(1234) 悪魔の手毬唄
【監督】市川崑
【出演】石坂浩二、岸恵子、仁科明子、北公次
【制作】1977年、日本
磯川警部(若山富三郎)に呼ばれて、鬼首村(おにこべむら)の旅館、亀の湯に泊まっていた金田一耕助(石坂浩二)は、風呂場で多々良放庵(中村伸郎)という老人に、手紙の代筆を頼まれる。復縁を迫ってきた5番目の元妻、おはんに宛てるのだという。
磯川は、旅館の女将、青池リカ(岸恵子)の夫、源治郎が20年前に殺された事件の解決を金田一に依頼する。20年前、村にモール作りのもうけ話を持ちかけた恩田幾三を詐欺師とにらんだ源治郎は、囲炉裏端で頭を薪で割られて死亡。発見者はリカと放庵だったが、源治郎の顔は、囲炉裏の火で焼けただれ、見分けが付かない状態だった。
話を聞いた金田一が、道を歩いていると、おはんと名乗る老婆とすれ違う。ところが、おはんは1年前に死亡していた。磯川と金田一は、放庵の家に向かうが、そこには酒盛りの形跡と吐血の跡があり、放庵は行方不明になっていた。
都会で芸能活動をしていた恩田の娘、千恵(仁科明子)は、20年間つかまらずにいる父のことが気になり、里帰りする。その夜、リカの長男、歌名雄(北公次)の恋人、由良泰子(高橋洋子)が、手ぬぐいでほおかむりをした老婆に首を絞められ、殺される。
泰子の葬儀に出た千恵は、倉の壁に映った老婆の影を見て絶叫する。翌日、仁礼文子(永野裕紀子)が葡萄酒の酒樽の中で殺されているのが発見される。
地元の捜査主任、立花(加藤武)は、失踪している放庵が、仁礼家の依頼で泰子を殺し、さらに仁礼家への恨みで文子を殺したと考える。金田一と磯川は独自に捜査を進めるうち、泰子も文子も恩田の子であったこと、囲炉裏端で殺されていたのは、源治郎ではなく恩田であったことを突き止める。
3人目の被害者はリカの娘、里子(永島暎子)だった。里子が殺害されたことを息子の歌名雄から聞かされたリカは卒倒してしまう。
金田一は、活動写真の弁士をしていたという源治郎の写真を求めて神戸に行き、ようやく写真を発見する。その写真を見せられた文子の母親の咲枝(白石加代子)、千恵の母親の春江(渡辺美佐子)、泰子の母親の敦子(草笛光子)は、口々に、それが恩田だと口にする。
つまり、恩田とは、詐欺を働くために源治郎の演じた架空の人物だったのだ。
事件の犯人は、リカだった。20年前、恩田と源治郎が同一人物だと気付いた放庵は、リカにそのことを告げる。リカは放庵の家に向かい、源治郎を問いただすと、源治郎は開き直って春江と暮らすと言ったため、逆上したリカは源治郎を撲殺。放庵は、事件をうやむやにする代わりにリカを我が物にする。
20年が経過し、リカは、息子の歌名雄が泰子と結ばれようとしていることを知る。二人が腹違いの兄弟であることを歌名雄に告げることのできないリカは、放庵を犯人に仕立て上げて泰子の殺害を計画。放庵に毒を飲ませて絞殺し、死体を墓の中に隠すと、おはんが生きていると金田一に思わせ、泰子を殺害。歌名雄に言い寄っていた文子も殺害する。
顔の半分にあざのある自分の娘、里子を不憫に思っていたリカは、千恵も殺害しようとするが、里子は、リカが犯人であることに気付いてしまう。里子は、母親に己の罪深さを悟らせようとして、千恵を呼び出すためにリカが書いた手紙の入った千恵のハンドバックを持って、指定した待ち合わせ場所に向かう。暗がりの中、それが千恵だと思い込んでいたリカは、自分の娘だと知らずに里子を殴り殺してしまったのだった。
リカは、千恵に全てを打ち明け、かけつけた磯川に自首すると告げるが、隙を見て底なし沼で入水自殺する。犯人捜しにやっきになっていた歌名雄は、犯人の死体があがったと聞いて、磯川の制止をふりほどいて死体を確認するが、それが自分の母親であることを知り、嘘だ、と絶叫する。
事件は決着し、金田一は鬼首村を後にする。リカを愛していた磯川は、リカの息子、歌名雄の後見人となるのだった。
やや難解な作品で、2回観てようやく意味がわかったが、登場人物に無駄がなく、すっきりとした謎解き、はっきりした動機。サブリミナルのように細かくカット割りした映像によって、観る者にぞっとした感覚を植え付ける辺りの演出は、とても効果的だった。
写真のないことが不思議ではない戦後まもない頃という時代設定だからこそ成り立つトリックではあるが、謎解き作品としても面白かった。
一方、謎解き作品には、どうしてもいちゃもんを付けたくなってしまうが、まずはやっぱり、「おはんでございます」などと聞かれもしないのにつぶやきながら歩く老婆。そんな老婆はいないだろう、というのもさることながら、それを見かけた金田一があっさりおはんが生きていると思ってしまった、というのはどうなのよっていう。童謡が本作用の創作というのも、若干、ご都合主義的ではある。
とはいえ、母親として、そして一人の男を愛した女として、静かな怨念をたぎらせた女性を、岸恵子が見事に演じていた。そして、こんな数十年前の作品で、すでに大滝秀治氏は老人を演じているというのもすごい。
【5段階評価】4
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