(1824) 息子
【監督】山田洋次
【出演】三國連太郎、永瀬正敏、和久井映見、田中隆三、原田美枝子、浅田美代子
【制作】1991年、日本
東京に出てきた岩手の若者と、一人暮らしをする父親とのふれあいを描いた作品。
岩手から東京に出て、居酒屋で働く浅野哲夫(永瀬正敏)は、定職につかずバイトを転々としながら一人暮らしをしていた。母親の一周忌で実家に戻るが、父親の昭夫(三國連太郎)には心配ばかりかけていると馬鹿にされる。東京に戻った哲夫は鉄工所でアルバイトを始める。初日から重労働でやる気を失っていたところ、配達先で受け取り印を押してくれた若くてきれいな女性(和久井映見)に一目惚れ。哲夫は仕事を続けることにする。哲夫は仕事から帰る彼女の後を付け、会ってほしいという手紙を渡す。哲夫は再び配達先を訪れるが、彼女は出勤しておらず、別の人(中村メイコ)が彼女はろうあ者だ、と告げる。哲夫はしばらく声が出なかったが、すぐに、ろうあ者で何が悪いんだ、と決意を固める。
昭夫は熱海の戦友会に出席するため上京し、長男の忠司(田中隆三)の家を訪れる。忠司は昭夫に一緒に住んだ方がいいと持ちかけるが、昭夫は話を聞こうとしない。忠司は憤慨するが、妻の玲子(原田美枝子)はそれをたしなめる。忠司の家から熱海に向かい、帰ってきた昭夫は哲夫の家を訪ねる。哲夫の家にファックスが届く。送り主の名は征子。配達先のろうあの女性を射止めていたのだ。哲夫は昭夫と銭湯に行き、買物をして家に帰る。そこに征子が訪ねてくる。征子は昭夫に挨拶し、哲夫は彼女と結婚するつもりだ、と昭夫に宣言。昭夫は素直にそれを認め、征子に礼を言う。征子が帰った後、哲夫の部屋でなかなか寝付けない昭夫はビールを一缶求め、仕方なく付き合う哲夫に、歌を歌ってやると言って下手なおとみさんをを歌う。哲夫は苦笑いしながら少し嬉しそうにする。
帰りの新幹線で、昭夫は哲夫と征子に挟まれて買物をしている姿に思いをはせていた。誰もいない自宅に戻ると、ふと家の奥から光が差す。そこには、かつて昭夫が出稼ぎをして戻ってきた頃の家族がいた。やがてその光は消え、部屋の奥は誰もいない空間に戻っていた。昭夫はマッチで火をおこし、部屋の明かりをともすのだった。
独居老人と、その子供たちに焦点を当てた作品。東京に憧れて上京しても、居酒屋や鉄工所のバイトはきつく、現実は甘くない。そんな中、ささやかな幸せを見いだす哲夫の、征子への恋が実って素直によかったと思えた。
一方、昭夫の哲夫に対する態度は、悪態をつきながらも愛情を感じている、ということなのかもしれないが、頭ごなしにできが悪いだの、手を焼かせるだの、と言うのは、あまり微笑ましいとは思えなかった。また、哲夫が手紙を渡したことが別の従業員に知られているシーン。なんで知っているの、と普通に不可解だったのと、好きな女性がろうあ者だと知ったときに哲夫が言葉を失った理由が気になった。哲夫が征子に手紙を渡すとき、征子は終始無言だった。そのとき哲夫は、どうして何も言ってくれないんだ、と征子を責めた。そのことを悔やんでショックを受けているのであればよかったのだが、どうやら哲夫は、ろうあ者と付き合うかどうか葛藤していたようだった。要はそれって自分目線の葛藤。相手の目線で、相手を傷つけたかもしれないことに思いをはせたわけではない。そこは残念だった。
【5段階評価】3
| 固定リンク
コメント