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2024年1月

2024年1月31日 (水)

(2568) 東京日和

【監督】竹中直人
【出演】竹中直人、中山美穂、松たか子、類家大地、三浦友和、鈴木砂羽
【制作】1997年、日本

男性カメラマンと旅行会社に勤める女性の夫婦のかかわりを描いた作品。写真家の荒木経惟・陽子夫妻の小説が原作。

写真家の島津巳喜男(竹中直人)は、亡き妻、ヨーコ(中山美穂)の写真集「東京日和」の制作準備のため、仕事仲間の水谷(松たか子)を家に呼び、ヨーコに思いを馳せる。生前のヨーコは、ささいなことで3日も家出をしたり、精神的に不安定なところがあった。巳喜男はできるだけヨーコに優しく接し、穏やかな日常を送るようにする。ヨーコは精神が安定しているときもあったが、アパートの1階に住む小学生のテツオ(類家大地)を家に呼び、少女用にワンピースを着せようとしたり、仕事に行かずテツオと夜まで一緒に外で過ごしたり、時折危うい行動をするのだった。
二人は新婚旅行で訪れた柳川を再訪。思い出の場所を巡る。しかし、ヨーコは子宮肉腫のため、結婚生活11年、34歳で帰らぬ人となったのだった。

序盤に激しい夫婦喧嘩を見せるが、とりとめのない日常と、不安定な日々が入り交じりながらも、夫婦の穏やかなやりとりを描いている。過去を振り返る形になっているので、序盤の夫婦喧嘩と中盤以降の穏やかな関係は、どういう時系列なのかわからずじまいだったものの、冒頭で妻が亡くなったことが示されるので、完全に迷子にはならなかった。

【5段階評価】3

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2024年1月30日 (火)

(2567) ゴジラvsデストロイア

【監督】大河原孝夫
【出演】辰巳琢郎、石野陽子、小高恵美、林泰文、篠田三郎、大沢さやか、高嶋政宏
【制作】1995年、日本

ゴジラと巨大怪獣との戦いを描いた作品。「ゴジラvsスペースゴジラ」の続編。

香港に体が赤く発光したゴジラが出現。大学生の山根健吉(林泰文)は、ゴジラが核融合炉となって熱を帯び、地球が炎に包まれる可能性を指摘する。日本では海底工事で謎の事故が起き、物理化学研究所の伊集院研作(辰巳琢郎)は海底の土を分析。分析中、いつの間にか中に潜んでいた生命体がフラスコを突き破って外に出る。するとしながわ水族館で、魚が水中で白骨化する現象が起きる。画像分析により、海底の生命体が関係していることが分かる。生命体デストロイアは巨大化し、複数体が臨海副都心に現れ、街を破壊する。香港に出現したゴジラは豊後水道に接近。原子力発電所が狙いと思われたが、自衛隊のSX-IIIが出動し、冷凍弾や冷凍光線でゴジラを6時間冷凍させることに成功する。さらにゴジラジュニアが御前崎沖に出現。冷凍状態から復活したゴジラはジュニアに向かって進み始める。健吉は、ジュニアを使ってゴジラとデストロイアを戦わせることで、ゴジラのメルトダウンを防ぐ作戦を提案。国連G対策センター長官の国友満(篠田三郎)は、その作戦を決行。ゴジラと心を通わせる超能力を持つ三枝未希(小高恵美)と小澤芽留(大沢さやか)は協力してジュニアを東京湾に導く。そこにデストロイアが現れ、ジュニアを攻撃。ジュニアは倒されながらも口からの熱線でデストロイアを弾き飛ばす。そこにゴジラが出現。デストロイアは巨大化して復活し、ジュニアを臨海副都心に叩き落とす。ゴジラとデストロイアは死闘を繰り広げ、最後は自衛隊の攻撃によりデストロイアは倒されるが、ゴジラの体温はメルトダウンを意味する1,200度に至る。自衛隊の黒木特佐(高嶋政宏)はSX-IIIの冷凍弾を全弾打ち込む。ゴジラのメルトダウンによる地球破壊は免れ、ゴジラはその場で溶け出し、消滅する。しかし、白煙の中には、新たなゴジラの影が浮かぶのだった。

1作目の「ゴジラ」の設定を引き継いだ内容になっており、かつてゴジラ退治に用いられたオキシジェン・デストロイヤーが、巨大怪獣デストロイアを生み出すきっかけとなっている。デストロイアの口から牙が出たり、複数体のデストロイアがレーダーで検知されたりする辺りは、「エイリアン」や「エイリアン2」のパクリが露骨。なぜかキャスターの山根ゆかり(石野陽子)が執拗にデストロイアに狙われるのも無理があった。

【5段階評価】3

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2024年1月29日 (月)

(2566) 余命10年

【監督】藤井道人
【出演】小松菜奈、坂口健太郎、山田裕貴、奈緒、黒木華、リリー・フランキー、原日出子
【制作】2022年、日本

小坂流加(るか)の小説の映画化作品。難病と闘う女性の恋を描いている。

高林茉莉(まつり)(小松菜奈)は、100万人に一人と言われる難病の肺動脈性肺高血圧症を患い、余命10年と宣告されていた。2年の入院の後、自宅療養となった彼女は、地元静岡の同窓会に出席し、真部和人(坂口健太郎)に再会。和人は父親の後を継がずに独立したものの、生活に困窮しており、ある日、アパートから身投げする。東京で暮らす冨田タケル(山田裕貴)から連絡を受けた茉莉は、入院した和人を見舞いに行く。和人が、生きている意味がわからなくなりふわっと、と飛び降りたときの心境を語ると、茉莉はそれっとズルいと言って病室を去る。タケルと和人は茉莉を誘い、タケルが父と慕う玄さん(リリー・フランキー)の居酒屋に集まる。和人と茉莉は互いに病室での一件を謝る。タクシーで帰るタケルを見送った後、茉莉は和人に笑顔で、私も頑張るから、もう死にたいなんて思わないで、と話す。
茉莉は親友の沙苗(奈緒)が勤める文芸社で働くことになり、和人は玄さんのもとで居酒屋の修行を始める。タケルと沙苗は付き合うことになり、タケルは、茉莉をものにしろと和人を応援。和人は茉莉に好きだと告白するが、茉莉はそれを拒否。和人から去ろうとするが、息が苦しくなり、倒れる。茉莉は病室で和人に会いたくないと話し、自暴自棄になるが、和人は茉莉を探し出し、改めて好きだと告白。茉莉は和人を受け入れ、二人は付き合い始める。
泊まりがけの旅行をした帰り、和人は茉莉にプロポーズするが、茉莉は自分が不治の病であることを告げ、和人を受け入れると死ぬのが怖くなるから、と言って立ち去る。和人は膝から崩れ落ちる。家に帰った茉莉は、母親の百合子(原日出子)に、死にたくない、と初めて弱音を吐いて号泣。百合子は優しくそれを受け止める。
茉莉はコラムを書き上げ、沙苗はそれを書籍として出版することを約束する。和人は独立して店を構え、店の名前を「まつり」にする。タケルと店を訪ねた沙苗は、茉莉の原稿を和人に渡す。病状の悪化した茉莉は、和人と幸せな家庭を築く未来を夢見ていた。和人は茉莉を見舞い、頑張ったね、と声をかける。和人は桜並木の下で茉莉のことを思い出すのだった。

人が死ぬ話はそりゃ泣くよね、という作品。後半で茉莉が母親にすがりついて弱音を吐くシーンが感動的。病気や治療に苦しむシーンは控えめで、二人で楽しく過ごした時間を、美しく映像化していた。原作者の小坂流加自身も、同じ病気で早世している。

【5段階評価】4

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2024年1月28日 (日)

(2565) 山猫は眠らない8 暗殺者の終幕

【監督】カーレ・アンドリュース
【出演】チャド・マイケル・コリンズ、トム・ベレンジャー、秋元才加、ロックリン・マンロー、ライアン・ロビンズ、マイケル・ジョンソン
【制作】2020年、アメリカ

大臣暗殺の濡れ衣を着せられた兵士の奮闘を描いた作品。「山猫は眠らない7 狙撃手の血統」の続編。

南米のコスタベルデで、ブルーノ・ディアス大臣(ビクター・ファブリン)が女性スナイパー(秋元才加)に狙撃されて死亡。遺留品から米軍海兵隊のブランドン・ベケット(チャド・マイケル・コリンズ)が容疑者となり、逮捕される。その様子を見ていた女性スナイパーは、電話で依頼主にとるべき行動を確認。依頼主は、ブランドンの護送車を襲うので、全員を殺害せよと命令する。
ブランドンは、CIAの隠れ家でフランクリン捜査官(ロックリン・マンロー)から尋問を受ける。そこに国土安全保障省のゼロことローゼンバーグ(ライアン・ロビンズ)が現れ、真実を明かすとブランドンに約束する。ブランドンは秘密軍事施設への移送中、何者かの襲撃を受ける。女性スナイパーもブランドンを狙うが、ブランドンは窮地を脱し、車で逃走する。
ローゼンバーグはフランクリンの部下のクローバー(エミリー・テナント)を味方につけ、独自の捜査を展開。ディアス大臣の狙撃された会場に政府関係者が並ぶ中、一人だけ民間企業のノバシル製薬CEOのドナルド・サウス(ビンセント・ゲール)がいたことを不審に思い、彼に話を聞く。サウスは、アメリカとコスタベルデの間の禁輸措置の解除に貢献したからだと話し、大臣暗殺により解除が撤回されれば、ノバシル製薬の株価が下がり、ノバシルを吸収合併しようとしているファイカス社が得をすると語る。ローゼンバーグはクローバーに連絡を取り、ファイカス社で最近、ストレイホーン(アレックス・バリマ)という経理担当者が社内の立ち入り禁止区域に入り、警察が駆け込んだという事件があったことを知る。ローゼンバーグはファイカス社を訪ねる。応対した警備主任のドレイク・フェニックス(マイケル・ジョンソン)は、ストレイホーンは病欠しており、彼が暗殺に関与しているとは考えられないと話す。
ブランドンはモンタナ州北部で暮らす父親のトーマス・ベケット(トム・ベレンジャー)のもとを尋ね、状況を説明する。トーマスはブランドンに過去の経験を聞かれ、昔、敵に単身で乗り込んだ相棒が「アウディ・ビデ・タチェ」と繰り返していたこと、相棒が人質に取られ、標的を仕留めることはできたが、二人の距離が近く、相棒も犠牲になったという話をする。
ローゼンバーグはクローバーから、ブランドンのかつての同僚のマコネル軍曹の人相が、フェニックスと似ていることを伝えられる。マコネル軍曹は死亡したことになっていた。ローゼンバーグは再度ファイカス社に向かい、ストレイホーンを問い詰める。ストレイホーンはフェニックスに脅され、株価変動を利用して数百万ドルを手に入れるため、オフショア口座を開設しようとしていたことを白状する。
ブランドンを追っていたフランクリンは、トーマスの住み家に特殊部隊を差し向ける。それに気づいたトーマスは床下の隠し通路からブランドンを逃がし、自らは特殊部隊の求めに応じて手を上げるが、待ち構えていた女性スナイパーが特殊部隊を攻撃。トーマスは慌てて家に入り、スナイパーを探す。隠し通路から外に出たブランドンもトーマスと合流。二人の協力により、スナイパーを確保する。ブランドンは特殊部隊の通信装置を通じて女性スナイパーの存在を報告。女性スナイパーの正体は、日本のヤクザとつながりのあるレディ・デスことユキ・ミフネだった。フェニックスが彼女の依頼主であり、彼は金儲けのために今回の事件を仕組んでいたのだった。
ブランドンは、ユキを使い、自分を囮にしてフェニックスをおびき出す計画をフランクリンに持ちかける。ユキはアメリカでの罪を免除してもらうことを条件に捜査への協力を承諾。ユキはフェニックスに連絡し、生け捕りにしたブランドンをフェニックスの屋敷に連れていく。フェニックスが二人を屋敷に招き入れたため、フェニックスの確保が困難と考えたフランクリンは特殊部隊を送り込むが、フェニックスはユキに発砲。ブランドンを人質に取る。フェニックスを狙撃する役割を担っていたトーマスに、フランクリンはフェニックスを撃てと指令を出すが、フェニックスとブランドンの距離が近く、狙撃ができない。すると無線を通じて、ブランドンが「アウディ・ビデ・タチェ」とつぶやく。トーマスが意を決して引き金を引くと、銃弾はフェニックスの脳天を貫き、彼はその場に崩れ落ちる。フェニックスの共犯だったサウスも捕まり、事件は落着する。ローゼンバーグは日本に送還されるはずのユキを引き留め、彼女の狙撃の腕前を称賛し、改めて彼女に自己紹介。ユキはにやりと微笑むのだった。

それなりの作品だった。腑に落ちなかったのは、終盤、フランクリンの部下のクローバーがサウスの娘で内通者だったという落ちがあるのだが、じゃあなんでクローバーはローゼンバーグの捜査に協力していたのか、という謎の説明がないこと。フェニックスの屋敷にユキとともに向かうというブランドンの作戦も、その場で撃ち殺される可能性も十分にあり、実は無為無策。トーマスの狙撃も、もっと確実に狙撃できる場所に陣取れただろうし、「アウディ・ビデ・タチェ」のエピソードも、最後にブランドンが言うことが見え見えだった。続編を期待させる終わり方だが、さてどうなるのやら。・・・と同じようなことを前回も書いた訳なので、きっとまた続編があるのだろう。

【5段階評価】2

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2024年1月27日 (土)

(2564) マーベリックの黄金

【監督】サム・ワナメイカー
【出演】ユル・ブリンナー、リチャード・クレンナ、レナード・ニモイ、ジョー・アン・プフルーク、ダリア・ラビ
【制作】1971年、アメリカ

黄金の強奪を企む盗賊団と保安官の奮闘を描いた西部劇。

盗賊団のボス、キャットロウを追う保安官のベン・カウアン(リチャード・クレンナ)は、先住民のトンカワ族に襲われ、脚を負傷。彼を助けたのは皮肉にもキャットロウだった。キャットロウがカウアンを介抱しながら野営していると、キャットロウに恨みを持つミラー(レナード・ニモイ)が仲間を引き連れて現れる。ミラーはキャットロウに絞首刑を宣告。キャットロウは、観念してブーツを履く振りをして、ブーツの中の銃で反撃。ミラーの一団は退散する。
町に着いたキャットロウ一味はベンから逃れ、恋人のロジータ(ダリア・ラビ)のいる町に向かう。ベンもキャットロウを追い、町でミラーを見かける。二人は同じ宿に泊まる。キャットロウはベンを連れ出し、彼を仲間に誘う。所有者不明の200万ドルの黄金を手に入れようと言うのだ。しかしベンは、黄金は合衆国政府のものだと主張。物別れに終わる。キャットロウは宿で入浴中のミラーの部屋に上がり込み、ミラーをからかうが、ミラーが銃で反撃。二人はつかみ合いになり、倒れたミラーは陶器の破片が首に刺さり、重傷を負う。
キャットロウを追うベンは、道中、瀕死の兵士ディエゴを発見。ベンはディエゴを守るがアパッチ族に囲まれてしまう。絶体絶命となったところにディエゴの味方の軍勢が駆けつけ、二人は助かる。ディエゴは、ベンにいとこのクリスティーナ(ジョー・アン・プフルーク)を紹介し、今晩のパーティでの彼女のエスコートをベンに依頼する。パーティのさなか、黄金を運ぶラバ隊をキャットロウの盗賊団が襲い、ラバ隊を奪って逃走する。キャットロウはメキシコ軍の裏をかいて砂漠地帯を通って目的地に向かうが、残忍な先住民セリ族に襲われる。何とかセリ族の追撃を逃れて拠点を目指すが、拠点にはキャットロウにつれない扱いをされた恋人ロジータ(ダリア・ラビ)が、彼を恨んで待ち構えていた。キャットロウを追っていたベンはいち早くそれに気づき、拠点にいるロジータの一味を攻撃。ベンのお陰で拠点の異変に気づいたキャットロウは、ロジータ一味を制圧する。しかし、夜営中にリオ(マイケル・デラノ)と一部の仲間がキャットロウに反目。銃とラバを奪ってキャットロウのもとを去る。ロジータも逃走していた。キャットロウとベン、そして少数の仲間が丸腰で拠点に取り残される。そこに、彼らが銃を持っていないことに気づいたセリ族が近寄ってくる。なすすべなく物陰で身構えるしかないキャットロウたちだったが、突如、セリ族がきびすを返して去って行く。背後にロジータらを捕らえたメキシコ軍が現れたのだった。笑い出すキャットロウだったが、ついにベンがキャットロウに銃を突きつけ、彼らを逮捕する。エルモシージョ刑務所にロジータ一味は捕らえられ、キャットロウ一味はそこからツーソン行きの馬車に乗せられる。馬車にはすでにクリスティーナが乗っており、ベンは驚く。そこに、メキシコ兵を人質にとって銃を構えたミラーがやってくる。ミラーは首の傷を見せつけ、キャットロウを撃ち殺そうとするが、ベンの銃を奪い取ったキャットロウの反撃に遭い、命を落とす。キャットロウは、負傷したベンをクリスティーナに任せると、自分は保安官として凶悪な犯罪者を国に連れ帰ると言って、ベンの保安官バッジを奪い取り、高笑いするのだった。

典型的な西部劇。西部劇らしい音楽に、「アワワワワ」と雄叫びを上げる先住民。先住民はひたすら登場人物を襲撃する雑魚キャラだ。ごった煮のような作品だった。タイトルにもある「マーベリック」は所有者不明の牛のこと。転じて、異端者とか一匹狼といった意味もある。ミラー役のレナード・ニモイは、「スター・トレック」のスポック役があまりにも有名。

【5段階評価】3

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2024年1月26日 (金)

(2563) ニューヨークの恋人

【監督】ジェームズ・マンゴールド
【出演】メグ・ライアン、ヒュー・ジャックマン、リーブ・シュレイバー、ブレッキン・メイヤー、ブラッドリー・ウィットフォード
【制作】2001年、アメリカ

過去からやってきた公爵と現代の女性の恋を描いたラブ・コメディ。

1876年のニューヨーク。落ちぶれたスコットランド貴族、レオポルド公爵(ヒュー・ジャックマン)は、ブルックリン橋の建設式典で(この時代にはないはずの)小型カメラを使っている怪しい男(リーブ・シュレイバー)を見かけ、後を追おうとするが逃げられる。レオポルドは、裕福なアメリカの女性と結婚することを余儀なくされており、パーティで強制的に結婚相手探しをさせられていた。彼はパーティ会場で再び怪しい男を見かける。興味を覚えたレオポルドは、男に声をかけるが、男は慌てて馬車に駆け込み、逃げ出す。レオポルドが馬で追いかけると、馬車を降りた男は、ブルックリン橋の巨大な柱を登り始める。追いかけたレオポルドは、男とともにブルックリン橋から落下する。
時は変わって現代。アパートのエレベータに乗っていたケイト・マッケイ(メグ・ライアン)は、衝撃を感じ、不思議に思いつつ、エレベーターを降りる。上の階に住む元彼の家から騒音が聞こえたので、外階段で行ってみると、そこには怪しい男とレオポルドがいた。レオポルドが追っていた男が、ケイトの元彼スチュアートであり、二人は1876年からタイムリープしていたのだ。ケイトは、スチュアートの説明を全く信じず、彼が浮気をしているか、ゲイの男を家に連れ込んだのだろうと考える。スチュアートは、特定の時刻に現れる時空の裂け目を自由落下して通過することで、時間を超えられることを発見しており、次の時空の裂け目が生まれるときまで、レオポルドを家にかくまうことにする。ところが、スチュアートはエレベータに乗ろうとしてエレベータがなかったためにシャフトを落下し、大けがをして入院することになってしまう。レオポルドは、ケイトの弟チャーリー(ブレッキン・メイヤー)と知り合う。軽薄なチャーリーに、レオポルドは紳士的な恋の手ほどきをする。
広告会社に勤めるケイトは、CMに用いるタレントの起用に頭を悩ませていた。スチュアートの家にいる紳士的なレオポルドの語り口が、CMで受けることを予感したケイトは、彼をCMタレントに抜擢。その起用が見事に当たる。ケイトは上司のJJ(ブラッドリー・ウィットフォード)から食事に誘われるが、JJの目的は仕事のねぎらいではなく彼女を口説くことだった。レオポルドがケイトに気があると感づいたチャーリーは、JJとケイトのデート現場に現れる。レオポルドは、オペラ好きだとうそぶくJJを、持ち前の知識でやりこめて恥をかかせ、その場を去るが、自らその行為を恥じ、ケイトに謝罪の手紙をしたためる。手紙には、アパートの屋上でケイトを食事に招待すると書かれていた。ケイトは買ったまま着ることのなかったドレスをまとってレオポルドの招待に応じる。二人は屋上でダンスを踊り、口づけを交わす。
二人は恋を育むが、再度CMに起用されたレオポルドは、自分が宣伝している食品が、極めてまずい物であることを知り、CM撮影を拒否。レオポルドのCM起用を昇進の好機にしようとしていたケイトとの間に亀裂が生じる。入院していたスチュアートは、何とか病院を抜けだし、歴史が変わるのを避けるため、レオポルドを過去の世界に戻す。チャーリーは、1876年にスチュアートが撮影した写真を見て、レオポルドは本当に過去からやってきたのだと知る。二人は、写真に驚くべき人物が写り込んでいるのを発見し、ケイトの昇進を祝うパーティに無理矢理参加する。写真に写っていたのはケイトだった。スチュアートは、自分の歴史上の役目が、ケイトとレオポルドを結びつけることだったのだと確信し、ケイトを過去にタイムリープさせる。ケイトは、1876年に開かれた、レオポルドの結婚相手を決めるパーティに飛び込む。ケイトと別れて1876年に戻り、自暴自棄になって金持ちの女性と婚約発表する気でいたレオポルドは、会場に駆け込んできたケイトを見つけ、彼女を結婚相手に選ぶと宣言。二人はめでたく結ばれるのだった。

タイトルから想像の付かないタイムトラベルものだった。途中で「これはケイトが過去に行くのだな」と展開が読めてはしまったが、恋愛物だからハッピーエンドでいいのだろう。ワイルドなウルバリンを演じたヒュー・ジャックマンが、紳士的な英国貴族を演じていて、これがまた堂に入っていた。

【5段階評価】3

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2024年1月25日 (木)

(2562) 赤毛のアン グリーンゲーブルズへの道

【監督】高畑勲
【出演】山田栄子(声)、槐柳二(声)、北原文枝(声)、羽佐間道夫(声)
【制作】2010年、日本

テレビアニメ「赤毛のアン」の劇場版。孤児院の少女がある家族に引き取られる過程を描いている。

1880年頃のカナダ。女性が苦手で独身を貫いている老人マシュウ・カスバート(槐(さいかち)柳二)と、彼と同居する、こちらも独身の妹、マリラ(北原文枝)は、働き手となる男の子を孤児院から引き取ることにする。ところが、マシュウが馬車で駅まで迎えに来ると、そこで待っていたのは赤毛の少女アン・シャーリー(山田栄子)。マシュウはとまどいながらもアンを馬車に乗せる。想像力豊かでおしゃべりのアンは、馬車の上で、景色の素晴らしさやこれからの生活への期待を楽しそうに話し続ける。マシュウは嫌な顔一つせずにそれを聞き、すっかり女の子を気に入ったようだった。
ところが、家に着いたアンを見たマリラは、女の子は役に立たないから孤児院に返すと冷たく言い、アンは号泣する。一夜明け、マリラはアンを馬車に乗せて、引き取りを仲介したスペンサー夫人(坪井章子(あきこ))の家に連れて行く。事情を聞いたスペンサー夫人は、他に女の子を引き取りたがっている家があると話し、ちょうどそこに依頼主のブルエット夫人(京田尚子(ひさこ))が現れる。ブルエット夫人は品定めするような顔つきでアンに年を尋ねる。アンは答えないが、ブルエット夫人は、芯の強そうな子だからアンを引き取る、と発言。するとマリラが、まだあの子を引き取らないと決めたわけじゃない、と言ってアンを家に連れ帰る。アンは期待に胸を膨らませる。マリラは、兄がアンを気に入ったようだから、とアンを家に置くことを決める。アンは大喜びし、畑仕事をしているマシュウに駆け寄り、彼に抱きつく。マシュウは目を白黒させながら、アンを受け止めるのだった。

想像力豊かなアンの言葉と、花びらが舞い、天使が踊るような、アンの心情を表現した映像が融合。文学作品をアニメにしたらこうなるよね、という作風で、原作を読んでみたくなるできばえだった。マシュウの「そうさのう」という口癖は有名だろう。ずっとしかめ面のマリラが、時折ふと見せる笑顔がいいのだが、本作は「赤毛のアン」の序盤なので、それをあまり見ることができないのは残念だった。
テレビアニメは1979年であり、本作の公開はそれから30年以上経っているのが意外だった。1990年に限定的に公開されたらしいが。

【5段階評価】3

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2024年1月24日 (水)

(2561) いまを生きる

【監督】ピーター・ウィアー
【出演】ロビン・ウィリアムズ、ロバート・ショーン・レナード、イーサン・ホーク、カートウッド・スミス
【制作】1989年、アメリカ

全寮制の男子高生と個性的な教師との交流を描いた作品。

全寮制の男子進学校ウェルトン学院に、英語教師ジョン・キーティング(ロビン・ウィリアムズ)が。着任。彼は、教科書に載っていた、詩を数量的に扱うという概論のページを破り捨てさせたり、教卓の上に生徒を立たせて違う視点で物事を見ろと言ったり、学校の中庭を思い思いの歩き方で歩かせたり、といった独特な授業をする。生徒のニール・ペリー(ロバート・ショーン・レナード)や、内気で発言の苦手だったトッド・アンダーソン(イーサン・ホーク)らは彼の授業を気に入る。ニールは、仲間を集めて、キーティングが学生時代にウェルトン学院でやっていた「死せる詩人の会」を行う。それは、洞窟の中で詩を読むという他愛のない、それでいてどこか怪しげな営みだった。
ニールには、彼を医者にしようとする厳格な父親(カートウッド・スミス)がおり、父親には反論が許されず、大事な部活もやめさせられていたが、父親に内緒で芝居のオーディションを受け、主役の座を勝ち取り、大喜びする。ところが、本番前日、そのことが父に知られてしまう。父親は芝居をやめろとニールに強く命じ、ニールははい、と答えることしかできない。ニールはキーティングに相談に行く。キーティングは芝居までに父親に自分の思いを伝えて説得するんだと純粋なアドバイスをし、ニールはそれに従い、父親の了解を得る。キーティングはその結果を喜ぶ。
ニールの同級生のノックス・オーバーストリート(ジョシュ・チャールズ)は、偶然知り合った女学生クリス(アレクサンドラ・パワーズ)に一目ぼれ。彼女が、別の男子チェット・ダンバリーと婚約していることを知りながら、熱心にデートに誘い、二人でニールの演劇を見に行く。ニールは大勢の観客を前に立派に主役をこなす。ところが、途中から会場に来て芝居を観ていた父親は、ニールの芝居に眉一つ動かさず、芝居が終わるとニールを車に乗せて家に連れ帰ると、ニールに、芝居をやめろ、明日から士官養成学校に通わせると一方的に伝える。ニールは絶望し、その夜、拳銃自殺してしまう。それを知ったトッドはショックで吐き、お父さんが殺したんだ、と叫ぶ。
ニールの父親は、悔いるどころか、学校に徹底調査を依頼。校長のノーラン(ノーマン・ロイド)は生徒に調査への協力を命じる。生徒の一人リチャード・キャメロン(ディラン・カスマン)は、キーティングが「死せる詩人の会」にニールら生徒を導き、保護者が反対していることを知りながらニールの芝居熱を煽ったのだというノーラン校長の見立てに乗るべきだと主張。チャーリー・ダルトン(ゲイル・ハンセン)はリチャードの態度に怒って彼を殴るが、「死せる詩人の会」の仲間たちは一人ひとり校長に呼び出され、ノーラン校長の作った文書に署名させられる。トッドも校長と両親が見守る中、キーティングがニールの死の原因だという文書に署名させられてしまう。
キーティングの退任が決まり、英語の授業を臨時でノーラン校長が始めると、私物の整理のため、キーティングが教室に入ってくる。ノーラン校長が、キーティングが破り捨てさせた概論をキャメロンに読ませている中、整理を済ませたキーティングが教室を後にしようとする。すると、トッドがやおら「先生、署名は無理強いされた」と立ち上がる。彼はノーラン校長の制止を無視し、自分の机の上に立ち上がる。ノーラン校長はやめないと退学だ、とわめくが、トッドの勇気を見たノックスやジェラルド・ピッツ(ジェームズ・ウォーターストン)らも机の上に立ち上がり、10人近い生徒が机の上に仁王立ちして去り行くキーティングを見送る。それを見たキーティングは「ありがとう」と言って優しくほほ笑むのだった。

教師と生徒のきずなを描いた感動作。現実の世界では、生徒が自殺すると、いじめだ、学校側の問題だ、と思い込みがちだが、その中には、本来、自殺の原因が誰にあるのか、など単純ではないことも多いだろう。本作のように、自殺した生徒にもっとも寄り添った人物が、自殺に追い込んだ張本人だと捏造され、謙虚さゆえに本人が否定しないまま、既成事実化してしまっていることも多いのではなかろうか。そんなことを考えさせられた。ラストシーンの、生徒たちが机の上に登って先生を見送るシーンは感動的。自分の意思に従って生きろ、という教えが生徒たちの心に根付いたことを見届けたキーティングの、満足そうな静かな微笑みが印象的だ。この表情はいかにもロビン・ウィリアムズらしかった。

【5段階評価】4

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2024年1月23日 (火)

(2560) 地下室のメロディー

【監督】アンリ・ベルヌイユ
【出演】ジャン・ギャバン、アラン・ドロン、モーリス・ビロー
【制作】1963年、フランス

10億フランの強奪を企てる男たちの運命を描いた作品。

出所して自宅に戻ったシャルル(ジャン・ギャバン)は、妻(ビビアーヌ・ロマンス)に、最後の大仕事をすると宣言。かつての仕事仲間マリオ(アンリ・バルロジュー)に再会するが、彼は情報だけ渡して仕事からは降りると言う。シャルルは刑務所で知り合った若者フランシス(アラン・ドロン)と、その義兄ルイ(モーリス・ビロー)を仲間にする。シャルルの立てた計画は、カンヌのカジノの売上金を強奪するというもの。フランシスが裕福な青年を演じ、マルノホテルの踊り子を口説き、裏方と顔なじみになる。狙いはカジノの売り上げが保管されている地下金庫行きのエレベーター。犯行決行当日。フランシスは、シャルルから託された銃を忍ばせた箱を背負い、ホテルのステージの裏から梯子を上り、建物の屋上に出ると、換気ダクトを匍匐前進してエレベーターシャフトを通じて金庫室に侵入。ホテルの売上金を確認するグリンプと会計係を銃で脅し、外に通じるドアを開けさせる。そこに待ち構えていたシャルルが金庫室に入り、札束を根こそぎ二つのカバンに詰めて逃走する。
二つのカバンは、フランシスがホテルのシャワールームの中に隠す。翌朝、ホテルには多数の警官がおり、ホテル内を歩くグリンプが刑事から質問を受けていた。シャルルは、カジノ強盗事件を扱う朝刊の写真にフランシスが写り込んでしまっているのを発見。ホテルでほとぼりが冷めるのを待つつもりだったシャルルは計画を変更し、フランシスから金を受け取り、ホテルを出ることにする。フランシスはシャワールームからカバンを持ち出し、ホテルのテラス席で待つシャルルに渡そうとするが、二人の周囲には、グリンプや刑事たちがうろついていて、犯人は太った年配者と若者だったとか、お金を詰めたカバンの特徴の話をしている。カバンが今にもばれそうだと感じたフランシスは、カバンをプールに沈め、捜査陣が去るのを待つことにする。プールの対岸では、シャルルがなすすべなくフランシスの行動を見守る。フランシスがプールわきに寝そべりながら水面を見ていると、花びらのようなものが水底から浮かび上がる。それは数枚の紙幣だった。プールのカバンが開き、札束が次々と浮かび上がる。シャルルとフランシスは、プールの水面が紙幣で埋め尽くされる様子を眺めるしかない。フランシスはプールから離れ、遠くに立つ。やがてプールの異様な光景に気づいた何者かが大声を上げるのだった。

完全犯罪がふとしたほころびから崩壊するという、クライムサスペンスの定番の筋書きの作品。白黒で、フランシスが踊り子と懇意になったり別れたりする下りはちょっとだれた。序盤で「あ、これは最後に犯罪が失敗に終わるパターンだな」とわかるが、古典的作品だから仕方ない。ダクト内を匍匐前進で進むシーンは「ダイ・ハード」がオマージュしたようでもあった。プールの水面を埋め尽くす紙幣のシーンは印象的。

【5段階評価】3

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2024年1月22日 (月)

SCHLAGKAMP

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ドイツ産。一口目からおいしく飲みやすい。甘めだがすっきりしている。つまみなしで単体で楽しめるおいしさ。

【5段階評価】5

 

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2024年1月21日 (日)

Charme des Maures

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フランス産。一口目のアルコール感が強い。甘すぎない。香りは今一つ。

【5段階評価】3

 

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2024年1月20日 (土)

(2559) 殺人の疑惑

【監督】クク・ドンソク
【出演】ソン・イェジン、キム・ガプス、イム・ヒョンジュン、カン・シニル
【制作】2013年、韓国

父親が誘拐殺人犯ではないかと疑う女子大生の運命を描いた作品。

記者になることを志望している26歳の大学生チョン・ダウン(ソン・イェジン)は父親のスンマンから溺愛されていた。ダウンは、就活対策として、時効が迫っているハン・チェジン君誘拐事件を取り上げた映画を観る。映画の終わりに犯人の肉声が流れ、ダウンはふと、その声や言葉遣いが父親に似ていることに気づく。気になったダウンは父親のパソコンを調べたり、釣りに行くと言って家を出る父親を尾行したりするが、パソコンにはわいせつ動画程度しかなく、釣りに行くと言っていた父親は金を稼ぐため、若くて高慢な女性に頭を下げながらアルバイトをしているのだった。
ある日、ダウンにシム・ジュニョン(イム・ヒョンジュン)という男が話しかけ、父親宛てのメモを手渡される。男はスンマンに金を要求していた。スンマンが金の用意を渋っていると、ジュニョンはスンマンの家に怒鳴り込み、娘にばらすぞとすごむ。スンマンはジュニョンを殴り倒し、今度家に来たら殺すとすごむ。
ダウンは刑事志望の同級生ジェギョン(イ・ギュハン)に父母の過去の調査を依頼。ジェギョンは先輩のソン刑事(ハ・ギョンミン)に協力してもらい、調べた結果をダウンに伝える。それによると、父親には前科三犯であり、母親は生きているのだった。母親の住所をジェギョンと訪ねると、そこにジュニョンが現れる。母親のシム・ミオフはすい臓がんのため寝たきりの状態で、ジュニョンはその弟、つまりダウンの叔父だった。そこにジュニョンから連絡を受けたスンマンが現れる。ダウンが、なぜ母親は死んだと嘘をついたのかとスンマンに詰め寄る。スンマンは母親が子供を見捨てたのだと説明する。家に帰ったダウンは、スンマンに、スンマンが誘拐殺人犯ではないか疑っていることを正直に伝える。スンマンは真顔で、そんなことあるわけないじゃないかと答える。
時効が迫り、警察はスンマンを調べ始める。テレビを見ていたダウンは、少年の父親ハン・サンス(カン・シニル)が自分の生まれた産婦人科の医者であることを知り、コリョ日報の記者だと偽ってハン・サンスに話を聞く。ダウンは自分がハンの病院で生まれたと言って父親の写真を見せると、ハンの子は流産したはずだと答える。ハンは脅迫状の筆跡をダウンに手渡す。帰り道にそれを見たダウンはショックを受ける。それは、ダウンが幼い頃、書き取りテストだと言ってスンマンがダウンに書かせた文章そのものだったのだ。
警察がスンマンの家に現れ、スンマンに事情を聴こうとする。何のことかわからないスンマンだったが、そこに、スンマンに捜査の手が及んでいることを聞きつけたハンが駆け込んで来る。ハンはスンマンの声を聴いたとたん、スンマンを犯人と確信して掴みかかる。スンマンは後ろに倒れて後頭部を強打し、意識を失う。警察は、ダウンが早くから父親を疑っていたことを突き止め、ダウンが父親をかばっていたのではないかと厳しく追及するが、ダウンは脅迫状のメモが自分の書いたものであることを隠し通す。病室で意識を失ったままの父親を見て、ダウンは時効まで目覚めないでほしいと祈る。しかしスンマンの意識は時効直前に戻り、警察は声紋検査を開始。スンマンはそれに協力する。結果はシロ。ハンは膝から崩れ落ち、スンマンは解放される。ダウンはスンマンを乗せて車を走らせる。向かった先は、ハン・チェジン君がカバンに入れられて川に投げ込まれた現場だった。ダウンは車を降り、改めて父親に真実を告げてほしいと詰め寄る。車の時計が時効を示す12:00を過ぎると、無表情だったスンマンの口が歪み、笑い出す。スンマンは興奮気味に、これまで我慢していたが、これからは楽しく暮らせるとダウンにまくしたてる。スンマンが犯人だったことを知ったダウンは父親を車から引きずり出し、一緒に死のうと叫ぶ。スンマンはダウンをなだめると車に乗り、帰ろうとする。すると、そこにハンの乗った乗用車が突っ込む。ダウンは突き飛ばされ、スンマンとハンは運転席で意識を失う。そのまま車は爆発炎上。スンマンを乗せた車は横転して川に沈み、ハンも死亡する。
ダウンの母親ミオフは、死期が迫り、最後の告白をする。彼女が告白した罪とは、夫が他人の子を誘拐して一緒に暮らしているということを見過ごしたことだった。それを知ったジュニョンがスンマンから金を脅し取り、スンマンはやむなく罪を重ねていたのだった。入院中のダウンの名札は、本来の名前「ユン・ミソン」に差し替えられる。病室に実の母親と思しき女性が入ってくる。昏睡状態だったミソンはゆっくりと目を覚ますのだった。

実際の事件「イ・ヒョンホ君誘拐殺人事件」に着想を得た作品。途中までは、どういう結末が待っているのか目が離せなくなるのだが、本当に父親が犯人でした、という種明かしはがっかりだった。であれば、犯人ではないというスンマンの真顔は何のなせるわざなのかわからないし(単に嘘が上手だったというだけでは納得がいかない)、また、なぜスンマンは全く疑われる心配なく声紋検査に応じ、しかも声紋鑑定をすり抜けたのか、の説明もない。スンマン役のキム・ガプスの怪演が光るとの呼び声高いが、そこは納得がいかなかった。一方、公開当時31歳のソン・イェジンの可愛さは見事だった。

【5段階評価】4

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2024年1月19日 (金)

(2558) 薄化粧

【監督】五社英雄
【出演】緒形拳、藤真利子、浅野温子、川谷拓三、浅利香津代、竹中直人、松本伊代
【制作】1985年、日本

実在の犯罪者の逃避行を描いた作品。

民家をダイナマイトで爆破し、逃走する坂根藤吉(緒形拳)。目撃者がいたため逮捕され、刑事の真壁一郎(川谷拓三)と松井捨蔵(大村崑)に厳しい取り調べを受ける。爆破では徳市とすゑが犠牲になったと言う。坂根は剃刀で首を切って自殺しようとするが未遂に終わる。真壁らは坂根と付き合いのあったテル子(浅野温子)に事情を聴く。坂根の妻と子供は里帰りしたということだったが、坂根の家の床下から妻の遺体が見つかる。坂根の子供の遺体も、こうち谷で発見されていた。絞殺され、腐乱が進んでおり、身元不明の状態だった。
収監されていた坂根は独房の床下を20メートルも掘り進んで脱獄。小さな仏壇を買い、中に二つの石を供えて逃避行を続ける。坂根は古葉平四郎という偽名で阿部組の工事現場で働き始め、工員の氏家(竹中直人)と親しくなる。坂根はちえ(藤真利子)の営む飲み屋で氏家の身の上話を聞きながら、いなくなった母親にしきりに会いたがる息子の喬(たかし)をこうち谷に連れて行ったことを思い出す。
坂根は、氏家に暴力をふるう上司の森谷(小林稔侍)に食ってかかり、阿部組から去る。道中、彼は以前の職場の落盤事故のことを思い出していた。彼は労働者代表として経営側に補償金を支払うよう交渉するが、上瀧(笑福亭松鶴)や立石(萩原流行)から裏金を渡され、労働者を言いくるめるよう言われる。坂根は寡婦となったテル子に金を渡す。胸元に札束をしまうテル子を見て、坂根はテル子の胸をまさぐりながら物陰へ消える。二人は懇意になるが、それに気づいた坂根の妻ふくえ(浅利香津代)はテル子につかみかかり、乞食呼ばわりする。テル子は坂根の妻になってやるとふくえに宣言。家を出てテル子と情事にふける坂根を見たふくえは、坂根に怒りをぶつけ、坂根が大事にしているラジオを斧で叩き割ろうとする。坂根はその斧を取り上げて、ふくえの脳天に打ちおろし、ふくえを殺害したのだった。
真壁はちえの店で平さんが店に来たら内緒で教えてほしいとちえに連絡先を渡す。銭湯の指名手配の張り紙を見て、ちえは平さんが犯罪者だと知るが、ちえは平さんに言い寄り、長野の赤石という親戚の家に移ることを伝える。ついに二人は結ばれ、ちえは恍惚の表情を浮かべる。情事を終えたちえは、戯れに平さんの眉に墨を塗る。坂根は自分の人相が変わったことに驚く。
坂根は信州に身を移して働き始めるが、そこにも坂根の人相書きが貼られていた。同僚の明賀英之(柳沢慎吾)は平四郎が人相書きに似ていることに気づき、坂根は三沢に移ることにする。バスの中で、坂根は仙波弘子(松本伊代)のことを思い出す。落盤事故で負傷した仙波徳市の世話をしていた坂根は、徳市の娘、18歳の弘子から色仕掛けをされる。坂根は徳市の妻すゑ(宮下順子)を手籠めにしつつ、弘子と結婚したいとすゑに頼み込むが、すゑは相手にしない。坂根は弘子に直接意志を問うが、弘子は手のひらを返し、庶務課長の息子と結婚する、何かあったらいられなくしてやる、自分のほうが上だ、ときっぱり言い放つ。坂根は自分が手玉に取られていたことに気づき、失笑する。坂根はテル子に性交渉するが、テル子は病気のため性行為を医者に止められており、坂根に対する愛情も冷めていた。坂根は弘子の結婚式が行われた仙波の家をダイナマイトで爆破したのだった。
信州の飯場で聞き込みをした真壁は、平八郎という男が妻をちえと呼び、首に傷があって眉に墨を入れていたという情報を得る。仕事場で氏家の訪問を受けた坂根は、自分に捜査の手が及びつつあることを知り、携行していた仏壇を燃やし、職場を離れる。
真壁は長野で妾になっているちえのもとを訪ねる。ちえはしらを切るが、坂根はちえの近くの旅館にいた。ちえに別れを告げにきたのだ。ちえは坂根を愛していた。二人は体を重ねる。それでも坂根はちえに別れを告げ、駅に向かう。ちえは我慢できず、旅支度を整えて駅に向かい、そこにいた坂根に一緒に行きたいと叫ぶ。坂根が返事をしようとした刹那、坂根にライトが当たる。ちえは真壁らに尾行されており、坂根は包囲されていた。二人は茫然と立ちすくむしかなかった。これが昭和24年に起きた実話であることを伝え、映画は終わるのだった。

現在と過去が入り交じる形で話が進むので、注意して観ていないと訳が分からなくなるが、首の傷を覆っているか、仏壇があれば現在、首に傷がなければ過去ということがわかるようになっている。一人の殺人犯の運命を克明に描き、見応えがある。映像は写実的で、他の五社作品に見られるような抽象的な心理描写などはない。また、こちらは五社英雄監督作品らしく、女同士のつかみ合いの喧嘩シーンや、濡れ場では浅野温子や藤真利子、宮下順子のヌードシーンがある。

【5段階評価】4

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2024年1月18日 (木)

(2557) ジョン・ウィック:パラベラム

【監督】チャド・スタエルスキ
【出演】キアヌ・リーブス、マーク・ダカスコス、エイジア・ケイト・ディロン、ローレンス・フィッシュバーン
【制作】2019年、アメリカ

組織に狙われた暗殺者の死闘を描いた作品。「ジョン・ウィック: チャプター2」の続編。

タブーであるコンチネンタルホテルでの殺人を行ったジョン・ウィック(キアヌ・リーブス)は、暗殺者組織からの追放処分を受け、1,400万ドルの懸賞金を懸けられる。ジョンは暗殺者からの猛攻を返り討ちにしながら、妻ヘレンとの思い出を胸に生き続ける道を探る。ジョンを手助けしたかどで、コンチネンタル・ホテル・ニューヨークの支配人ウィンストン(イアン・マクシェーン)と、犯罪組織の王バワリー・キング(ローレンス・フィッシュバーン)は、裁定人(エイジア・ケイト・ディロン)から7日以内の地位の退任を求められる。
ジョンは、つてをたどりながら、モロッコの砂漠で主席連合のボス(サイード・タグマウイ)に会う。ボスは主席連合への忠誠と、コンチネンタル・ホテル・ニューヨークの支配人ウィンストンを殺害するよう命令。ジョンは左手の薬指を切断し、指輪をボスに渡して忠誠を誓うとニューヨークに向かう。ジョンはウィンストンに再会。そこに裁定人が現れ、二人の意志を問う。ウィンストンはウィンストンは退任を拒否し、ジョンもウィンストンの殺害を否定。両者の意志を確認した裁定人は、コンチネンタル・ホテル・ニューヨークを聖域指定を解除する。
殺人が可能となったホテル内に、ジョンとウィンストンを目指して暗殺者が侵入。さらに、裁定人が送り込んだ暗殺者ゼロ(マーク・ダカスコス)とその一味もそこに加わる。ジョンとホテルのコンシェルジュのシャロン(ランス・レディック)が彼らを迎え撃ち、ジョンは死闘の末、ゼロを倒す。結果を知った裁定人はウィンストンに協議を求める。それに応じたウィンストンは、シャロンを伴ってホテルの屋上で裁定人と協議を始める。ジョンも屋上に現れる。ウィンストンは改めて主席連合への忠誠を誓い、裁定人はそれを受け入れる。裁定人に、ジョンはどうするのかと聞かれたウィンストンは、彼には死んでもらうと言ってジョンに銃弾を浴びせる。ジョンは屋上から道路に落下するが、路上にあるはずのジョンの遺体は消えていた。裁定人の退任要求を否定し、顔や体に7つの傷を負ったバワリー・キングが生きており、手下を使って彼を自分のもとに運んでいたのだ。バワリーが主席連合に怒りを持つか聞くと、ジョンは血まみれの顔で「ああ」と答えるのだった。

過去作同様、相手の頭部を集中的に狙う独特の激しいアクションが見どころで、相手を即死させようという動きには迫力があり、暗殺者の得意技が投げナイフや斧だったり、銃だったり、短刀だったり、バイクチェイスだったりと、バリエーションをつける工夫があった。とは言え、「ジェイソン・ボーン」シリーズなんかに比べると作り物感が強く、雑魚キャラは無為無策だし、やたらガラスを割る派手なアクションが続いたり、銃で行けばいいのに刃物や素手で攻撃したり、というのも目立った。
後半は敵の防弾性能が上がるのだが、何発か撃たないと敵が倒れなかったり、急所を撃たないと敵が死なず、火力をアップすると敵を一発で倒せるようになるあたりは、カプコム辺りのシューティングゲームの乗りだった。前作のコメントでは、キアヌ・リーブスの動きがおじさんぽくて続編は厳しいかも、なんて失礼なことを書いたが、本作は、ちょっと太っているなとは思うもののアクションの切れは悪くなかった。
挿入曲としてきゃりーぱみゅぱみゅの「にんじゃりばんばん」が使われているのだが、エンドロールで「KYARY PAMYU PAMYU」になっていた。Carryじゃないんだ。

【5段階評価】4

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2024年1月17日 (水)

(2556) 3時10分、決断のとき

【監督】ジェームズ・マンゴールド
【出演】ラッセル・クロウ、クリスチャン・ベール、ローガン・ラーマン、ベン・フォスター、ダラス・ロバーツ
【制作】2007年、アメリカ

強盗殺人犯を護送する男の死闘を描いた作品。1957年の西部劇「決断の3時10分」のリメイク。

片足が義足で借金を抱えた牧場主のダン・エバンス(クリスチャン・ベール)が、14歳の長男ウィリアム(ローガン・ラーマン)と次男のマーク(ベン・ペトリー)とともに荒野を馬で進んでいると、伝説の強盗ベン・ウェイド(ラッセル・クロウ)率いる強盗団が郵便馬車を襲っている場面に遭遇。ダン親子は、ベンと、その右腕で冷酷なチャーリー(ベン・フォスター)らに見つかる。ダンは荒野に放たれていた自分たちの牛を返してもらいたいだけだとベンに説明し、ベンはダン親子を殺さず、走り去る。ダンは腹部に銃弾を受けて倒れていた老ガンマンのバイロン・マッケルロイ(ピーター・フォンダ)を助けるため、ビズビーに運ぶ。一足先にビズビーにたどり着いたベンは、酒場で休憩。バイロンを運び終えたダンは、借金相手に話をつけようと酒場に乗り込むが、そこにいたのはベンだった。ダンは、ベンに向かって、馬車強盗に巻き込まれて牛が2頭死んだと伝え、その賠償金を要求。ベンは不敵な笑いを浮かべながら、素直に金を払う。そこに保安官がやってきて、ベンは逮捕される。
サザン・パシフィック鉄道のバターフィールド(ダラス・ロバーツ)はベンの公開絞首刑を要求。ベンは3時10分ユマ行きの列車に乗せられることになる。南北戦争の北軍でリンフィールド第二狙撃中隊の狙撃手だったダンは、報酬目当てにベンの護衛に加わることにする。護衛団はベンの仲間たちの襲撃を警戒し、囮の馬車を別方面に走らせる。ベンは、鉄道会社のバターフィールド、ガンマンのバイロン、バイロンを治療した獣医のドク・ポッター(アラン・テュディック)、そしてダンという、一風変わった護衛団に護送されることになる。彼らはダンの家で一夜を明かす。ベンはダンが脚を失った理由を聞くが、ダンは答えない。護衛団に加わりたいウィリアムは、父の制止を聞かず、父親たちが発った後、こっそり家を抜け出して、護衛団を追いかける。
手錠をかけられたベンはおとなしく連行されていたが、夜営の最中に、ベンをやたら挑発するタッカー(ケビン・デュランド)を隠し持っていたフォークで惨殺。さらに荒野を移動中、ベンの母親を侮辱したバイロンにとびかかり、谷底に投げ落とすと、銃を護衛団に突きつけてその場を制圧。絶体絶命となったところに、ウィリアムが突如現れてベンに銃を突きつけ、形勢は逆転。ベンは再びおとなしく連行されることになる。
道中のトンネル建設現場で、民間警備団のボールズ(フォレスト・ファイア)にベンを奪われそうになるも、ポッターの機転で逃走。しかし、ポッターは追ってくる一団に後ろから撃たれ、命を落とす。
目的地コンテンションに着いた護衛団一行はホテルにこもり、バターフィールドは、地元のドーン保安官(ショーン・ヘニガン)やその部下のハービー、サムを連れてくるが、追ってきたチャーリー一団もコンテンションに到着。チャーリーは町民に向かって、護衛を殺したら200ドル渡す、と宣言。町の人々が殺気立つ。ドーン保安官らは早々に護衛を放棄し、ホテルを出ようとするが、出たところをチャーリー一団に滅多撃ちにされる。バターフィールドは、報酬は払うので護送は諦めようとダンに言い、ウィリアムも父に逃げようと提案するが、ダンは護送を続けると宣言。ベンを連れて駅に向かう。ホテルを出た瞬間、町の人やチャーリー一味に狙われるが、何とかそれをかわしながら駅舎に向かう。ダンは、自分には誇れるものが何もないから護送をやり遂げたいのだと説明。ベンはダンを殺すこともできたがそれをせず、ダンとともに駅舎に到着。ダンは自分の足は退却中に味方に打たれたのだと告白。ベンも、ユタの刑務所は2回入って2回脱走した、と告げる。汽車が到着し、ダンはベンの護送をついにやり遂げる。しかし、ベンが車両内の檻に入ろうとしたとき、チャーリーがベンの制止を聞かず、ダンに銃弾を浴びせ、ダンは倒れる。ベンはチャーリーから愛用の銃を受け取ると、チャーリーに怒りの眼を向ける。気配を察したチャーリーが銃を抜こうとするが、ベンの相手ではなく、ベンは一瞬で一味を皆殺しにする。ウィリアムがダンのもとに駆け付け、「すごいよ、尊敬する」と語り掛けると、ダンは微笑みを浮かべながら息を引き取る。ベンはおとなしく檻に入り、列車は走り出すが、ベンが口笛を吹くと、それに呼応して一頭の馬がベンのいる車両に走り出すのだった。

人間ドラマに重点を置いた西部劇。ダンがなぜ無謀な悪党護送に加わったのか。金のためだけではなく、父として、夫としての誇りを示したかったという思いが、息子に伝わるエンディングが感動的。ベン・ウェイドも、凶悪犯ではあるが、決して極悪非道というだけではなく、知性と寛容の心も持ち合わせている人物として描かれている。ただ、銃撃シーンは主人公アビリティ(敵の弾は当たらない、当たっても致命傷にはならない、撃った敵は一発で倒される)が発揮されるし、子供は殺されないみたいなお約束は貫かれたりしていて、ベンの寛容さも作り話めいていた(作り話なんですけども)。

【5段階評価】4

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2024年1月16日 (火)

(2555) 妻よ薔薇のように 家族はつらいよIII

【監督】山田洋次
【出演】夏川結衣、西村まさ彦、吉行和子、妻夫木聡、橋爪功、蒼井優、中島朋子、林家正蔵
【制作】2018年、日本

三世代家族に起きる騒動を描いたコメディ。「家族はつらいよ」シリーズ第3弾。「家族はつらいよ2」の続編。

会社員の平田幸之助(西村まさ彦)が海外出張に行くことになる。息子の謙一(大沼柚希)と信介(小林颯)、老夫婦の平田周蔵(橋爪功)と富子(吉行和子)も外出。幸之助の妻、史枝(夏川結衣)が二階の掃除に疲れ、うたた寝していると、コソ泥(笹野高史)が入り、史枝がへそくりしていた現金約40万円が盗まれてしまう。出張から帰ってきた幸之助は、平謝りする史枝に向かって、生活費の増額を求めておきながら大金を隠し持っていたこと、自分が汗水たらして働いている間に昼寝していたことを責め立てる。落ち込んだ史枝は家出してしまう。
墓参り旅行から帰ってきた周蔵夫妻は、迎えに来た娘婿の金井泰蔵(林家正蔵)からそのことを告げられる。幸之助の弟の庄太(妻夫木聡)と妻の憲子(蒼井優)もやってきて、話し合いとなるが、針の筵の幸之助は家族の意見に取り合わない。謙一も信介も両親の離婚を心配する。
残された家族たちは、これまで史枝が一手に負ってきた家事を分担しようとするが、富子は腰痛で動けなくなり、周蔵は鍋を火にかけっぱなしにしてぼやを出すなどさんざん。庄太は幸之助の職場に出向いて、涙ながらに史枝さんを迎えに行けと説得する。幸之助は雨の中、車で史枝を迎えに行き、お前がいないとダメなんだと告げる。
家族が心配する中、幸之助は史枝を連れて帰ってくる。幸之助は、集まった家族を前に、どうすればいいかわからなくなっていた自分の背中を押してくれた庄太に感謝し、涙ぐむ。家族たちは出前で取った特上のウナギを楽しむのだった。

小気味のよいセリフの応酬が聞きごたえ十分。昭和の映画のよさを漂わせつつ、決して古臭くはない。それぞれのキャラクターが単なる脇役ではなく、個性と感情を持っているのがわかる。主役が誰か決めづらいほどだ。ちなみに、いつもそうなのだが、出演欄の並び順は、単なる年功序列や告知の表記順ではなく、自分の考える重要な役の順に並べている。

【5段階評価】4

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2024年1月15日 (月)

(2554) サイダーのように言葉が沸き上がる

【監督】イシグロキョウヘイ
【出演】市川染五郎(声)、杉咲花(声)、山寺宏一(声)、潘めぐみ(声)
【制作】2020年、日本

俳句好きの少年と動画配信で人気の少女の恋を描いた作品。

俳句好きの少年、チェリーこと佐倉結依(ゆい)(市川染五郎)は、腰を痛めた母親まりあ(坂本真綾)の代理で、デイケアセンター「陽だまり」でパートを務めている。彼はひょんなことから、動画配信で人気を博している女子高生スマイル(杉咲花)と知り合い、スマイルはチェリーがSNSに載せた俳句に、チェリーはスマイルの動画配信に、お互いいいねをつけ合う関係になる。
デイケアセンターの老人、フジヤマ(山寺宏一)は、中身が空のレコードジャケットを持ち歩いており、チェリーとスマイルはレコードを探すことにする。レコードにはYAMAZAKURAと書かれており、ジャケットの写真に写る出っ歯の少女は、フジヤマの妻だった。チェリーは、フジヤマのレコード店の冷蔵庫のわきに落ちていたレコードを発見。喜ぶスマイルは勢いで、チェリーを花火大会に誘う。チェリーはその日に引っ越しすることになっていたが、それを言い出せずOKしてしまう。スマイルは、手に持っていたレコードが歪んでいるのに気づき、それを直そうとしてレコードを割ってしまう。チェリーはスマイルに花火大会に行けないことを明かし、スマイルは落ち込む。スマイルはフジヤマに平謝りするが、デイケアセンターの壁時計が、同じレコードに針を付けたものだった。
スマイルは、引っ越しで移動中のチェリーにレコードを聴かせるため、花火大会の様子を動画配信。デイケアセンターの盆踊りの曲をYAMAZAKURAに変更。それを聞いたチェリーは、花火大会会場に向かい、盆踊りの櫓に駆け上がると、スマイルに向けて作った俳句をいくつも叫ぶ。チェリーの告白はスマイルに届き、スマイルはコンプレックスだった矯正中の出っ歯をむき出しにして飛び切りの笑顔を返すのだった。

序盤は、サイケデリックで派手なだけのアニメかと思いきや、次第に単色を多用した独特の画風への違和感も失せていき、クライマックスのレコードを再生するシーンは感動的だった。登場する俳句の出来栄えはやや微妙だったが、青春を切り取ったようなすがすがしさや若者が作ったようなチャレンジ精神は感じた。

【5段階評価】3

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2024年1月14日 (日)

(2553) スパルタカス

【監督】スタンリー・キューブリック
【出演】カーク・ダグラス、ジーン・シモンズ、ローレンス・オリビエ、トニー・カーティス、ピーター・ユスティノフ
【制作】1960年、アメリカ

ローマ帝国時代に奴隷解放を目指した英雄の生涯を描いた作品。

紀元前1世紀のローマ共和国の時代。ギリシャのトラキア地方で生まれたスパルタカス(カーク・ダグラス)は、12歳で奴隷として売られ、リビアの鉱山で働いていた。剣闘士養成所の主バティアトゥス(ピーター・ユスティノフ)は、彼を買い、剣闘士として育てる。スパルタカスは養成所で働く女性奴隷バリニア(ジーン・シモンズ)と出会い、見初める。養成所にローマ共和国の元老院の大物クラッスス(ローレンス・オリビエ)が友人のグラブルス(ジョン・ドール)とその姉ヘレナ(ニナ・フォック)やクラウディアを連れて現れ、バティアトゥスは彼らを歓待。クラッススは剣闘士の試合を見たいと希望し、スパルタカスが選ばれる。スパルタカスは黒人剣闘士のドラバ(ウディ・ストロード)と闘うことになり、二人は死闘を繰り広げるが、優勢になったドラバがスパルタカスの首元にトライデントを突きつける。ところがドラバはスパルタカスにとどめを刺さず、「殺せ」と叫ぶヘレナ達のいる観覧席によじ登る。とっさに教官のマルケルス(チャールズ・マッグロー)が槍を投げつけ、クラッススがドラバの背中に短剣を突き立て、ドラバは絶命する。
翌日、クラッススの目に留まったバリニアが、売られてローマに向かうことをマルケルスに聞かされたスパルタカスは、激昂してマルケルスをシチュー鍋に頭を沈めて息の根を止め、他の奴隷たちともに反乱を起こして剣闘士養成所を脱走する。スパルタカスをリーダーとする軍勢は、各地を襲いながら勢力を拡大していく。ベスビオ山を目指す道中で、スパルタカスはバリニアと運命の再会を果たし、行動をともにする。やがてバリニアはスパルタカスの子を授かる。
スパルタカスの躍進はローマ帝国の元老院でも取りざたされ、守備隊長となったグラブルスは歩兵6部隊を率いて討伐に向かうが、奴隷軍の夜襲を受けてあえなく惨敗。スパルタカスは仲間たちが故郷に帰れるよう、キリキアの海賊の船を買い上げ、港のあるブルンディシウムを目指す。クラッススは自らが司令官となり、スパルタカスの軍勢の討伐に向かう。ブルンディシウムを目指していたスパルタカスだったが、海賊の裏切りに遭い、ローマを目指さざるを得なくなる(正直、このあたりの展開の説明はよくわからなかった)。スパルタカス軍とクラッススのローマ軍が正面衝突することになり、スパルタカス軍は善戦するが、ローマ共和国側のポンペイウス軍、ルクルス軍の加勢もあって奴隷たちは制圧され、戦場は大量の戦死者で埋め尽くされる。スパルタカスや副官のアントニウス(トニー・カーティス)は、他の兵士たちとともにローマ軍に捕らえられる。クラッススはスパルタカス軍の兵士に向かって、スパルタカスを差し出せば命は助けると宣言。スパルタカスは仲間を助けようと立ち上がるが、アントニウスをはじめ、スパルタカス軍の兵士たちが口々に「自分がスパルタカスだ」名乗り出たため、クラッススはスパルタカスを見つけることができなくなる。ローマ軍はローマに向かうアッピア街道沿いに、奴隷兵士たちを磔にしていく。
クラッススは、戦場に倒れていたバリニアを発見。バリニアはスパルタカスの子を抱いていた。クラッススは赤子とともにバリニアを自分の邸宅に連れ帰り、赤子を人質にしてバリニアに自分を愛するよう命じるが叶わない。クラッススはアントニウスとスパルタカスに決闘を命じ、生き残ったほうを磔の刑に処すと宣告。スパルタカスを父と慕うアントニウスは、スパルタカスを磔の刑で苦しませないようスパルタカスを倒そうとするが、詩人のアントニウスはスパルタカスの敵ではなかった。スパルタカスはアントニウスを気絶させ、磔の犠牲となる。
クラッススに敵対する元老院議員グラックス(チャールズ・ロートン)は、バティアトゥスに命じてバリニアとその子供をさらわせ、二人を奴隷から解放させる手はずを整え、バティアトゥスにその後を託す。バティアトゥスは赤子を抱くバリニアを乗せて馬車でローマを発つ。検問所でバリニアは磔にされているスパルタカスを発見。虫の息のスパルタカスに、バリニアは生まれた息子を掲げ、父親の功績を息子に伝えると約束。バリニアはスパルタカスが苦しみから解放されてほしいと願い、バティアトゥスの馬車で走り去るのだった。

「I'm Spartacus」の連呼が名シーン。「マルコムX」にも似たようなシーンがあった。3時間超の長い作品だが、見応え十分。CGのない時代に撮影されたスパルタカス軍の大軍勢や、ローマ軍の進撃シーンなどは、大量のエキストラの動員・統制によって撮影されたと思うと、感動もひとしお。
クラッススが風呂でアントニウスに体を洗わせながら、蠣を食べるのにかたつむりは食べないのか、といったやりとりをするシーンが、初見では意味不明だが、同性愛を想起させるとしてかつてはカットされていたというのも面白かった。

【5段階評価】3

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2024年1月13日 (土)

(2552) ゴジラVSビオランテ

【監督】大森一樹
【出演】高嶋政伸、三田村邦彦、小高恵美、田中好子、高橋幸治、峰岸徹
【制作】1989年、日本

ゴジラと植物型巨大怪獣との戦いを描いた作品。リメイク版「ゴジラ」の続編。

科学者の白神源壱郎(高橋幸治)は、亡くなった娘の英理加(沢口靖子)のが遺伝子が組み込まれたバラとゴジラの細胞の融合した生物ビオランテを生成。三原山から現れたゴジラがビオランテを焼き殺す。ゴジラは核エネルギーを求めて北陸方面に移動。ゴジラを探知する能力を持つ少女、三枝未希(小高恵美)がゴジラを食い止めようとするが、ゴジラは大阪に上陸。大阪市街を火の海にしながら北陸方面に向かう。防衛庁の若きエース、黒木翔(高嶋政伸)は人工雷によりゴジラを食い止め、その隙に自衛隊の権藤吾郎(峰岸徹)らが抗核エネルギーバクテリアを仕込んだミサイルをゴジラに打ち込む。そこに雷雲から光の粒子が降り注ぎ、進化したビオランテが出現。ビオランテの攻撃と抗核エネルギーバクテリアの作用によりゴジラは倒れ、ビオランテは空に還っていく。白神博士はサラジア共和国の工作員(マンジョット・ベディ)に暗殺され、命を落とすが、つくば生命工学研究所の研究者、桐島一人(三田村邦彦)が逃げる工作員を追い、最後は黒木が人工雷システムで工作員を消滅させる。ゴジラは起き上がると、海に帰っていくのだった。

新しな巨大怪獣が登場するということと、小高恵美の初々しさ以外には、取り立てて魅力のない作品だった。ヒーローとヒロインであるはずの桐島と大河内明日香(田中好子)の役どころがよくわからなかった。三枝未希も、物語のカギを握る人物というよりは、ビオランテの思考を代弁する狂言回しになっているのが興ざめ。デーモン小暮や鈴木京香もちょい役で登場している。

【5段階評価】3

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2024年1月12日 (金)

(2551) 8月の家族たち

【監督】ジョン・ウェルズ
【出演】メリル・ストリープ、ジュリア・ロバーツ、ジュリアンヌ・ニコルソン、ジュリエット・ルイス、ユアン・マクレガー
【制作】2013年、アメリカ

父親の失踪を機に母親の元に集まった三姉妹と家族の騒動を描いた作品。

酒を愛する老詩人ベバリー・ウェストン(サム・シェパード)は、妻のバイオレット(メリル・ストリープ)とオクラホマの邸宅で二人暮らしをしていた。ベバリーはネイティブアメリカン嫌いのバイオレットに無断で、ネイティブアメリカンの家政婦ジョナ(ミスティ・アッパム)を雇い、直後に失踪。バイオレットの近くに住む次女のアイビー(ジュリアンヌ・ニコルソン)が駆けつけ、バイオレットの妹マティ・フェイ(マーゴ・マーティンデイル)も夫のチャールズ(クリス・クーパー)と家に来る。長女のバーバラ(ジュリア・ロバーツ)も、夫のビル(ユアン・マクレガー)と娘のジーン(アビゲイル・ブレスリン)とともに車でやってくる。バーバラは口腔癌を患っており、大量の薬を摂取しているせいか、バーバラに攻撃的な発言をする。バイオレットは、両親を見捨てて離れて暮らしているバーバラが気に入らないのだった。
捜索の結果、ベバリーの遺体が見つかる。葬儀が行われることになり、バーバラの家族、アイビー、マティ・フェイ夫婦のほか、三女のカレン(ジュリエット・ルイス)が派手なスポーツカーで婚約者のスティーブ・ハイデブレクト(ダーモット・マローニー)とともにやってくる。マティ・フェイの息子リトル・チャールズ(ベネディクト・カンバーバッチ)は寝坊のため遅れて到着。葬儀には間に合わず、葬儀後の食事会に現れる。次女のアイビーはリトル・チャールズと交際しており、彼の到着を喜ぶ。二人は従弟の関係にあるため、交際は家族に内緒にしていた。
食事会が始まり、男性陣は当たり障りのない会話で場を和ませようとするが、そのたびにバイオレットは出席者に攻撃的な言葉を浴びせる。周囲が指摘しても、真実を言っているだけだと悪びれない。バイオレットは、すでにベバリーと相談して財産を全て自分が相続することで合意したと、死人に口なしとばかりに説明し、一方的に三姉妹の同意を取り付ける。その後もビルが若い女性と浮気をしていてバーバラと別居状態であることを話題にするなど、出席者への失礼な物言いをやめないバイオレットに、バーバラはたまりかね、バイオレットの持っている錠剤を力尽くで奪い取る。彼女には大量の薬が処方されており、バーバラは担当医のバーク(ニューウェル・アレクサンダー)のもとに出向き、錠剤入れを投げつけて猛抗議する。
家に戻り、三姉妹は今後について話し合う。次女のアイビーは、母親の面倒を見るのをやめ、リトル・チャールズとニューヨークに引っ越すと言う。バーバラはアイビーを咎めるが、アイビーは、すでに親の面倒を見ることを放棄しているバーバラに責める資格はないと言い返し、バーバラは黙るしかなくなる。カレンもスティーブとフロリダに渡ることを決めていた。
翌朝、アイビーとリトル・チャールズが仲睦まじくしていると、マティ・フェイが現れ、失職中のリトル・チャールズを責め立てる。常日頃からマティ・フェイが息子に厳しく当たっていることに耐えかねた夫のチャールズは、妻に向かって、38年間ともに暮らしてきたが、息子にこれ以上辛く当たるなら39年目はないと吐き捨てる。その様子を見てしまったバーバラに、マティ・フェイはリトル・チャールズとアイビーが付き合っているのか問いただす。バーバラは、いとこ同士とは言え愛し合う二人の関係を認めるようマティ・フェイを説得するが、マティ・フェイは、二人の関係はいとこではない、姉弟だと告げる。リトル・チャールズはマティ・フェイとベバリーの間にできた子どもだったのだ。そのことをマティ・フェイは誰にも明かしておらず、バーバラにアイビーを止めてほしいと頼む。
その夜、庭で話し声が聞こえたジョナが庭を覗くと、30歳過ぎのスティーブが14歳のジーンにマリファナを吸わせていた。スティーブがジーンに胸を見せてとせがんでいるのを見て、ジョナは庭に飛び出し、スコップでスティーブを殴りつける。騒ぎに気づいた家族が庭に出てくる。ジョナから、スティーブがジーンに手出ししたと聞いたバーバラはスティーブに飛びかかろうとするが、カレンが制止し、スティーブと家の中に入る。バーバラとビルはジーンに説明を求めるが、ジーンはマリファナを吸っただけで何も起きていないと説明。まだ14歳なのにと責めるビルに向かって、ジーンはパパの浮気相手より少し年齢が低いだけだと言い返す。バーバラが反射的にジーンの頬を平手打ちすると、ジーンは大っ嫌いと叫んで家に駆け込む。ビルはバーバラを責め、ジーンの後を追う。バーバラはカレンに文句を言いに行くが、カレンもまた、ジーンに問題がなかったとは思えないと言い、スティーブとともに家を出て行く。翌朝、ビルとジーンも車で去って行く。
アイビーが、母親にニューヨーク行きを話そうとしているのを見て、バーバラは何とか阻止しようとするが、アイビーの意志は固い。アイビーが「私とリトル・チャールズは・・・」と言いかけると、バイオレットは「姉弟なんだろう、知っていたよ」と答える。そうとは知らなかったアイビーはショックを受け、バーバラとバイオレットをののしって家から去る。バイオレットは、ベバリーは私が知っていたことを知っていたと話し、ベバリーが死ぬ前にモーテルにいたことを明かす。バイオレットはベバリーが死ぬつもりであることを知りながら、彼との共有財産である貸金庫の中身の入手を優先していたのだった。バーバラは、バイオレットがベバリーの自殺制止より貸金庫を優先したことを責めるが、バイオレットは、バーバラが家を出て行かなければベバリーは自殺しなかった、自殺を自分だけのせいにするなと言い返す。バーバラもまた、追いすがる母親を尻目に、バイオレットの家を去る。バイオレットは力なくベバリーを呼ぶが答えはない。彼女は次いでジョナを探し始める。声に気づいたジョナが目の前に現れると、バイオレットは力なくジョナに身を任せる。ジョナはとまどいながらもバイオレットの頭をなでる。バーバラは一人、車でオクラホマを後にするのだった。

本作をブラック・コメディと評している記事を見かけるが、本作にコメディ要素はない。家族の絆が次々と崩壊し、救いのない関係になっていく様子が描かれている。作品中では描かれていないが、アイビーとリトル・チャールズ(チャールズの実の息子ではないのにリトル・チャールズという名であることが皮肉になっている)の関係が続くとは思えないし、14歳の少女に手を出そうとしたスティーブとカレンの関係も崩壊は目に見えている。父親の浮気を責めたジーンが、帰りの車で父親のビルと意気投合したとも考えられない。バイオレットの心のよりどころとなるのは、もはや、彼女が冒頭でさげすんだ、血の繋がらないネイティブアメリカンのジョナのみというのが、本作の強烈なメッセージとなっていた。
メリル・ストリープとジュリア・ロバーツという大女優を配した本作は、やはり演技が素晴らしい。脇役も有名な俳優ばかりで見応えがあった。

【5段階評価】4

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2024年1月11日 (木)

(2550) 劇場版 おいしい給食 卒業

【監督】綾部真弥
【出演】市原隼人、佐藤大志、土村芳、直江喜一、登坂淳一、いとうまい子
【制作】2022年、日本

テレビドラマ「おいしい給食」の映画化作品第2弾。「劇場版おいしい給食 Final Battle」の続編。

黍名子中学校の教師、甘利田幸男(市原隼人)は、大の給食好き。担任する3年1組の神野ゴウ(佐藤大志)を勝手にライバル視し、給食に出されたナポリタンとかき玉汁の食べ方で神野に敗北感を味わう。甘利田が駄菓子屋でホームランバーを食べていると、学年主任の宗方早苗(土村芳)が現れ、甘利田にチョコレートボンボンを渡す。それと知らずに食べた酒に弱い甘利田は、すっかり記憶をなくしてしまう。
黍名子市の給食試食会が開かれることになり、甘利田は喜び勇んで参加。ところが甘利田の期待に反し、出された給食は味より栄養管理を重視しており、給食の魅力が激減。甘利田は給食センターの四方田岳(登坂淳一)に給食の本質を問いかけ、会場を去る。甘利田が学校に戻ると、早苗がやってきて「この前の話、私なりに考えてます」と告げる。甘利田は自分が何を言ったのか気になり、駄菓子屋の店主のお春(木野花)に事情を聞くと、彼は酔った勢いで、早苗に「奥さんにするなら宗方先生がいい、検討してほしい」と言っていたと聞かされる。
給食の方針が変わり、甘利田は給食に満足できなくなる。生徒達も同じで、食べ残しが増えていく。神野は食べ残しが増加しているというデータを携えて給食センターに乗り込む。味より健康管理という方針を推し進めていたのは、甘利田を敵視する教育委員会の鏑木優(直江喜一)だった。神野は会議の場で給食の改善を要求するが、鏑木は鼻で笑い、相手にしない。そこに、神野を追ってきた甘利田が乱入し、鏑木に生徒が食べ残すような給食にはサービスの心がないと熱弁を振るい、神野を連れて会議室を後にする。会議に参加していた四方田は甘利田を追い、おいしい給食を出したいと告げる。
卒業の日を迎え、黍名子中学校の校長、箕輪光蔵(酒井敏也)は、甘利田が3月一杯で函館に転勤することを告げる。早苗は甘利田の函館行きにショックを受けつつも、彼の酔った勢いの求婚を真に受けると甘利田に告げる。甘利田は黍名子中学校の最後の給食を満喫し、神野に別れを告げるのだった。

前作も給食をここまで面白く映画にできるのかと感動したが、本作はそれを上回るできばえ。給食に異常な愛情を示す甘利田の動きや言葉には思わず吹き出してしまうし、給食センターの会議で熱く語る甘利田には涙を禁じ得ない。「シコふんじゃった。」に次ぐコメディ邦画の最高峰と言ってもいいほどのできだった。テレビドラマの映画化作品は、テレビドラマを見ていないと話について行けないことがよくあるが、本作はテレビドラマを見ていなくても十分に楽しめる。市原隼人の演技力とサービス精神に脱帽。万人に進められる作品だ。

【5段階評価】5

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2024年1月10日 (水)

(2549) 波止場

【監督】エリア・カザン
【出演】マーロン・ブランド、エバ・マリー・セイント、リー・J・コッブ、カール・マルデン、ロッド・スタイガー
【制作】1954年、アメリカ

波止場を牛耳るマフィアのボスに立ち向かう青年を描いた作品。第27回アカデミー賞作品賞受賞作品。

元プロボクサーのテリー・マロイ(マーロン・ブランド)は、波止場の荷役を仕切るボス、ジョニー・フレンドリー(リー・J・コッブ)の子分。彼はある晩、ジョニーに命令され、仲間のジョーイを彼の住む建物の屋上におびき寄せる役目をこなす。ジョーイは何者かに屋上から突き落とされ、死亡する。ジョーイは、ジョニーの悪事を裁く犯罪調査委員会の証言者となる予定であり、ジョニーが先手を打ってジョーイ殺害指令を出したのだった。ジョーイの妹イディ(エバ・マリー・セイント)は、兄の死の真相を知ろうと波止場に接近。バリー神父(カール・マルデン)も真相解明のために立ち上がる。テリーは神父の偵察のため、教会で集会の様子をうかがう。すると、マフィアの一味が教会を襲撃。労働者の一人デューガン(パット・ヘニング)が暴行を受け、彼は証言台に立つことを決意する。イディとともに教会を脱出したテリーは、事件に首を突っ込もうとするイディの行動に反対しながらも、彼女との関係を深めていく。
テリーはジョニーに呼び出される。ジョニーはテリーが教会に行っていながらデューガンの証言を止められなかったことを非難。テリーの兄でジョニーの会計係のチャーリー(ロッド・スタイガー)もテリーを叱咤する。デューガンはマフィア一味の仕業によって、荷役作業中に荷物の下敷きになり、死んでしまう。事故現場に訪れたバリー神父は真実を語れと激しく労働者達に語りかけるが、マフィア一味は彼に物を投げつけ、労働者達も神父を無視するしかなかった。
テリーは神父に、自分がジョーイを呼び出したと真相を告白。それを知ったジョニーは、チャーリーにテリーを説得するよう指示。チャーリーはテリーと話し合うが、テリーはチャーリーに反抗。チャーリーが自分にボクシングで八百長をさせたために、自分はチャンピオンになれず、ただのゴロつきになったとチャーリーを責める。チャーリーは説得を諦め、テリーと別れるが、チャーリーは組織に殺されてしまう。イディは波止場から逃げようとテリーを説得するが、テリーは戦うことを決意。法廷に出たテリーは、ジョニーが犯行を手引きしたことを証言する。翌朝、テリーは波止場に向かうが、彼に仕事は回ってこない。他の労働者が見守る中、テリーは事務所にいるジョニーを挑発。怒って出てきたジョニーと殴り合いになるが、多勢に無勢でテリーは半殺しの目に遭う。ジョニーは他の労働者達に仕事を始めろ、と命令するが、労働者達は動かない。神父とイディに介抱されたテリーは何とか歩き出し、荷役の依頼主の前に歩み出る。ジョニーは荷役の仲介業から追い出されてしまい、労働者達はテリーに続いて荷役作業に入るのだった。

往年の名作でアカデミー賞作品賞を受賞しているということで、期待して観たが、今ひとつだった。物語は分かりやすいのだが、テリーとイディが惹かれ合う流れに必然性がなく、「若い女だったら誰でもいいんかい」「男前だったらキスされるだけで怒りが沈むんかい」というご都合主義的が鼻についた。ラストシーンも、マフィアのボスとは言え、実質おじいちゃんが、元プロボクサーにかかってこいよと挑発するのはありえなかった。

【5段階評価】3

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2024年1月 9日 (火)

(2548) ガーンジー島の読書会の秘密

【監督】マイク・ニューウェル
【出演】リリー・ジェームズ、ミキール・ハースマン、ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ、グレン・パウエル
【制作】2018年、イギリス、フランス

ガーンジー島の読書会を訪ねた作家が、読書会の謎を追う過程を描いた作品。

第二次世界大戦直後のイギリス。作家のジュリエット・アシュトン(リリー・ジェームズ)は、ドーシー・アダムズ(ミキール・ハースマン)という男から手紙を受け取る。手紙によると、彼は戦前ドイツ軍に占領されていたガーンジー島に住んでおり、チャールズ・ラムの「エリア随筆」を読んで彼の作品が気に入ったのだが、ガーンジー島には本屋がない。ついては、彼の作品「シェイクスピア物語」を手に入れるため、ロンドンの書店の住所を教えてほしいと書かれていた。彼の読んだ「エリア随筆」はもともとジュリエットの所有物で、彼女の名前と住所が書かれていたため、ドーシーはそれを頼りにジュリエットに手紙を送ったのだ。その本は、かつて彼女が泣く泣く古本として売ったものだった。手紙には「読書とポテトピールパイの会」のことが書かれており、それが気になったジュリエットは、サイン会の合間を縫ってガーンジー島に行くことを決意。乗船の直前、恋人のアメリカ軍人マーク・レイノルズ(グレン・パウエル)が彼女に大きな指輪を差し出して求婚。ジュリエットはそれを受け入れ、単身でガーンジー島に渡る。
島で読書会メンバーの郵便局長エベン・ラムジー(トム・コートネイ)に出会ったジュリエットは感激。次いで読書会の会場を訪ねるが、出迎えたアメリア・モーグリー(ペネロープ・ウィルトン)はジュリエットの訪問をあまり歓迎していないようだった。アイソラ・プリビー(キャサリン・パーキンソン)や遅れてやってきたドーシー・アダムズらも加わり、読書会が開かれる。会が盛り上がったところで、ジュリエットが読書会のことをタイムズに書きたいと話すと、雰囲気が一変。アメリアは読書会のことを書くことは許さないと断言し、ジュリエットは引き下がる。
ジュリエットは、読書会に創設者のエリザベス(ジェシカ・ブラウン・フィンドレイ)がいないことを不思議に思い、メンバーに理由を尋ねるがお茶を濁されたため、自らガーンジー島に残って調査をするとともに、マークにも調査を依頼する。やがて、ドーシーをパパと呼んでいた少女キット(フローレンス・キーン)はエリザベスとドイツ兵クリスチャン・ヘルマン(ニコロ・パセッティ)との間に産まれた子であり、エリザベスがドイツ軍に捕まってしまったため、エリザベスが帰ってくるまでの間、ドーシーがキットの世話を託されていることを知る。エリザベスは、夜間の外出禁止令を犯して見知らぬ衰弱した少年に治療を受けさせようとしてドイツ軍に逮捕されていたのだった。クリスチャンは乗っていた船が攻撃されてエリザベスの妊娠も知らないまま死亡しており、エリザベスが助けた少年もドイツ軍に銃殺されたのだと言う。アメリア達は、エリザベスが帰ってこない場合、キットの身寄りがドイツ人だけになるため、キットがドイツに奪われてしまうのではないかと心配していたのだった。
ジュリエットが、キットの世話などを通じて親しくなったドーシーと話していたところに、突然、島に渡ってきたマークが現れる。ジュリエットはマークとの思わぬ再会に喜ぶが、マークは、ジュリエットが自分の渡した指輪をせずにドーシーと仲睦まじくしていることを不愉快に思い、指輪をしていないジュリエットを責める。マークの渡航には、もう一つの理由があった。それは、エリザベスの安否報告だった。エリザベスは、逮捕後ドイツに送られ、そこで、看守から暴行されていた少女を救おうとして看守に反撃したため、銃殺されていた。エリザベスを実の娘のように思っていたアメリアは嗚咽し、読書会の全員が悲しむ。エリザベスはマークとともにロンドンに帰るが、エリザベスの心はもはやマークから離れてしまっていた。彼女はマークに婚約指輪を返却。マークはショックを受けながらもそれを受け入れる。
ジュリエットは、読書会の話を文章にしたためる。しかし出版はせずに、手紙を添えて原稿を読書会に送る。それを見たドーシーは居ても立ってもいられずロンドンに渡る。ジュリエットもまた、ドーシーに会うためガーンジー島に渡ろうとしていた。港でドーシーを見つけたジュリエットはドーシーを追いかけ、その場で結婚を申し込む。ドーシーはそれを受け入れ、キットとともに三人で仲良く暮らすのだった。

サスペンス映画なのかなと思って観ていたが、どちらかというと恋愛映画。深い母性愛を持ったエリザベスの悲しい運命を追体験しながら、ジュリエットがドーシーを運命の人と決める過程を描いていた。

【5段階評価】4

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2024年1月 8日 (月)

(2547) 劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き あるがままに、水と大地のネコ家族

【監督】岩合光昭
【出演】中村倫也(声)、岩合光昭(声)
【制作】2021年、日本

ねこの暮らしを撮影したドキュメンタリー的な作品。「劇場版 岩合光昭の世界ネコ歩き コトラ家族と世界のいいコたち」の続編。

北海道の牧場で暮らすネコの家族と、ミャンマーのインレー湖にある水上の村に住むネコの一家を追っている。
北海道では、子牛の牛舎に住み着いているネコ家族と、大人の牛の牛舎にいるネコ家族の両方を取り上げ、子猫の成長を中心に描いている。
ミャンマーの方では、湖上の簡素な家で、人間の親子三人家族と、親子四匹のネコ一家がともに暮らす様子を描いている。

ナレーションは中村倫也で、ところどころ岩合光昭の声も混じるのだが、ここは全編中村倫也の方がいいのではないかと思った。しかも、撮影の状況やネコの生態などの解説部分で岩合光昭がしゃべり、ネコに語りかけるのは中村倫也がやるといったような役割分担が不明確で、岩合光昭が結構ネコに呼びかけるのが、聞いていて気持ち悪かった。どうしても監督が自分でしゃべりたかったのだろうか。観客目線で自分でしゃべることにしたようには思えないのだった。
作品全体としては、大きな事件や冒険があるわけでもなく、素晴らしい風景や珍しい光景が際立つわけでもない、いい意味でほのぼのした、悪い意味では退屈な内容だった。

【5段階評価】2

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2024年1月 7日 (日)

(2546) ねこタクシー

【監督】亀井亨
【出演】カンニング竹山、鶴田真由、山下リオ、芦名星、甲本雅裕、内藤剛志、室井滋
【制作】2010年、日本

永森裕二の小説が原作。ねこを乗せたタクシードライバーの奮闘を描いた作品。

人付き合いが苦手で、学校教師を辞めてタクシードライバーになった間瀬垣勤(カンニング竹山)は、営業所内の業績はいつも最下位。ある日、彼が公園で昼食の弁当をとっていると、一匹の猫を発見。その猫は首に「御子神」という札をかけていた。昼食を終えた勤がタクシーの中で仮眠をとっている間に、その猫は勝手に車内に入ってきており、勤は驚く。そのまま客を乗せた勤は、猫のお陰で初めて乗客と談笑し、ねこを乗せたタクシー、「ねこタクシー」を思いつく。勤は、ねこババァと呼ばれている老女、松本スミエ(室井滋)の家を訪ね、そこに居着いていた御子神さんと、御子神さんに懐いている子猫のコムギを家に連れて帰る。妻の真亜子(鶴田真由)は猫の飼育に反対するが、いつもは父親に冷めた態度の娘の瑠璃(山下リオ)が勤の味方になり、真亜子が折れる。
勤は会社に内緒で猫をタクシーに乗せて営業を始める。すると、猫カフェのようだと乗客に歓迎され、営業成績が急上昇。同じ営業所で勤と同様に営業成績が芳しくない丹羽仁美(芦名星)は、勤が猫を乗せていることに感づき、自らもねこタクシーを実践。ところが、それが法律違反として問題となってしまう。保健所の宗像誠二(内藤剛志)は、ねこを狭い空間に拘束してタクシー営業することには否定的だったが、勤はねこタクシーの営業に必要な資格を一年かけて取得。営業所長の真泉(高橋長英)の協力も得て、勤は改めて宗像に資格取得を報告する。それでもねこタクシーに反対の立場の宗像に、勤は自分のねこタクシーに乗ってほしいと提案する。宗像は母親を連れて勤のタクシーに乗る。宗像の母親は猫に眼を細め、誠二が子どもの頃、動物に囲まれて暮らしており、飼っていた牛が売られると涙を流していたという思い出を語る。宗像はねこタクシーを認めるようになる。しかし、すでに15歳を超えていた御子神さんは寿命を迎えていた。勤は、御子神さんを見つけた公園で、御子神さんを抱いたまま昼寝をする。御子神さんはそのまま天命を全うする。
御子神さんと出会ったことで人見知りを乗り越えた勤は、再び学校の先生として新たな人生を歩むのだった。

ほのぼのとした作品。キレキャラのカンニング竹山が、気弱なタクシー運転手を演じているのが特徴的だが、演技はやや過剰で、大人しい人を演じるというのも意外と難しいものなのだなと思わされた。物語を盛り上げるための悲しい出来事や、主人公を罵倒する人物を現れたりするより、

【5段階評価】4

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2024年1月 6日 (土)

(2544) 劇場版 田園ボーイズ

【監督】西海謙一郎
【出演】有澤樟太郎、伊万里有、松浦祐也、田中尚輝、木下ほうか、三津谷葉子、遊井亮子、山谷花純
【制作】2020年、日本

テレビドラマ「田園ボーイズ」の劇場版。田舎のホストクラブで起きる大騒動を描いたコメディ。

田舎町のホストクラブ「田園」では、オーナーのカタオカ(伊万里有)のもと、ガソリンスタンド店員のシンジ(有澤樟太郎)、公務員のヤスオ(田中尚輝)、農家の息子ジロウ(松浦祐也)が働いていた。そこにシンジの父親(木下ほうか)がリュウセイの名で働くことになる。固定客を増やすため、5人が地元の映画出演者オーディションに参加したところ、風采の上がらないジロウがゾンビ役に抜擢される。それが有名女優ミソノ(遊井亮子)の目に止まり、彼女が田園で盛り上がっている写真をSNSに上げたことで店は大繁盛。
カタオカが一人、店で苦しみ出す。シンジは、店内で大量のケーブルに繋がれたカタオカを発見。実はカタオカは片岡博士(尾関高文)が作り出した戦闘用レプリカントだった。謎の男(池田良)がデータを得るためにカタオカのリミッターを解除。暴走したカタオカはジロウやヤスオ、シンジに襲いかかる。シンジは死闘の末、カタオカの暴走を止める。片岡博士はカタオカを回収し、暴走しないよう改良したカタオカをシンジらの元に送り届ける。レプリカントのカタオカのもと、新装開店した「田園」は、今日も多くの客で賑わうのだった。

テレビドラマの続編なので、オリジナルを知っていた方は楽しめるが、事前情報なしに見ると、序盤は典型的なコメディだったのが、中盤からシリアスなSFものになり、「これは何を見せられているんだ」とおいてけぼりになる。作品全体をコメディだと知った上で観ないと迷子になる作品だった。テレビドラマファンへのご褒美的な作品であり、テレビドラマを見ていなかった自分の評価は残念ながら2。

【5段階評価】2

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2024年1月 5日 (金)

(2543) 雨のニューオリンズ

【監督】シドニー・ポラック
【出演】ロバート・レッドフォード、ナタリー・ウッド、ケイト・レイド、チャールズ・ブロンソン、メアリー・バダム
【制作】1966年、アメリカ

鉄道会社の調査員と宿屋の女主人の娘との恋を描いた作品。

ドッドスンという町の宿屋に、オーエン・リゲート(ロバート・レッドフォード)という男がやってくる。宿屋の女主人ヘイゼル・スター(ケイト・レイド)は、彼を部屋に泊めることにする。ヘイゼルの長女アルバ(ナタリー・ウッド)はグラマラスな年頃の美女で、宿屋の酒場は鉄道会社の従業員をはじめ、彼女目当ての大勢の男性で賑わっていた。アルバは思わせぶりな態度でオーエンに接近するが、オーエンは連れない態度を取り、アルバは立腹する。一方、アルバの妹ウィリー(メアリー・バダム)は、オーエンにアイスをおごってもらい、喜ぶ。
オーエンの仕事は、鉄道会社の従業員に解雇を告げる調査員だった。それを知ったアルバはオーエンに抗議するが、オーエンはアルバに口づけをして口を塞ぐ。二人は恋仲となり、オーエンは彼女が夢と語ったニューオリンズ行きの切符を購入する。しかし、ヘイゼルは生活の安定のため、金持ちの中年男性ジョンソン(ジョン・ハーディング)がアルバに首ったけなのを利用し、アルバとの結婚を餌にジョンソンと家族3人でメンフィスに行くことを決める。アルバはそれに猛反対するが、その話を聞きつけたオーエンは、アルバの話も聞かず、アルバを罵倒してチケットを投げつけ、単身でニューオリンズに行ってしまう。自暴自棄になったアルバは、ヘイゼルの恋人J.J.(チャールズ・ブロンソン)がアルバに惚れていることを逆手にとり、ジョンソンと母親の目の前でJ.J.を誘惑して彼に結婚を約束させ、メンフィス行きの話を破談にした挙げ句、J.J.と結婚した翌朝に彼の持ち金を盗んでニューオリンズに渡る。
ニューオリンズでアルバに再会したオーエンは、彼女に謝罪。二人は新しい生活を始める。ところが、二人の家に母親が現れ、アルバがJ.J.と結婚した翌日に彼の金を盗んだことをオーエンにばらす。絶望したアルバは、大雨の降る外に飛び出してしまう。その後、アルバは肺病で亡くなり、ウィリーは孤児となったのだった。

雨に唄えば」のようなタイトルなので楽しい作品かと思ったら、壮絶な悲恋の物語だった。中盤、シャワーを浴びているアルバにオーエンが「だましたなアバズレ」などと最大級の罵倒をしたところでは、「これはアルバが下劣なオーエンに捕まらなくてよかったという展開なのか」と思ったが、そうではなかった。ニューオリンズで再会したオーエンが「悪かった」と謝罪して二人の中は修復。ロバート・レッドフォード級の男前はどれだけひどいことを言っても一言でなしにできるのか、というのが不可解。また、アルバが、清純な娘と言えるわけではないところも、悲劇のヒロインと見なすほどの感情移入が難しい一因だった。

【5段階評価】3

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2024年1月 4日 (木)

(2542) 42 ~世界を変えた男~

【監督】ブライアン・ヘルゲランド
【出演】チャドウィック・ボーズマン、ハリソン・フォード、ニコール・ベハーリー、アンドレ・ホランド
【制作】2013年、アメリカ

黒人大リーガーの苦闘と活躍を描いた伝記作品。

人種差別が根強く残る1940年代のアメリカでは、大リーグは白人のみで構成されていた。ブルックリン・ドジャーズのゼネラルマネージャー、ブランチ・リッキー(ハリソン・フォード)は、黒人リーグのジャッキー・ロビンソン(チャドウィック・ボーズマン)をチームに加えることを決定。リッキーは、勝ち気なジャッキーに対して、差別的な言動に怒りを示さず紳士的に振る舞う勇気を持つよう言い聞かせる。
マイナーリーグのロイヤルズに入団したジャッキーは、はじめはチームメートの歓迎も十分ではなかったが、たぐいまれな盗塁のうまさで活躍。ついにドジャーズ入りし、背番号42を与えられる。黒人の観客は彼を歓迎するが、白人の中には彼を罵倒する者も珍しくなかった。中でもフィリーズ監督のベン・チャップマン(アラン・テュディック)のヤジは、ニガニガニガニガと繰り返し叫ぶなど強烈で、さすがのジャッキーもベンチ裏でバットを壁に叩き付けて悔しがる。それでもリッキーは、チャップマンには天罰が下るだろう、プレーで見返せと諭され、プレーを続けて勝利に貢献。ジャッキーの活躍もあり、ドジャーズはワールドシリーズへの進出を決める。彼の背番号42は、全ての球団の永久欠番となるのだった。

試合中の差別的なヤジ、不公平な判定、ビーンボール、強制退場、守備時の危険な接触などに加え、ホテルの宿泊拒否やガソリンスタンドでのトイレ利用の拒否など、あらゆる差別を受けながらも、愛する妻レイチェル(ニコール・ベハーリー)の支えを受けて活躍するジャッキーが素晴らしい。ハリソン・フォードの名演もさすが。映画の野球シーンでは、選手の振るまい、特に投げる姿がいかにも素人っぽいことが多いが、本作はそうした違和感がほとんどなかった。

【5段階評価】4

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2024年1月 2日 (火)

(2541) 騙し絵の牙

【監督】吉田大八
【出演】大泉洋、松岡茉優、佐藤浩市、木村佳乃、池田エライザ、宮沢氷魚、國村隼
【制作】2021年、日本

出版業界で新風を起こそうとする編集長の戦いを描いた作品。

老舗出版社の薫風社の小説雑誌「小説薫風」の若手編集者、高野恵(松岡茉優)は、「バイバイを言うとちょっと死ぬ」という持ち込み原稿を目にし、惚れ込むが、編集長の江波百合子(木村佳乃)は取り合わない。薫風社の社長が亡くなり、新社長に東松龍司(佐藤浩市)が就く。彼は小説薫風を月刊誌から季刊誌に変え、恵は担当を外される。自宅の本屋で働いていた恵の前に、雑誌トリニティの編集長、速水輝(大泉洋)が現れ、彼女をトリニティの担当に引き抜く。速水は奇抜な企画を次々に打ち上げ、恵が目を付けた八代聖(宮沢氷魚)の「バイバイを言うとちょっと死ぬ」の連載も決める。さらに速水は、ファッションモデルの城島咲(池田エライザ)が銃器マニアで同人誌に小説を書いたことがあることに気づき、彼女の作品の掲載も決める。ところが、咲がストーカーに襲われ、咲は3Dプリンターで自作し所持していた銃で反撃。咲は逮捕されてしまう。また、八代は速水が自分を芸能人のように扱うことに不満を感じ、小説薫風の再起を狙う宮藤和生常務(佐野史郎)側に寝返る。ところが、宮藤の開いた記者会見で、八代は自分は作者ではなく、作品は行方不明になった友人の書いたものだと暴露。作者は、22年前に大ヒットした小説の作者、神座(かむくら)詠一(リリー・フランキー)だった。全ては、「バイバイを言うとちょっと死ぬ」が神座詠一の作品だと見抜いた速水の仕組んだ狂言だった。得意満面の速水だったが、恵は騙されたことに憤る。
速水は前社長の息子、惟高(これたか)と組んで、雑誌のアマゾン独占販売の契約を進めることにする。恵は薫風社を退社すると、世界のどこでも同じ物が手に入るアマゾンとは逆に、小さな本屋でしか手に入らない書籍を売るという計画を実行に移す。その作品を見て速水は驚愕する。それは、神座詠一の作品だった。神座は恵の編集者としての腕を買い、トリニティへの連載ではなく、恵の提案に乗ることにしたのだった。出し抜かれた速水は悔しがるが、すぐさま服役中の咲のもとに出向き、小説を書かないかと薦めるのだった。

先の展開に目が離せない優れた作品だった。大物作家に漫画の原作を書かせるなど、具体的なアイディアが盛り込まれているのも興味深い。恵の逆転劇も痛快だった。松岡茉優以外にも、斎藤工や中村倫也といった若手有名俳優が出演していた。

【5段階評価】4

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2024年1月 1日 (月)

(2540) クライ・マッチョ

【監督】クリント・イーストウッド
【出演】クリント・イーストウッド、エドゥアルド・ミネット、ドワイト・ヨアカム、ナタリア・トラベン、フェルナンダ・ウレホラ
【制作】2021年、アメリカ

元カウボーイの老人と、家族愛を知らない少年との交流を描いた作品。

ロデオで背骨を怪我してカウボーイを引退し、妻と子どもを交通事故で失った過去を持つ老人マイク・マイロ(クリント・イーストウッド)は、牧場主のハワード・ポルク(ドワイト・ヨアカム)から、メキシコにいる13歳の息子ラフォを取り戻してきてほしいと頼まれる。母親の虐待を受けているというのだ。ハワードに恩義のあるマイクは依頼を引き受け、メキシコに渡る。マイクは地図を頼りに少年の母親レタ(フェルナンダ・ウレホラ)に会う。彼女は確かに息子を信用しておらず、品のない女性だった。レタは息子の居場所を伝え、連れて行けるものなら連れて行け、とマイクに告げる。マイクは闘鶏場でラフォ(エドゥアルド・ミネット)を発見。ラフォはマイクの話を信じ、マイクの車に乗り込む。マイクがラフォを連れていけるとは思っていなかったレタは、慌てて子分のアウレリオ(オラシオ・ガルシア・ロハス)に、ラフォを連れ戻すよう命じるが、二人はラフォの機転でアウレリオから逃れることに成功。しかし、道路脇で車を降りて食事をしていた隙に、車を犯罪者に奪われてしまう。ラフォは町で代わりの車を見つけ、二人はひなびた町に到着。そこに警察が来たため、二人はとっさにひとけのない食堂に入る。女主人マルタ(ナタリア・トラベン)は二人を匿い、食事を振る舞う。マルタにお礼を言って店を出た二人は、古びた礼拝堂で一夜を明かす。礼拝堂を出ると、そこにはなぜか二人分の朝食が置かれていた。マルタが二人に気づいて用意してくれていたのだ。二人は感謝して朝食をとる。二人が手に入れた車はオイル漏れしており、使い物にならなくなっていた。マイクは町にあった牧場で暴れ馬の調教を手伝い、いくばくかの収入を得ながら、孫に囲まれて生活するマルタの家で暮らすようになる。
マイクはハワードと電話し、ハワードがラフォを取り戻す理由が、金にあることを知る。レタの名義で取得した財産の分け前を得る交渉の切り札として、ラフォを手元に置きたかったというのだ。マイクは、父親が自分に会いたがっていると信じて目を輝かせているラフォにそのことを告げることができなかった。
マイクとラフォの暮らす町に、アウレリオのラフォ探しの手が及んでいることを知り、マイクは親しくなったマルタに別れを告げ、町を出る。国境に向かう途中で、マイクはラフォに、父親がラフォを手元に置こうとしている理由の真相を話す。ラフォはマイクを嘘つきと非難するが、マイクの冷静な態度を見て、父親の元に行くことを決意。途中でベンツに乗ったアウレリオに捕まりそうになるが、ラフォの飼う闘鶏マッチョがアウレリオに飛びかかり、その隙にマイクはアウレリオの持っていた銃を奪うと、そのままベンツに乗り換えて国境に向かう。国境にはハワードが待っていた。ラフォはマッチョをマイクに託すと国境を渡る。マイクはアメリカに戻らず、彼を待つマルタの店に帰るのだった。

やはりクリント・イーストウッド監督の作品は外れが少ない。趣向は異なるが、「グラン・トリノ」同様、老人と少年の交流を描いて心温まる内容。映画らしい映画だった。

【5段階評価】4

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