(219) セルピコ
【監督】シドニー・ルメット
【出演】アル・パチーノ
【制作】1973年、アメリカ・イタリア
警察にはびこる不正に立ち向かった実在の警官を描いた作品。主人公の警官、セルピコを、アル・パチーノが演じている。
ただしこの警官、正義のヒーローなのだが、見た目は冴えない。市民に溶け込むためと称して、ヒッピー風のひげもじゃ。警察署内にいても、どうみても警官には見えず、むしろ警察のお世話になっているほうに見えるぐらい。その特異な風貌もあいまってか、警察内で半ば公然とまかり通っている、犯罪組織からの上納金の受け取りを拒むセルピコは、署員から疎まれるようになる。そのことを自覚するセルピコは、転職を願ったり大学で勉強を始めたり、自分の生き方を模索する。脅迫の危険に常に晒される怯えからは逃れることができず、恋人に当たり散らした挙げ句、恋人を失ったりもする。
そしてついに、悲劇が起きる。警察内部の腐敗をマスコミに暴いたセルピコは、麻薬捜査の危険な現場に送り込まれる。犯罪者の居場所を突き止めたセルピコは、仲間の刑事とともにアジトに乗り込み、扉をこじ開けようとする。扉に挟まれ、動けなくなったセルピコは、仲間に助けを求めるが、仲間たちは扉の陰に隠れたまま、彼を救おうとしない。そしてセルピコは、犯罪者から顔を銃で撃たれてしまう。セルピコを応援していた警視が、セルピコの病室に見舞いに訪れる。そこでセルピコに見せられたのは、仲間からのメッセージカードだった。「すっかり人気者だな」と軽口を叩きながら、警視がそれを手にすると、そこには「苦しんで死ね」という衝撃的な言葉が書かれていた。彼はその後、公聴会の場で警察内の汚職を暴露し、時の人となるが、その代償は顔面銃創による松葉杖生活という、大きなものとなった。
警察内の汚職を描いた作品はいろいろとあるが、本作はどちらかというと地味な作りである。仲間のいじめなどもそれほど強烈に描かれたりはせず、セルピコがどうしようもない逆境、今にも殺されそうな立場にいる、というほどではない。それが逆に、なんとかなりそうなのになんともならない、組織腐敗の恐ろしさに対して、観る者に身もだえるような感覚を植えることに成功している。
【5段階評価】3
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