(2758) 運動靴と赤い金魚
【監督】マジッド・マジディ
【出演】ミル=ファロク・ハシェミアン、バハレ・セッデキ、アミル・ナジ、ダリウシュ・モクタリ
【制作】1999年、イラン
妹の靴を無くした少年が、妹を悲しませないように奮闘するさまを描いた作品。
靴屋で赤い靴を修理してもらった少年アリ(ミル=ファロク・ハシェミアン)は、八百屋でジャガイモを買っている間に、入り口に置いていた靴を廃品回収屋に持ち去られてしまう。その靴は妹ザーラ(バハレ・セッデキ)が通学に使う靴だった。家が貧しく、家賃も払えず八百屋のジャガイモもツケで買っていることを知っているアリは、靴を無くしたことなど、とても親には言えない。アリは、先に学校に行くザーラに自分の古びた運動靴を履かせ、妹が下校した後に靴を交換して、アリが学校に行くという作戦をとる。ザーラは学校が終わると走って家に帰り、途中で待っているアリが靴を履き替えて学校に全速力で走るが、何度も遅刻し、先生に目をつけられてしまう。事情を話せば靴を無くしたことが父親(アミル・ナジ)にばれ、怒られると思っているアリは、先生にも何も事情を説明できず、涙ながらに叱責に耐える。父親と高級住宅街で庭師の仕事を探すアリは、偶然仕事にありつき、父親は高額の報酬をもらう。アリは父親に、ザーラの靴を買ってあげてほしいとお願いする。
学校でマラソン大会が開かれることになり、3等の賞品が運動靴になっているのを知ったアリは大会に参加。毎日全速力で学校に走って通っていたアリは、足腰が鍛えられており、ライバルに転ばされたりしながらも無我夢中で走ると、なんと1等でゴールイン。アリの先生は大喜びするが、3等の運動靴目当てだったアリはあからさまに落ち込み、家に帰る。その頃、父親は、街で二人分の靴を買っていた。そうとは知らないアリは、待っている妹に何も告げられず、ボロボロの運動靴と靴下を脱ぐと、皮のすりむけた両足を中庭の池に入れる。アリの足の周りには、まるで赤い靴のように金魚が群がるのだった。
同じイラン映画の「友だちのうちはどこ?」と同様、大人にとっては些細な大問題を抱えた少年が、大人に何も言えず涙ながらに奮闘する姿がいたましくほほえましい。マラソン大会に優勝して、アリはたいそう落ち込んでいるのだが、父親は靴を手に入れており、観客は「この先はどう転んでもハッピーエンドだろう」とわかる。でも本作は、そのシーンは描かない。金魚が足元にまとわりつくだけで、この後、どんな歓喜が少年に訪れるかは、観る者の想像に任せている。心憎い演出だ。さすがにこの手のイラン映画が2本続くと、イランでは「子供は大人に口答えするな」というのが基本的教育方針なのかしら、などと勘ぐってもしまうのだった。
【5段階評価】4
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