強盗の姿はなく、どうやら車ごと海に突っ込んでしまったようだった。
健二は、東北行きの長距離バスに無賃乗車しようとして留置場に放り込まれ、明け方、不起訴で釈放される。竜平は、人生をやり直したいとつぶやきながら町を放浪するが、車にはねられ、路上で一夜を明かす。命に別状はなく、拾った札束を遺失物ポストに投げ込み、家に帰る。
竜平がビル掃除で働く日常が佐々木家に訪れる。そして健二の音楽学校入学試験の日。健二は、ピアノ演奏で周囲の大人が声も出ないほどの驚異的な実力を見せる。家族がまた一緒に歩み出すことを印象づけ、映画は終わる。

どこにでもあるような日常の風景だが、親と子、教師と生徒といった人間関係のところどころに、細かい軋轢が混じりだし、佐々木家の平穏が、少しずつ不確かなものになっていく。最終的には、家の中が強盗に荒らされ放題になっているにもかかわらず、互いにそのことに全く触れずにいるほど、日常的な感覚が麻痺してしまう。しかし、そこから、ようやく家族の絆が再生されていくということが暗示され、観る者に救いを与える。ところどころの演技は、若干お芝居めいたところもあったが(いやお芝居なんですけども)、どっしりとした重厚な作品で見応えがあった。

【5段階評価】4

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