(1479) アヒルと鴨のコインロッカー
【監督】中村義洋
【出演】濱田岳、瑛太、関めぐみ、大塚寧々、松田龍平、関暁夫
【制作】2007年、日本
伊坂幸太郎原作小説の映画化作品。大学入学を機にアパートに引っ越した男子学生が巻き込まれる事件を描いた作品。
親元を離れ、一人暮らしを始めることになった大学生の椎名(濱田岳)。ボブ・ディランの「風に吹かれて」を口ずさみながら引っ越しの片付けをしていると、隣の部屋に住む男(瑛太)から話しかけられる。彼は河崎と名乗り、隣の隣の部屋に住む男(田村圭生)の名がドルジで、彼のために広辞苑を強盗しに行こうと持ちかけられる。河崎によると、ドルジはブータン人。車に轢かれそうになっていた犬を助けたことがきっかけで、かつて河崎と付き合っていた琴美(関めぐみ)と付き合うようになったと言う。彼がアヒルと鴨の違いを知りたがっているので、広辞苑を渡そうというのだ。
はじめは尻込みする椎名だったが、河崎は強引に計画を実行。椎名は河崎に、モデルガンを持って30分間、書店の裏口に待機し、3分おきにドアを蹴れ、と指示され、ときどき入り口を気にしながらも30分待ち続ける。椎名は、書店の前に止められた車の助手席に誰かが乗っていること、車が突如、走り出したことを確認する。30分後、いつの間にか河崎は車の中にいた。椎名は広辞苑は盗めたのか、と河崎に聞く。河崎は間違って広辞林を持ってきていた。
椎名は、ペットショップの店長、麗子(大塚寧々)と知り合う。河崎からペットショップの麗子に気をつけろと言われていた椎名は、馬鹿正直にその話を麗子にしてしまう。麗子は琴美が麗子のペットショップで働いていたこと、2年前、飼い犬や飼い猫の虐待事件が起きていたことを教え、河崎に気をつけろ、と椎名に助言する。
椎名は麗子と別れて教科書を買いに行き、自分の持っている教科書を確認するため、アパートにいた河崎に電話。消火器の下に隠した合鍵で部屋の中に入ってもらうと、本棚に入っている教科書の名前を読み上げてくれと頼む。ところが河崎は、本棚に教科書はない、と返事をしてきた。教科書はいつの間にか盗まれているようだった。
書店の様子が気になった椎名は、書店に行き、何食わぬ顔をして、店員に昨日異常はなかったか尋ねる。店員(平田薫)は、店長の息子、江尻(関暁夫)が店を開けっぱなしにしていたのでは、と椎名に教える。
椎名は、河崎に、それとなく2年前のペット虐待の話を振る。河崎は、ドルジと琴美がかつて、ペット虐待をしている3人組を見つけ、襲われそうになったことがあると話す。河崎の行動を怪しむようになった椎名は、河崎が夜な夜な、車で出かけていることに気づき、麗子に報告。麗子は河崎がHIVに感染して病院に通っていたらしいというエピソードを話す。
椎名と麗子は、夜になってアパートから車で出て行く河崎を尾行。河崎の車は人気のない河川敷に入っていった。夜が明けて河崎の車が走り去ったあと、二人は河崎のいた場所を捜索。草むらの中の大木の根元に、書店の男、江尻が暴行された状態でくくりつけられているのを発見する。二人は警察に通報。椎名は、河崎がやったんですか、と麗子に尋ねるが、麗子は河崎君は死んだ、と告げる。椎名は何かに気づいたようだった。
椎名は、河崎が日本語を読めないことを見抜き、隣の隣の男は山形出身だったと彼を問い詰める。河崎は、隣の隣はこの部屋だから嘘はついていないと言って、自分がブータンから来たキンレィ・ドルジだと告白する。彼が他人のように話していたドルジのエピソードは、自分のことだった。彼は、河崎(松田龍平)との思い出話を打ち明ける。ドルジと琴美がペット虐待の3人組を見つけて逃げたとき、琴美が定期券を落としたことで住所と電話番号を犯人に知られ、琴美が襲われそうになったことがあった。そのときは河崎が撃退したが、琴美の家には、江尻たちから嫌がらせの電話が来た。琴美は、電話の背後の音から彼らがボーリング場にいると見当をつけ、ドルジを連れてボーリング場に向かう。二人は彼らを発見し、ドルジは警察に通報。ところが、ブータン人からの通報に不信感をあらわにした警官は、雑な方法で3人に接近。警官に気づいた3人は店の裏口から逃げて車で逃走しようとする。その車の前に立ちはだかったのは琴美だった。運転手の江尻は、かまわずに突進。琴美を跳ね飛ばして車道に出るが、そこに来たトラックと激突して江尻以外の二人は死亡。はねられた琴美も命を落とした。
河崎は、江尻が書店の店員としてのうのうと生きていることを知り、ドルジと二人で復讐を計画。ところが、書店に乗り込む途中で河崎は病状が急に悪化し、倒れてしまう。計画は未遂となり、ドルジは河崎を乗せて車を病院に走らせる。車中で河崎は、神の声だと言ってドルジに「風に吹かれて」のカセットを聴かせると、早く生まれ変わって女を抱くぜ、と言い残して息を引き取る。
河崎と琴美を失ったドルジが、アパートの部屋で二人との思い出にふけっていると、不意に「風に吹かれて」を口ずさむ声が外から聞こえてきた。それが、引っ越しの片付けをしている椎名の歌声だったのだ。ドルジは椎名と二人で、果たせなかった復讐計画の実行を決意。自分が河崎役となり、椎名には何も知らせず、裏口にいるよう指示し、店内にいた江尻を縛り上げると、車に乗せて河川敷に連れ去り、彼を鳥葬にしようとしたのだった。夜な夜な、彼が車で出かけていたのは、江尻がすぐに死なないよう、食事を与えに行っていたのだ。
ドルジから真実の告白を受けた椎名のところに、父親(なぎら健壱)の病状が悪化したという連絡が入る。二人が仙台駅に向かおうとアパートを出ると、そこには車に乗った麗子がいた。麗子は二人を仙台駅に送ると、ドルジに自首を勧める。ドルジは「ソウデスネ」と片言の日本語でおどけて返事をする。仙台駅のコインロッカー。椎名はバックパックからラジカセを取り出し、「風に吹かれて」を流したまま、それをコインロッカーにしまう。神様には見なかったことにしてもらおう、という椎名のメッセージだった。椎名はまた戻ると告げて新幹線の改札を通る。ドルジは駅を立ち去り、交差点へ。そこに、一匹の犬が現れ、車道に飛びだそうとしていた。ドルジはとっさに犬に駆け寄る。青い空の下、コインロッカーの中で「風に吹かれて」が静かに鳴り響くのだった。
日本人の、外国人、特にアジア人に対する差別意識というテーマを扱いながら、登場人物の語る告白に出てくる人物が実は別人だったというトリックをうまく映像化している。名前だけで登場人物が描かれる小説では成り立つトリックだが、映像にするのは難しい。本作では、独白部分を白黒の映像にすることで、事実描写とは限らないことを暗喩する手法をとり、推理ものとしてのルールを構築していた。トリックを知った上で見直すと、その巧みさがさらによく分かり、面白い。麗子と椎名の会話は、実はかみ合っているようでいて、二人の指し示す人物は違っていたということだ。
意味深なタイトルのアヒルと鴨だが、劇中で、琴美がドルジにアヒルと鴨の違いを聞かれ、鴨が在来種でアヒルが外来種なのかな、と答えている。日本人と、日本に来た外国人を意味しているということだ。
ボブ・ディランの「風に吹かれて」がテーマ曲のように使われている本作。彼がノーベル文学賞を取ったことで、作品の格も上がったかもしれない。
【5段階評価】4
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