評価5の映画

2023年6月18日 (日)

(2470) グリーンブック

【監督】ピーター・ファレリー
【出演】ビゴ・モーテンセン、マハーシャラ・アリ、リンダ・カーデリーニ
【制作】2018年、アメリカ

白人の雇われ運転手と、雇い主である黒人のピアニストとの交流を描いた作品。かつてのアメリカの痛烈な人種差別に立ち向かう様子を描いている。

ナイトクラブ「コパカバーナ」で用心棒をしていたトニー・バレロンガ(ビゴ・モーテンセン)は、クラブの改装によって無職の状態になる。ドクター・ドン・シャーリーという雇い主のドライバーの仕事を紹介され、医者だと思って言ってみると、相手は黒人の音楽家(マハーシャラ・アリ)だった。トニーは黒人に強い差別感情を持っており、家に来た黒人の職人が使った家のコップをそのままゴミ箱に捨ててしまうほど。ドンを前に始めは忍耐強くドンの質問に答えていたが、週100ドルでドライバーの仕事だけではなく靴磨きなどの雑用もする必要があるという説明を受けると、「自分は召使いではない。週125ドルは必要だ」と告げて立ち去る。しかしトニーの腕を買っていたドンは、彼の妻ドロレス(リンダ・カーデリーニ)に電話でトニーが8週間家を空けることの許可を得て、トニーを雇うことにする。トニーはレコード会社から、黒人が利用できる宿泊施設などが載ったグリーンブックを渡される。
車内でたばこを吹かし品のない言葉でしゃべり続ける粗野なトニーに、ドンは逐一注意する。ドンを疎ましく思うトニーだったが、彼のピアノ演奏を目の当たりにして彼の才能に驚き、敬意を感じるようになる。ドンも旅を続けるうち、手づかみでケンタッキーフライドチキンを頬張るトニーに勧められて素手でフライドチキンを食べ、骨を窓外に投げ捨てるなど、道中を楽しむようになる。
ドンの演奏は、富裕層に歓迎されるが、黒人のトイレは別だったり、バーに行くと白人に絡まれたり、根強い差別がまかり通っていた。トニーはドンの身を守りながら、次第に自らの差別意識も変わっていく。トニーは愛する妻にまめに手紙を出しており、ドンは手紙の内容をアドバイスする。手紙を受け取ったドロレスは、見違えるような手紙の内容に感激する。
最後の演奏会場でも、ドンはVIPのような待遇を受けつつも、楽屋は物置きで、レストランには黒人であることを理由に入店を断られる。ドンは「レストランで食事が取れないなら演奏はしない」とオーナーに告げる。オーナーはトニーに、ドンを説得するよう100ドル渡そうとするが、トニーはオーナーにつかみかかる。ドンはそれを制止し、トニーに「君が演奏しろというならそうする」と言うが、トニーは「こんなところ出ていこうぜ」と言って、ドンとともに黒人の集う店に行く。白人のトニーと立派な服を着たドンは、店内の注目を集める。トニーはドンを天才ピアニスト(竹内とますみではない)だと紹介。店員が演奏を促し、ドンがピアノを奏でると大喝采を受け、店のバンドと盛り上がる。店を出たトニーとドンは、クリスマスに間に合うようトニーの家に向かう。眠気で限界が来たトニーを、家まで送り届けたのはドンだった。ドンはトニーを降ろして自宅に戻り、執事を帰らせる。トニーは家族や親戚とクリスマスパーティを楽しむ。「ニガーはどうした」と親戚に聞かれたトニーは、にガーはよせ、とたしなめる。黒人差別をしていた夫の変わりようにドロレスは驚く。盛り上がるトニーの家に追加の客がやってくる。その後ろには、ワインを手にしたドンがいた。トニーはドンを歓迎し、二人は抱き合う。ドロレスもドンにハグをし、手紙の礼をする。ドンがトニーの手紙の手引きをしていることに、彼女は気づいていたのだ。始めは黒人の登場にとまどった親戚たちだったが、すぐに彼の席を用意するよう動き出し、彼を歓待するのだった。

実話に基づく作品で、胸のすく気持ちのよい作品だった。人種差別に白人が立ち向かうという紋切り型の作品になりそうなところ、本作の主人公は、金持ちの帽子を隠して紛失したように見せかけ、それを取り返したふりをして金持ちの歓心を買ったりするような、横暴で独善的な男として描かれていることで、正義漢が差別と闘うというステレオタイプとは一線を画していた。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2022年12月29日 (木)

(2426) アクアマン

【監督】ジェームズ・ワン
【出演】ジェイソン・モモア、アンバー・ハード、パトリック・ウィルソン、ウィレム・デフォー、ニコール・キッドマン
【制作】2018年、アメリカ

水中の能力に秀でたヒーローの活躍を描いたアクション映画。「ジャスティス・リーグ」の続編。

人間の父親トム・カリー(テムエラ・モリソン)と海底国の女王アトランナ(ニコール・キッドマン)の間に生まれたアーサー・カリー(ジェイソン・モモア)は、強靱な身体能力と水中の特殊能力を持つアクアマンとして、悪者を退治する日々を送っていた。彼のもとに海底国ゼベルの王女メラ(アンバー・ハード)が現れ、アーサーに、アトランティスの王になってほしいと依頼する。メラの婚約者であるアトランティスの王、オーム(パトリック・ウィルソン)は地上の国に戦争をしかけようとしており、それに反対するメラは、アーサーが王となることで陸と海の融和を果たそうとしていたのだ。アーサーに戦闘術を授けたアトランティスの家臣バルコ(ウィレム・デフォー)もアーサーに協力するが、バルコの行動はオームにばれており、バルコは監獄に送られる。オームとアーサーは決闘をすることになるが、アーサーは劣勢。メラは潜水艇でアーサーを救い出し、王の印となるトライデントを求めて、隠された海にたどり着く。アーサーは、死んだと思っていたアトランナと再会。ついにトライデントを手に入れたアーサーは、海底の国を支配しようとしているオームとの戦いに勝利。アトランナと再会したオームは、アーサーのことを認め、アーサーは王となることを決意するのだった。

特撮であることは間違いないのだが、迫力はなかなかのもの。海の生き物や乗り物の映像も楽しいし、アクションシーンが水中だけではなく、地上でも繰り広げられるのがいい。水中のシーンは、どうしても現実味がないので想像の世界になり、迫力を実感しづらいが、地上の戦闘シーンは、分かりやすく見応えがある。また、アーサーとオームの戦いだけを描くのではなく、アクアマンとの戦闘で父親を失ったブラックマンタ(ヤーヤ・アブドゥル=マーティン2世)との戦いも織り交ぜ、展開も適度に凝っている。劇場で見たら大満足の作品だろう。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2022年12月 5日 (月)

(2416) ザ・ファブル 殺さない殺し屋

【監督】江口カン
【出演】岡田准一、木村文乃、平手友梨奈、堤真一、安藤政信
【制作】2021年、日本

南勝久の漫画が原作。殺しを禁じられた殺し屋の活躍を描いたアクション作品。「ザ・ファブル」の続篇。

ボス(佐藤浩市)から殺人を禁じられている殺し屋、ファブルこと佐藤アキラ(岡田准一)は、かつて自分が売春組織から救い出した少女(平手友梨奈)を見かける。少女は足が不自由で車椅子に乗っており、公園でリハビリをしていた。少女の名は佐羽ヒナコ。彼女は、表向きは善良なNPO組織を運営しながら、裏で悪事を働く宇津帆(堤真一)と行動をともにしていた。宇津帆は、井崎(黒瀬純)とともに、アキラと同じデザイン会社に勤める貝沼(好井まさお)が、同僚の清水ミサキ(山本美月)の自宅内を盗撮していることをネタに、貝沼の家から示談金をだまし取ろうと画策。しかし、ヒットマンの鈴木(安藤政信)が貝沼を拉致する瞬間をアキラに見られてしまう。鈴木は、先回りしてアキラと同居しているヨウコ(木村文乃)の家に向かうが、あっさりと返り討ちに遭う。アキラは鈴木に、貝沼を無事に返せと命じるが、貝沼は井崎の凡ミスによってすでに死亡。アキラは仕方なく鈴木を解放する。宇津帆と鈴木は、事務所にアキラをおびき寄せ、集団でアキラを亡き者にしようとするが、アキラはそれをかいくぐる。鈴木と宇津帆は、追ってきたヨウコを人質にとってアキラを待ち伏せる。宇津帆はヒナコに、両親の喉元を掻き切って殺したのは佐藤だ、と説明しており、佐藤の仲間であるヨウコを撃てと言ってヒナコに拳銃と弾を渡すが、ヒナコが銃を放った相手は宇津帆だった。警察しか知らないはずの、両親の喉元が切られていた事実を語った宇津帆が犯人だと気づいたのだった。しかし、防弾チョッキを着ていて無事だった宇津帆は、開き直って両親殺害の様子を楽しげに語る。激怒したヒナコは車椅子から立ち上がり、宇津帆に歩み寄るが、そこにはアキラを仕留めるための地雷が仕込まれていた。宇津帆はヒナコを挑発。ヒナコはついに銃を放ち、反動で足が浮きそうになるが、そこにアキラが現れ、ヒナコを支える。ヒナコを救いたい一心の鈴木とアキラは手を組み、鈴木がショベルカーのバケットを地雷に覆いかぶせ、アキラがヒナコの足を同時に引き抜くことで、ヒナコを助け出す。その直後、宇津帆は隠し持っていた手榴弾をヒナコに投げつける。同時に鈴木が宇津帆の眉間を撃ち抜き、宇津帆は即死するが、手榴弾のピンは抜かれていなかった。作戦が失敗した宇津帆は観念し、自分が殺される道を選んだのだった。
ヒナコはアキラに感謝の手紙を書く。ビルの屋上でそれを読み終わったアキラは、手紙を燃やすと、雪の降り始めた夜空を見上げるのだった。

修繕工事中の足場でのアクションシーンが圧巻。これだけの大騒ぎを起こせば、もはや誰も殺さないというルールも有名無実と化した感はあるが、圧倒的な強者による無双のシーンは痛快。崩壊する足場を走り抜けるシーンも見事だった。ストーリーも分かりやすく、怒りに震えるヒナコが立ち上がるシーンは感動的。堤真一の演技が、うますぎるが故に逆に芝居臭いのがちょっと気にはなったが、前作を超える感動作に仕上がっていた。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2022年10月30日 (日)

(2401) ザ・フライ

【監督】デビッド・クローネンバーグ
【出演】ジェフ・ゴールドブラム、ジーナ・デイビス、ジョン・ゲッツ
【制作】1986年、アメリカ

ハエと融合した科学者の末路を描いたホラー作品。1958年の映画「ハエ男の恐怖」のリメイク。

天才科学者のセス・ブランドル(ジェフ・ゴールドブラム)は、女性記者のベロニカ(ジーナ・デイビス)に、テレポッドAに入れた物をテレポッドBに転送する装置を紹介する。興味を持ったベロニカは、元恋人の編集長、スタティス・ボーランス(ジョン・ゲッツ)に報告するが、スタティスはいんちきだと取り合わず、彼女に復縁を迫る。スタティスに嫌悪したベロニカは、研究に一心不乱なセスの純粋さに惹かれ、二人は愛し合うようになる。セスは生物の転送ができずにいたが、ベロニカと愛し合うようことで生物へのヒントを得、ついにヒヒの転送に成功する。シャンパンで成功を祝う二人だったが、スタティスが勝手にセスを記事化しようとしていることを知り、スタティスのいるオフィスに向かう。お祝い気分に水を差された格好のセスは、酔った勢いで自分自身がテレポッドに入って自身を転送。しかし、彼の入ったテレポッドには、一匹のハエが紛れ込んでいた。
転送に成功したセスは、自分の身体能力が向上していることを実感。ベロニカにも転送を薦めるが、ベロニカはセスの興奮した様子に恐れを感じてそれを拒否。いらだったセスはベロニカを置いてバーに行き、そこにいた女性を口説く。それを咎めた男に、セスは100ドル札を出して腕相撲勝負を挑み、意気込む相手の腕をへし折ってしまう。バーの女はセスの研究室まで来るが、転送には尻込みし、そこに現れたベロニカを見て退散する。
セスは次第に体が変化していく。ベロニカはセスの背中の傷口に生えていた毛を切って分析に出し、それが昆虫のものに近いとセスに報告。セスは認めようとしないが、次第に爪が剥がれ、皮膚が変質していく。セスは転送装置の中にハエが入っていたことを突き止める。セスはベロニカに助けを求める一方、自分がベロニカを傷つけてしまうことを恐れ、彼女を帰らせる。ベロニカは、自分がセスの子を身ごもっていることを知り、悩むが、セスの姿を見て堕胎を決意。スタティスに連れられて病院に向かうが、そこにセスが現れ、ベロニカを連れ去り、子どもを産んでくれとベロニカに懇願する。
ベロニカの身を案じたスタティスは、銃を携えてセスの研究室に忍び込むが、セスは口から溶解液を吐き出してスタティスの手や足を溶かし、スタティスは気を失ってしまう。セスの暴走を止めようとやってきたベロニカだったが、セスは、ベロニカとお腹の子ども、そして自分を融合させようとする。抵抗するベロニカがセスを押すと、セスの顎は崩れ、皮膚は剥がれ落ち、ハエに変態したブランドルフライが現れる。ブランドルフライはベロニカをテレポッドAに投げ込み、自身はテレポッドBに入る。しかし、気絶から覚めたスタティスが、転送開始直前にテレポッドAのケーブルを銃で撃ち、セスは一人でテレポッドCに転送される。テレポッドCから這い出てきたセスは、ベロニカの構える銃の銃口を自分の頭に導く。ベロニカは泣きながらセスの頭を撃ち抜くのだった。

ジェフ・ゴールドブラムがハエ男を演じた伝説的な作品。B級ホラー風の特撮が見ものだが、かなりのグロ映像なので、テレビ放映には不向きと思っていたところ、まさかのNHK BSでの放映だった。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2022年1月23日 (日)

(2368) ターミネーター: 新起動/ジェニシス

【監督】アラン・テイラー
【出演】アーノルド・シュワルツェネッガー、エミリア・クラーク、ジェイ・コートニー、ジェイソン・クラーク
【制作】2015年、アメリカ

機械生命体と人類との時間を超えた戦いを描いたSF。「ターミネーター」シリーズ第5作。「ターミネーター4」の続編。

2029年、人類に戦争を挑んだ機械軍との戦いに、ジョン・コナー(ジェイソン・クラーク)率いる人類が勝利。しかし機械軍は過去の世界にターミネーターを送り込む。機械軍の狙いは、ジョン・コナーの母親の殺害だと考えたジョンは、人類軍の若者、カイル・リース(ジェイ・コートニー)を送り込むことにするが、過去に飛び立つ最中にカイルの目に映ったのは、ジョンが人類に紛れ込んでいた機械生命体に襲われる姿だった。
過去にたどり着いた全裸状態のカイルは、浮浪者からズボンを奪い取るが、そこに警官(イ・ビョンホン)が現れる。彼は本物の警官ではなく、液体金属のターミネーター、T-1000だった。T-1000に襲われるカイルを助けに現れたのは、驚いたことにジョン・コナーの母親となる女性、サラ・コナー(エミリア・クラーク)だった。過去の世界はカイルの想像していた世界と異なっており、彼女はすでにターミネーターの存在を知っていた。幼少期にT-1000に襲われた彼女を、ターミネーターT-800(アーノルド・シュワルツェネッガー)が守っていたのだ。
機械軍の誕生を防ぐためには、スカイネットという人工知能システムの起動を未然に防ぐ必要があると信じるカイルは、サラとともに2017年に向かう。全裸で突如ハイウェイに現れた二人は、テロリストと勘違いされ警察に拘束される。そこにジョン・コナーが現れる。カイルはジョンが無事であることを喜ぶ。ジョンが警察施設からカイルとサラを連れ出すと、そこに、カイルとサラのタイムリープを見守り、彼らの登場を待ち続けていたT-800が現れ、ジョンに襲い掛かる。ジョンは2029年の世界で機械生命体に襲われ、分子型ロボットT-3000として生まれ変わり、機械軍の側に寝返っていたのだった。T-3000の追撃をかわしながら、カイルとサラ、T-800はスカイネットのシステムを爆破。T-800はT-3000とともに、T-3000の弱点である強力な磁場を生み出す転移装置の中に残り、爆発に巻き込まれる。T-3000は消滅するが、液体金属の中に沈んだT-800は液体金属の再生機能を得て復活。三人は幼少期のカイルのもとに向かい、カイルは幼い自分に、スカイネットを滅ぼすよう言葉を残すのだった。

やはり、ターミネーターはシュワちゃんがやるのが盛り上がる。「ターミネーター3」、「ターミネーター4」あたりでだんだんシュワちゃんがわき役っぽくなっていたので、本作のシュワちゃんの大活躍は、ファンとしては嬉しい。隠し切れないシュワちゃんの年を重ねた姿を、皮膚は生身だから老けるのだという設定に溶け込ませているのも心憎かった。
新しい設定と迫力のある映像は見ごたえがあり、ストーリーはやや複雑だが、あまり難しく考えなくても十分に楽しめる。サラ・コナー役のエミリア・クラークは、「ターミネーター」や「ターミネーター2」でサラ役を演じたリンダ・ハミルトンに比べて肉感的でチャーミングなのも見どころ。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2021年2月13日 (土)

(2328) ライフ・イズ・ビューティフル

【監督】ロベルト・ベニーニ
【出演】ロベルト・ベニーニ、ニコレッタ・ブラスキ、ジョルジョ・カンタリーニ
【制作】1997年、イタリア

ドイツ軍によるユダヤ人迫害に遭ったイタリア人の家族の運命を描いた作品。

ユダヤ系イタリア人のグイド(ロベルト・ベニーニ)は、偶然出会った小学校教師のドーラ(ニコレッタ・ブラスキ)に一目惚れ。彼女と駆け落ちして夫婦となり、息子のジョズエ(ジョルジョ・カンタリーニ)を設ける。家族で楽しく暮らす三人だったが、軍によるユダヤ人弾圧が始まり、ある日、グイドはジョズエとともにユダヤ人収容所に送り込まれてしまう。ドーラも自ら収容所に入るが、男女は別々にされる。グイドは収容所生活を不安がる息子に、これはゲームで、1,000点取れば戦車に乗って家に帰れると嘘をつく。収容所の子ども達はシャワーと称してガス室に送り込まれ、殺されてしまうが、シャワー嫌いのジョズエは運よく難を逃れ、隠れて宿舎で暮らし続ける。グイドは施設内の放送設備を使ってドーラに話しかけたりして、自分たちが生きていることを伝える。やがてドイツの敗戦が濃厚となり、収容所からドイツ軍が撤退を始める。グイドはジョズエを道路脇のボックスの中に隠れさせ、誰もいなくなるまで出るな、そうすれば一等になれると言い残してドーラを探しに行く。しかし、ドイツ兵に見つかってしまい、マシンガンを持ったドイツ兵に連れ戻される。ジョズエが隠れているボックスの前に来たグイドは、穴からこちらを見つめているジョズエに満面の笑みでウインクをすると、おどけた仕草で行進。それを見たジョズエは笑みを浮かべる。しかしドイツ兵はグイドはひとけのない建物の影に連れて行き、容赦なくマシンガンを響かせるのだった。

やがて収容所からドイツ兵の一団は去り、残されたユダヤ人たちもぞろぞろと施設から出て行く。一人になったジョズエがボックスから外に出ると、建物の影から戦車の走行音が聞こえてくる。ジョズエはご褒美だ、と喜ぶ。戦車に乗っている兵士は英語でジョズエに話しかけると、ジョズエを戦車の上に招く。グイドの言った通りのご褒美にご満悦のジョズエは、戦車の上から母親を見つけ、戦車から降ろしてもらう。ジョズエは母親に勝ったよ、と言って抱きつき、喜びを分かち合うのだった。

序盤は底抜けに明るいグイドによる不条理喜劇のような展開が続き、正直さっぱり面白くないのだが、収容所に入れられてからはグイドの明るく振る舞う姿が痛々しく胸を打つ。グイドの振る舞いがどれだけ明るく、チャップリン映画のように喜劇的でも、ユダヤ人迫害の重苦しさをかき消すことは全くなく、この先に訪れるであろう悲劇が、どうかグイド一家には起こらないでほしいと観客は願うことになる。その思いもむなしく、多くのユダヤ人が助かったにもかかわらず、ジョズエを救い、ドーラを探そうと奔走したグイドは、全くもって理不尽な、必然性のない最期を迎える。そしてジョズエとドーラが無邪気に喜び合う輪の中にグイドがいないことが、そしてグイドが作品を通じて見せていた底抜けに明るい笑顔が、最後の最後、観客の胸に重く重く響く。これは、愛する息子を生かすために奮闘した、父親の物語だったのだ。これにはやられた。序盤のスラップスティックコメディも、この余韻のために必要だったのだ、と気づかされた。
グイド役で監督のロベルト・ベニーニは、本作でアカデミー賞主演男優賞を受賞している。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2021年2月 7日 (日)

(2322) 孤狼の血

【監督】白石和彌
【出演】役所広司、松坂桃李、真木よう子、江口洋介、石橋蓮司、竹野内豊、滝藤賢一、ピエール瀧、伊吹吾郎
【制作】2018年、日本

広島の暴力団組織に立ち向かう刑事の奮闘を描いたサスペンス作品。柚月裕子の同名小説が原作。

広島大学出身の若手刑事、日岡秀一(松坂桃李)は、呉原東署の刑事、大上章吾(役所広司)と組むことになる。大上は暴力班捜査係でありながら、暴力団関係者から賄賂を受け取り、証拠を掴むためなら放火や家屋侵入などの強引な捜査をする男。日岡は実は、県警の監察官、嵯峨大輔(滝藤賢一)から、大上の内偵のために送り込まれていた。日岡は大上の彼の傍若無人な性格と捜査の仕方にあきれ、彼が暴力団の尾谷組と癒着しており、かつての暴力団抗争で、尾谷組に敵対する五十子会(いらこかい)の金村安則(黒石高大)が殺された事件の犯人だと確信する。
大上は、尾谷組に抗争を仕掛けようとする加古村組による、呉原金融社員、上早稲(うえさわ)二郎(駿河太郎)殺害の証拠を強引な捜査で探し、離島で遺体を発見。加古村組と尾谷組の抗争を防ごうとするが、大上の不正のネタを追う新聞記者(中村獅童)が署に現れ、署長の毛利(瀧川英次)は大上に自宅謹慎を言い渡す。尾谷組は大上の謹慎中に加古村組幹部を襲撃。大上は、加古村組の上部組織の五十子会の会長、五十子正平(石橋蓮司)と、尾谷組の一ノ瀬守孝(江口洋介)の双方に手打ちをするよう頼み込むがうまく行かず、大上は姿を消してしまう。日岡は、暴力団抗争を必死で制止しようとする大上に、いつしか畏敬の念を抱くようになっていた。
日岡は、クラブのママ高木里佳子(真木よう子)から、大上に託されたというスクラップブックを渡される。それは、警察上層部と暴力団との癒着の記録だった。大上はこれを盾に自分の身を守りながら、暴力団抗争を防ごうと奮闘していたのだった。里佳子は、大上に疑いがかかっている金村安則殺害の犯人は自分であり、身ごもっていた自分が刑務所送りにならないよう、大上がかばってくれたことを日岡に伝える。しかし大上は溺死体で発見される。胃からはブタの糞が検出された。日岡は、五十子組の息のかかった養豚場で、大上が使っていたライターを発見。大上が五十子組に拷問されて死んだと確信する。帰宅した日岡は、監察官への報告書に、いつの間にか大上が、辛辣だが心のこもった添削を入れていることに気づく。大上の大きな愛情を知り、日岡は嗚咽を漏らす。日岡は、一ノ瀬らを手引きしてパーティに出席中の五十子を殺害させると、一ノ瀬を裏切り、一ノ瀬を現行犯逮捕する。強引な方法で暴力団を一網打尽にした日岡は、大上のような刑事になることを決意するのだった。

傑作サスペンス小説を重厚な映画に仕上げた素晴らしい作品。オープニングでいきなりブタの排泄映像から、糞を口にねじ込み、指を切断するというリンチの過激映像。しかし、ただ過激なだけではなく、終盤の大上失踪の真相に関わる重要な伏線になっている。大上による暴力団幹部殺し、大上の日記の内容、といった大きな謎が物語の柱となり、やがて大上の刑事としての生き様が明らかになる。映像が本格的なだけではなく、サスペンスとして純粋によくできている。
俳優陣も豪華で、過激なシーンを交えながら、複数の暴力団の抗争や大上刑事の豪腕ぶりと壮絶な最期な最後が描かれ、見応えがある。次回作にも期待したい。
ちなみに、タイトルに「狼」の文字があり、役所広司演じる主人公の名は「大上」。「おおかみ」との掛詞だったのだろうか。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2021年2月 5日 (金)

(2319) メジャーリーグ

【監督】デビッド・S・ウォード
【出演】トム・ベレンジャー、レネ・ルッソ、チャーリー・シーン、ジェームズ・ギャモン、ボブ・ユッカー
【制作】1989年、アメリカ

弱小野球チームの復活劇を描いたスポーツコメディ。

34年間Bクラスのプロ野球チーム、クリーブランド・インディアンス。夫の死によりオーナーになったレイチェル・フェルプス(マーガレット・ホイットン)は、チームを最下位にしてマイアミに移転することを狙い、設備のメンテナンスをおろそかにしたり移動手段の飛行機をおんぼろにするなどの妨害工作を図る。チームには少年院上がりのノーコンピッチャー、リッキー・ボーン(チャーリー・シーン)や、膝の故障を抱えたベテランキャッチャー、ジェイク・テイラー(トム・ベレンジャー)など、くせのあるメンバーが入ってくるが、チームは連戦連敗。監督に就任したルー・ブラウン(ジェームズ・ギャモン)は、リッキーのノーコンは近眼のせいだと気づき、彼にめがねをかけさせる。徐々にチームの成績は上向き、ついに60勝61敗となる。ブラウン監督はオーナーの野望を知り、成績不振なら全員の首が飛ぶことを選手達に伝える。ジェイク達は優勝するしかないと奮起し、一致団結する。
チームはそこから連戦連勝。ついに首位のヤンキースとの最終決戦となる。試合は2対2で9回を迎え、先攻のヤンキースは二死満塁。絶体絶命のピンチに、監督はリリーフにリッキーを送り、リッキーは過去2回の対決で2ホーマーと分の悪いクルー・ヘイウッド(ピート・ブコビッチ)を相手に、直球勝負で三球三振をもぎ取る。その裏、インディアンスの攻撃は、二死二塁となって打席にはジェイク。ジェイクは予告ホームランのジェスチャーから意表を突くバント。痛めた足を引きずり全力疾走してセーフをもぎ取ると、二塁ランナーの俊足ウィリー・メイズ・ヘイズ(ウェズリー・スナイプス)がホームに突っ込み、サヨナラ勝ち。球場は大興奮に包まれ、ジェイクは観客席にいた恋人のリン(レネ・ルッソ)と熱い口づけをかわし、仲間と喜び合うのだった。

弱小チームが勝利を重ね、最後に優勝するという、本当に分かりやすいベタな筋書きなのだが、それでもやっぱり感動する。リリーフにリッキーが登場し、「ワイルド・シング」が球場に鳴り響く場面では興奮で胸が震えるし、オーナーの企みを知ったチームが一致団結するシーンや、ラストのジェイクの全力疾走も感動的。この手の作品では、序盤の振りとして、仲間同士のいがみ合いを延々と描いたりすることがあるが、本作はそこをあまりジメジメと描かず、チームメイトが基本的に仲良しで爽快だし、個性の違いによるいざこざをコミカルに描いているのがいい。唯一、身の安全を優先して消極的なプレイに終始するロジャー・ドーン(コービン・バーンセン)とジェイクとのやりとりは若干シリアスで、ロジャーの妻スザンヌがリッキーと浮気をともにしたことでロジャーとリッキーの関係が悪化するという一幕もあるのだが、これなんかは、クライマックスでロジャーとリッキーが信頼関係を取り戻すという展開のために必要な筋書きだったとしても、もうちょっといい別のエピソードにできなかったのかという気はした。
ちなみに、トム・ベレンジャーの野球選手としての動きは、残念ながらプロのものとは思えなかったが、チャーリー・シーンは野球経験者だけあって投球シーンはさまになっていた。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2021年1月31日 (日)

(2314) レ・ミゼラブル

【監督】トム・フーパー
【出演】ヒュー・ジャックマン、ラッセル・クロウ、アマンダ・サイフリッド、アン・ハサウェイ、エディ・レッドメイン
【制作】2012年、イギリス、アメリカ

ビクトル・ユーゴーの小説のミュージカル作品の劇場版。

妹の子のためにパンを盗んで19年も投獄され、看守のジャベール(ラッセル・クロウ)に目を付けられていたジャン・バルジャン(ヒュー・ジャックマン)は仮出所の機会を得る。ジャンは食事を提供してくれた教会で、あろうことか金目の物を盗んで逃げて警官に捕まるが、神父はそれは彼にあげたのだと警官に言い、ジャンを赦す。ジャンは心を入れ替え、時を経て立派な市長となると、我が子を養うために娼婦に堕ちてしまったファンティーヌ(アン・ハサウェイ)と出会い、彼女の子コゼット(イザベル・アレン)を救うことを使命と感じ、あくどい宿屋で働かされていた彼女を救い出すと、彼女とともに密かに生きる道を選ぶ。警察署長となったジャベールは市長の正体がジャンだと気づき、彼を逮捕することを心に誓う。
9年が経ち、美しく成長したコゼット(アマンダ・サイフリッド)は、革命の士マリウス・ポンメルシー(エディ・レッドメイン)と出会い、互いに惹かれ合う。ジャンは二人の恋を知り、一度はコゼットを失うことを恐れるが、若い二人を守ることを決意。マリウスのいる革命軍に身を投じる。ジャンは、革命軍に潜入して捕まったジャベールを見つけ、あなたに恨みはないと言って彼を密かに逃がす。革命軍は警察の総攻撃を受け、マリウスも負傷して意識を失うが、ジャンは下水道を通って必死に彼を救出。ジャベールはマリウスを抱えたジャンを発見するが、彼を逮捕することができず、苦悩の末、投身自殺する。回復したマリウスはコゼットと結婚することになるが、ジャンは自分の過去が暴かれればコゼットを不幸にするとマリウスに告げ、コゼットに黙って旅立つ。しかし、マリウスは自分の命を救出したのがジャンだと知り、ジャンのいる修道院にコゼットを連れて行く。コゼットはジャンに一緒に生きてほしいと伝えるが、その言葉を聞きながら、ジャンはファンティーヌに導かれ、あの世へと旅出つ。フランスは明日の希望に満ちた人々で埋め尽くされるのだった。

ミュージカルを完全映画化したことが売りの本作。スーザン・ボイルの歌で有名になった「夢やぶれて」も登場する。ほぼ全編にわたって歌い続けており、素のセリフが少ない。ミュージカル映画の中でも異色だろう。名だたる声優が自分で、しかもアフレコでも事前録音でもなく撮影現場で歌っているというのは驚き。ヒュー・ジャックマンやアン・ハサウェイってこんなに歌がうまいの、とびっくりした。
ストーリーも重厚で見応えがあり、「レ・ミゼラブル」を知らないという人は、傑作文学作品のあらすじを知ることができるという意味でも、観る価値はあるだろう。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

2021年1月12日 (火)

(2295) パラサイト 半地下の家族

【監督】ポン・ジュノ
【出演】ソン・ガンホ、チェ・ウシク、チャン・ヘジン、パク・ソダム、チョ・ヨジョン、イ・ジョンウン
【制作】2019年、韓国

裕福な家族の暮らす豪邸に寄生した貧乏な一家の運命を描いた作品。第92回アカデミー賞作品賞受賞作品。

低所得層が住む半地下の家に暮らすキム一家。息子のギウ(チェ・ウシク)は大学生の友人ミニョク(パク・ソジュン)から、IT長者パク・ドンイク(イ・ソンギュン)の高2の娘ダヘ(チョン・ジョソ)の家庭教師をしてほしいと頼まれる。ダヘの母親ヨンギョ(チョ・ヨジョン)が、幼い息子ダソン(チョン・ヒョンジュン)の絵の先生を探していると聞いたギウは、家族であることを隠して妹のギジョン(パク・ソダム)を絵の先生に据える。帰宅したドンイクは、おかかえの運転手にギジョンを送るよう命じる。ギジョンは車の中でこっそり自分のパンティを後部座席に脱ぎ捨て、ドンイクが運転手を首にするようしむけ、運転手の座に父親のギテク(ソン・ガンホ)をつかせる。キム一家はさらに計画を練り、長年家政婦をしているムングァン(イ・ジョンウン)が桃アレルギーであることを利用して、彼女が結核患者だとヨンギョに信じ込ませ、首になったムングァンの後任として、母親チュンスク(チャン・ヘジン)が家政婦になる。こうしてキム家の四人はまんまと豪邸への寄生に成功する。しかし唯一、ダソンは、四人から同じ匂いがすると言ってギテクを慌てさせる。
パク一家が、ダソンの誕生祝いのため泊まりのキャンプ旅行に出かけたのを機に、キム家は四人揃って豪邸で酒盛りをする。ところがそこにムングァンが訪ねてきて呼び鈴を鳴らし続ける。インターホンに出たチュンスクに、ムングァンは忘れ物をしたから家に入れてほしいと言ってくる。チュンスクが仕方なくムングァンを招き入れると、ムングァンは食料庫に向かう。そこにはなんと秘密の地下室への通路があった。ムングァンはパク家に内緒で、借金取りに追われている自分の夫オ・グンセ(パク・ミョンフン)を地下室にかくまっていたのだ。それを知ったチュンスクは彼らを警察に突き出そうとするが、その様子を隠れて聞いていたギウたちが階段を踏み外してムングァンの前に姿を現してしまい、彼らが家族であることがムングァンにばれ、さらにその様子を動画に撮られてしまう。形勢は逆転し、ムングァンはグンセとともにリビングでくつろぎ、キム一家に両手を挙げさせて自由を奪うが、隙を突いてキム家がムングァンとグンセに飛びかかり、リビングで乱闘となる。そこに電話がかかってくる。パク家が大雨のためにキャンプができなくなり、帰って来るというのだ。キム家はムングァンとグンセを地下室に閉じ込める。チュンスクは階段を上がってこようとするムングァンを蹴落とし、ムングァンは頭を強打して気を失ってしまう。チュンスク以外の三人は何とか豪邸を脱出。大雨の中、家に戻るが、家の中には下水が流れ込んでおり、彼らは体育館で一夜を過ごす。体育館の中でこれからどうするのかギウに尋ねられたギテクは、無計画が一番いいんだと話す。ギウは無謀な計画を立てたことを謝罪する。
嵐が去り、パク家はダソンを祝うホームパーティを開くことにし、ギウとギジョンも招待される。ギテクの運転する車でパーティの買い出しに出たヨンギョは、車内でギテクの体臭に鼻をつまみ、思わず窓を開ける。昨晩大雨の中で必死だったギテクの顔からは笑顔が消えていた。
パク家に多くの客が招待され、庭でパーティが盛り上がる中、ギウは恋仲となったダヘの部屋で彼女との口づけを終えると、ミニョクからもらった観賞用の岩石を持ってムングァンとグンセのいる地下室に向かう。ところが待ち伏せしていたグンセに襲われ、慌てて逃げた背後からグンセに岩石で殴られてしまう。正気を失ったグンセは、包丁を持ってパーティ会場の中庭に現れ、バースデーケーキをダソンに渡そうとしていたギジョンに包丁を突き立てる。幼い頃にグンセの姿を見て失神したことのあるダソンは、同じグンセの姿に再び失神。ギジョンを刺したグンセは、今度はチュンスクに襲いかかる。パニック状態となった客は逃げ出し、ドンイクは息子を病院に連れて行くため、ギテクから車の鍵を受け取ろうとするが、ギテクの投げ渡そうとした鍵は地面に落ち、そこにもみ合うグンセとチュンスクが倒れ込む。包丁を振りかざすグンセの腹部に、チュンスクがバーベキューの串を突き刺し、グンセは鍵の上に倒れる。ドンイクはグンセを押しのけて鍵を手にするが、そのときグンセの体臭に顔をしかめ、同時に、何かに気づいたような表情を浮かべる。その顔に「これはギテクと同じ匂いだ」と書かれていると思ったのか、ギテクは突如、落ちていた包丁を手にすると、そのままドンイクの胸に包丁を突き立て、姿を消す。事件の結果、ギジョンとグンセ、ドンイクが命を落とし、ギウは脳手術を受けて何とか生存。ギウとチュンスクは執行猶予付きの有罪判決を受けるが、ギテクは行方不明となる。ギテクはグンセのいた地下室に潜んでいた。彼はすでに亡くなっていたムングァンを家主不在の間に庭に埋葬し、その後はモールス信号で息子にメッセージを送り続けていた。ギウはある日、それに気づき、金を稼いで豪邸を買い、父親に地下室から出てきてもらうことを計画立てるのだった。

アジア初のアカデミー賞作品賞受賞作品ということで、日本でも相当話題になった本作。クライムサスペンス風の前半から、後半の惨劇のシーンまで、どこか浮世離れしたコミカルな雰囲気を帯びながら、韓国の貧富の差という現実を描き出している。中だるみのないハイテンポな展開が小気味よく、シナリオもよく練られている。匂いが一つの鍵になっており、クライマックスの惨劇のシーンで、言葉を使わず表情やしぐさだけで匂いにまつわるやりとりを描く演出は見事。人によって解釈が異なるような含みがあり、繰り返し観て新たな発見があるようにもなっている。評判通りの名作だった。

【5段階評価】5

| | コメント (0)

より以前の記事一覧