(20) キサラギ
【監督】佐藤祐市
【出演】小栗旬、ユースケ・サンタマリア、小出恵介、塚地武雅、香川照之
【制作】2007年、日本
何の情報も仕入れずに観たので、ミステリーとして純粋に楽しめた。シナリオがよくできていて面白い。
一番の主役は小栗旬ということになるだろうが、出演欄には5人とも挙げておく。
さて、「明日の記憶」同様、この映画も、エンディングについては評価が分かれるようだ。(本ブログのトップにも示しているが、念のため書いておくと、以下はネタバレなので、まだ映画を観ていなくて楽しみたい方は読まないことを強くお勧めする。・・・なんて書くと読みたくなるかもしれないが、結末を踏まえて書いているので、読んで後悔しないように。)
映画の中では、如月ミキの死の真相について、一つの結論に達し、エンディングと思わせる。ところがエンドロールが終わったと思いきや、如月ミキが出演していたアイドル番組の司会者が登場し、結論はそんなことではない、と主張する。そして、ぐにゃぐにゃと折れ曲がった針金を目の前にかざし、主役の5名がポカンとした顔をしたところで終わるのだ。
このシーンは解釈が難解だ。多くの人は、「えっ、何? 意味がわかんない」だし、もう少しましな解釈があるとしても、「アイドルの死の真相とか、この手の話を推理しだすとエンドレスってことを暗示してるのかな。」といったところだろう。
実は監督自身、このシーンのことは忘れてくれと言っているらしく、あまり気にしないでよいようだ。しかし、あるブログで面白い解釈をしていた。あのエンディングは、そんなことではなく、もっとはっきりとした別の真相を示しているのだ、と。
そこで、それも踏まえ、自分なりに、あの一年後のシーンの続きを考えてみた。もし一人でも、このストーリーに興味を持ってくれたなら、蛇足感のあるあのエンディングにも、意味があったということになるかもしれないし、こういったアナザーストーリーがあちこちで生まれることこそ、監督の狙いとだったと言えるかもしれない。
【5段階評価】5
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司会者、シシド・ジョー。彼もまた、如月ミキの熱狂的なファンだった。
5人が集まった2007年の追悼会の後、彼が家元の掲示板に登場し、結局、一年後の今日も、追悼会を行うことになったのだ。
シシド「俺も、ミキの死に対しては疑問を抱いていた。そこで、業界のコネを使って現場の情報を収集した。それによると、現場の近くに、部屋のカギをこじ開けるのに使ったと思われる針金が落ちていたのだ。」
家元「本当ですか。そんな事実は記録されていませんが。」
シシド「それともう一つ。ミキの住んでいた部屋の玄関のカギには欠陥があった。今ではもう生産されていないそうだが、このカギは、そとから針金で細工をすることで簡単に開いてしまうタイプのもので、その筋の者には有名なんだそうだ。」
安男「・・・その筋って? 」
スネーク「だから、空き巣とか、こそ泥とか、とにかくその手の盗っ人関係だよ。」
シシド「つまり、如月ミキは、この針金を使ってミキの部屋に侵入したストーカーに、殺されたんだ。」
家元「しかしシシドさん、前にも言ったのですが、警察にそんなストーカーの記録はないんですよ。」
シシド「記録など関係ない。この針金を使ったストーカーがいるのは事実だ。この、ヘビのようにグネグネと曲がった針金を使ったストーカーがな・・・。」
家元「ヘビ・・・!?」
全員の視線が、ある男に注がれる・・・。
スネーク「なっ、何だよ。ヘ、ヘビだからスネークって、関係ないだろ! 」
いちご娘「そう言えば、私はおかしいと思っていた。確かに私は、娘のミキが、ラッキー・チャッピーやアロマキャンドルにハマっていることを知っていた。しかし、スネーク君。君は、ミキにそれを売っていた店員だろう。君だって、そのことを知らないはずはない。なのになぜ君は、この私を疑い、ストーカーだストーカーだと騒ぎ立てたんだ。君は私に、ストーカーの疑いをなすりつけようとしたんじゃないのか。」
スネーク「違う! 俺は・・・、俺は確かに知ってたよ。ミキちゃんが、ラッキー・チャッピーや、アロマキャンドルにハマってたことを。だけど、あんたが知っているのはおかしいと思っただけだ。だからあんたが部屋に忍び込んだストーカーだと思った。それだけじゃないか。」
オダ「確か君は、初めてミキが君の店に来たとき、ミキがアイドルだなんて知らなかったと言っていたね。その割には、ミキについて随分詳しい。」
スネーク「だから最初は知らなかったけど、後からファンになったんだよ。」
オダ「いずれにしろ、ミキの部屋にラッキー・チャッピーのボトルを持って行ったときの君は、ミキの熱烈なファンだった。君の言葉で言えば、『如月ミキを愛する気持ちは誰にも負けない』。そうだろう。その君が、あこがれのミキの部屋に入って、『軽くコクったけど大事な人がいると言われて振られた』なんて、ずいぶんサラリと言っていたが、本当は相当なショックだったんじゃないのか。」
安男「僕もあの後、福島に帰ってから、ずっとおかしいと思っていた。なんであのミキっぺが、洗剤やサラダ油を容器に移し替えるぐらいのことで、わざわざ君みたいなモヒカン頭の怪しい男を、部屋に招き入れたのかって・・・。お前、ムリヤリ部屋に入ったんだろ!?」
スネーク「違う違う、ホントに入れてくれたんだって! 」
シシド「話によれば君は去年、サラダ油と洗剤を入れたボトルの違いを、ここにいる人たちに尋ねられたとき、キャップの違いについてすらすらと答えたそうだが・・・、何で1年も前のことを、そんなにはっきりと覚えていたんだ・・・。その話、でっち上げなんじゃないのか。」
スネーク「本当だよ、本当に頼まれて手伝ったんだ。なあ、いちご娘さん。あんた、外から見てたんだろ。俺はムリヤリ部屋に押し入ったりはしてないよな。それにミキちゃんだって、そのあとの電話で、やっくんにもマネージャーにも、そんな話はしてないじゃないか。」
いちご娘「じゃあ、こういうことか。君がミキに招かれ、ボトルの詰め替えをしたこと、告白をして振られたこと、ゴキブリを探したこと、これは本当だ。しかし、君はミキの家を出て店に戻った後、針金を持って、ミキの部屋に引き返した。」
スネーク「違う! 」
イチゴ娘「雑貨店なんだから、針金ぐらいあるだろうし、カギの構造についても仕事がら、知識はあるだろう。ジョーさんの言う『その筋の者』ってわけだ。君はミキの家を出るとき、玄関のカギに気づいた。それが、針金で簡単に開く、古いタイプのカギであることを。」
スネーク「知るか! そもそも雑貨屋で、玄関のカギなんて扱ってねえよ! 」
シシド「でも、この針金は知ってるよな。俺は調べたんだ。知らないとは言わせないぞ。」
スネーク「・・・な、何だよ。」
シシド「お前の勤めている雑貨店で売っている、針金製のハンガーと同じものだ。」
スネーク「・・・そ、そんなもんどこでも売ってるだろ・・・。」
シシド「売ってることは認めるんだな。」
スネーク「だがやってない! その夜は地震で落っこちた商品の片付けをしたって言っただろ。ミキちゃんの家に引き返したりもしていない。店長に聞いてくれよ! 」
シシド「もう一つある。俺の調べたところ、お前は事件のすぐ後、その目立つモヒカン頭をやめているな。どうしてだ。目撃情報を恐れたんじゃないのか。」
スネーク「・・・あ、哀悼の気持ちだよ。」
安男「何が哀悼だ! そう言えば去年、家元さんが来年もこの会をやろうって言ったとき、お前、来るのを拒んだよな。お前、哀悼どころか、単に自分の犯罪が発覚するのを恐れていただけじゃないか! 」
スネーク「違う、信じてくれ・・・。ミキちゃんは言ってた。大事な人のために、クッキーを焼いているんだって。それ聞いて、俺、確かに振られて少しはショックだったけど、本当に素直に、ミキちゃんを応援してあげようって気になったんだ。・・・そう、ミキちゃんは言ってた。クッキーを、その大事な人に送ってあげるんだって。喜んでもらえるかどうか分からないけど、渡したいんだって・・・。大事な人って、家元、お前だったんだよな。」
全員の視線が家元に集まる。
スネーク「さっきから黙ってるけど、どうした。そう言えばお前だけ、当日の行動について何も語ってない。お前は、あの事件の日、何をやってたんだ。お前、ミキちゃんの家に行ったんじゃないのか。お前がストーカーなんじゃないのか。」
家元「何を突然・・・、違いますよ。」
スネーク「どうだか。お前がストーカーじゃないって証拠がどこにある!?こんな大量に、ミキちゃんの記事や写真を切り抜き、200通もファンレターを出して。大磯の映像だって盗撮してただろ。警察勤めのくせに、やってることは犯罪者と変わんねぇじゃねぇか! 」
家元「自分が疑われているからって、矛先をそらそうとするのはやめてください。」
オダ「実は、私にも、あなたに関して、引っかかっていることがある。」
家元「・・・なんですか。」
オダ「家元さん。あなた確か、去年、言いましたね。如月ミキがストーカー被害を警察に訴えたという記録はないと。あのとき、私はあなたの警察手帳に面食らって、あっさりと引き下がってしまったが、やはりおかしい。ミキは確かにこの私に、警察に通報したことがあると言っていた。もし、本当に通報してないのだとすると、彼女は私に嘘を言っていたことになる。しかし、彼女が私に対して、そんな嘘をつく理由があるでしょうか。」
家元「知りませんよ。あなたミキちゃんに嫌われてたんでしょ。嘘ぐらいつかれても不思議はない・・・。ねぇ、デブッチャーさん。」
オダ「嫌われているからと言って・・・、そんな脈絡のない嘘を言う理由がない。やはり彼女は警察に通報していた。私はそう思います。それに、あなたの父親は警視総監なんですよね。息子がストーカーであることを疑われるような情報をもみ消すことなど、朝飯前でしょう。」
家元「警察をバカにするのもいい加減にしてください。警視総監だったら何でもできるとでも思ってるんですか。日本の警察はそんなに甘くない! 」
オダ「家元さん。私は日本の警察の話をしてるんじゃない。・・・父親と、息子の話をしているんです。」
いちご娘「家元さん。私はミキの父親として、君には感謝していた。娘のことを、200通ものファンレターを出すほど、愛してくれていた。ミキからの返事の手紙をとても大切にしてくれていた。そして、そのパーフェクト・コレクション・・・。」
オダ「そう、そのパーフェクト・コレクション。あなたの特徴は、その異様なまでの収集癖です。ミキから思いがけず手紙の返事をもらったあなたは、もはや、市販されている雑誌の記事の切り抜きのたぐいでは満足できなくなった。その思いが高じて、ミキの部屋に忍び込むことを考えた。熱狂的なファンにはよくある心理です。」
イチゴ娘「そう言えば君は、ミキのカチューシャを私から取り上げたとき、警察の人間にしては、ずいぶんと乱暴にカチューシャを扱っていたね。普通は、手袋をして、ビニール袋に入れたりするんじゃないんですか。テレビで見たことがある。」
家元「あのね、こんなところで、そんな手袋とか都合よく出てくるわけないでしょう。」
オダ「とにかくあなたは、どこにも売られてない、ミキの私物が欲しくなってしまった。もっとも、普通のファンならそこまでです。相手の家の場所も分からなければ、近づく方法もない。しかしあなたは違った。」
家元「何が違うんですか。」
オダ「あなたの職業ですよ。あなたのお勤めは、警視庁総務部、情報資料管理課でしたね。あなたの立場を利用すれば、ミキの住所を知ることはたやすかったでしょう。違いますか。」
家元「だから、警察の職員だったら自由に個人情報を手に入れられるとか、そういう偏見はやめてください。日本の警察はそんなに甘くない、と言ってるでしょう。」
オダ「いえ、住所の情報なんて、警視庁の職員が捜査のためとか何とか言えば、何の問題もなく入手できるはずです。そして、ミキの住所を知ったあなたは、早速、ミキの部屋を下見しに行った。そして、そのときに気づいた。ミキの部屋のカギが、針金で開いてしまう古いタイプであることに・・・。あなたは、そう、間違いなく『その筋の者』だ。」
スネーク「確かに、盗っ人関係・・・だよな。」
オダ「そしてあなたは決行する。時間は恐らく、ミキが安男さんに、いえ実際には私宛でしたが、電話をかけ、部屋の明かりを消して眠りについたあとでしょう。あなたは、ミキの部屋が暗くなってしばらくすると、ゆがんだファン心理のおもむくまま、玄関のカギをこじ開け、部屋に忍び込んだ。」
いちご娘「あぁ、私はスネーク君が部屋に入ったあと、ショックでその場を立ち去ってしまった。もしあのままずっと、娘の部屋を見守っていれば・・・。」
オダ「そう、その見守りがとぎれた空白の時間に、あなたはミキの部屋に忍び込んだんです。」
家元「想像で勝手なことを言うのもたいがいにしてください。いいですか。仮に僕がミキちゃんの私物かなにかを欲しかったとして、だったらなんで、ミキちゃんがいると分かっている部屋に忍び込むんですか。留守中に入ればいいことでしょう。」
オダ「それは、あなたが欲しかったものは、部屋にミキがいないと入手できないものだったからですよ。」
スネーク「な、なんだそれは。」
オダ「スネークさん、あなたは知っているでしょう。家元さんが非常に興味を示したアイドルグッズを。」
スネーク「何だっけ・・・」
オダ「ほら、あなたが家元さんあての、ミキの手紙のコピーを欲しがったとき、彼はあるものとの交換条件を飲んだ・・・。」
スネーク「・・・生写真! 」
オダ「そうです。・・・家元さん、あなたは、ミキの生写真にことさら興味があった。その異様な興味が偏執的な執着に代わり、普通の手段では手に入れることのできない・・・・寝顔の生写真を手に入れようと考えた。違いますか。」
家元「生写真なんて、ファンなら誰だって興味があるものですよ。それに、私が生写真にちょっと興味を示したからって、寝顔の生写真をゲットするために部屋に忍び込んだなんて・・・、妄想にもほどがあります! 」
オダ「確かに、本人の部屋に忍び込んで寝顔を撮ろうなんていう発想は、ふつうのファンには出てこない、いや出たとしても、実行しようとはしないでしょう。だが、あなたの生写真の収集に対する関心は異常だった。」
家元「別に・・・、普通ですよ。」
オダ「あなたさっきいちご娘さんに『何でカチューシャを手荒く扱ったんだ』って聞かれたとき、そんな簡単に手袋なんて用意できるもんじゃないと言いましたね。だが、スネークさんの生写真を受け取ったとき、あなたはすぐさま白い手袋を取り出して手にはめていた。・・・なぜ、犯行の証拠になるかもしれなかったカチューシャは素手で扱ったのに、生写真は手袋なんです・・・。説明してください! 」
家元「・・・・・・それは・・・。」
オダ「あなたは生写真ほしさに、ミキが寝ている時間を狙って、ミキの部屋に侵入した。もくろみ通り、忍び込んだ部屋には、アロマ・キャンドルの炎に照らされるミキの寝顔があった。あなたはその寝顔を写真に納め、ミキに気づかれないように、そっと部屋を出ようとした。しかし、あることがきっかけで、ミキは眠りから覚めてしまった。」
スネーク「なにかにつまづいたのか? 」
オダ「恐らく違うでしょう。彼がそのような失敗をするとは考えにくい。そうではなく、あの晩に起きたこと・・・。」
スネーク「・・・!? そうか、地震だ! 」
オダ「そう、家元さんが部屋を出ようとしたとき、突如、地震が起きた。そして、ミキが地震に気づいて起きてしまった。」
安男「そうだ。ミキっぺが前、電話で言ってた。東京は地震が多くて怖い。東京の人は地震に慣れっこみたいだけど、私は地震のたびに飛び起きちゃうって。・・・昔からミキっぺは、地震が大の苦手だった。」
オダ「ミキが地震に気づいて飛び起きると、すぐ横にあなたが立っていた。あなたは、驚きのあまり声も出ないミキに、突然覆い被さると、そのまま絞め殺してしまった。そうですね。」
いちご娘「そ、そんな・・・。」
オダ「理由は、そう、あなたの父親が警視総監だからです。いくらあなたの父親でも、不法侵入の実行犯の経歴をもみ消すことはできない。そして、このことが公になったら、あなただけではなく、あなたの父親の人生も終わりだ。あなたは警視総監の息子であったからこそ、ミキの口を封じざるを得なかった・・・永遠に。」
家元「・・・・・・。」
オダ「ミキを殺したあなたは、事態をどう収拾するべきか考えた。あなたは警察の人間だ。警察が殺人現場でどういう捜査を行うのか、よく知っていたでしょう。指紋を拭いたぐらいでは、捜査を行き詰まらせることなど、とてもできないことも。」
シシド「ふっ、『日本の警察はそんなに甘くない』・・・か。」
オダ「生半可な証拠隠滅では、捜査の手から逃れることはできないと確信したあなたは、犯行現場そのものを、部屋ごと燃やしてしまうことを思いついた。」
安男「・・・だけど、僕にはまだよく分からない。本当にこいつがやったのか。去年、ミキっぺがこいつの書いたファンレターを守ろうとして死んだことを知ったとき、こいつは涙を流していた。あれは演技だったのか。僕にはこいつが、心から泣いているように思えたんだ・・・。」
オダ「・・・それは私にも分かりません。」
家元「・・・ずっと、・・・不思議だったんだ。」
安男「・・・えっ!?」
家元「僕は、倒れた彼女を、ベッドの上に放置して部屋に火を付けたんだ。」
安男「・・・・・・!?」
オダ「認めるんですね!?あなた、罪を認めるんですね!?」
家元「だけど、発見された彼女の遺体は、ベッドの上ではなく、物置にあった。僕は不思議だった。なぜ彼女が物置で発見されたのか。」
安男「・・・・・・まさか!?」
家元「・・・そう、彼女は死んでなかった。たぶん、一時的に気絶しているだけだった。だけど僕は、自分が彼女を殺したと思いこんだ。そのとき、床に落ちているアロマ・キャンドルに気づいた。」
安男「サラダ油に引火してなかったのか? 」
家元「いや・・・。そもそも油なんかまかれてなかった。」
スネーク「じゃあ、ゴキブリ退治に洗剤と油を間違えてまいたっていうのは・・・。」
シシド「たぶん事実じゃない。その点は俺も不思議だったんで調べた。いくらミキがおっちょこちょいな性格だとしても、洗剤とサラダ油を間違えて、部屋中にまき続けるなんてことがありうるだろうか。普通は途中で気づくはずだ。それに、もしミキが本当に洗剤と間違って油をまいたとして、その液体まみれの床を放置して寝てしまうなんてことがあるだろうか。」
スネーク「そうか、いくら疲れてたって、普通は拭き取ったりするよな・・・。」
シシド「そもそも、サラダ油を床にまいて火をつけたって、そんな簡単に引火はしないんだ。」
スネーク「えっ、そうなの!?」
シシド「ああ、灯油やガソリンは揮発性が高いから常温でも引火しやすいが、サラダ油は200度ぐらいまで温度が上がらないと気化しない。だから、熱したサラダ油には火がつくが、床にまいたサラダ油にろうそくの炎が落ちたぐらいじゃ、引火なんてしないし、したとしても一瞬で燃え広がったりはしないのさ。だからこそ俺は、ミキがゴキブリを退治するためにサラダ油をまき、そこに地震で落ちたキャンドルが落ちて引火した、という説には納得がいかなかったんだ。」
スネーク「じゃあ、現場にまかれていたサラダ油っていうのは・・・。」
家元「・・・僕がやった。いかにも素人の娘が、油をまいて発作的に自殺したと見せかけるために。だが、うまく火がつかなかったから、別のものを燃やすことにした。」
スネーク「何に火をつけたんだ! 」
家元「物置の中にあった下着さ。」
スネーク「お前も下着にさわってんじゃん! 」
オダ「そこに食いつくなよ! 」
家元「物置にあった衣類に火を付け、炎が上がるのを確かめると、僕は急いで部屋を出た。」
シシド「そのとき、針金を部屋に置いてきてしまったんだな。」
安男「・・・ところがミキっぺは死んでいなかった。しばらくして息を吹き返して・・・物置から火の手が上がっていることを知ったミキっぺは・・・。」
オダ「くそっ、きっと、そのまますぐ家を飛び出して、逃げれば助かったんだ。なのに、物置から火が出ていたばっかりに、ミキは、大切なファンレターを失いたくないと考えて火の中に飛び込んだ。」
スネーク「家元! お前、なんで下着に火をつけたんだよ! ソファーとかカーテンとか、他にもいろいろあっただろう! この、スケベ野郎が! 」
家元「知らなかったんだ・・・。物置に、僕のファンレターが置いてあったなんて・・・。」
オダ「君は去年、自分がミキから一番遠い、ミキと接点がないのは自分だけだと、ことさら嘆いていたが、あれは、自分が犯人から一番遠いということを印象づけるためだったのか。」
いちご娘「でも、君の思いはミキに一番近いところにあった。ミキに、誕生日のクッキーを作らせるほどに・・・。」
安男「あんまりだ・・・。クッキーを渡したいと大事に思っていた相手と・・・こんな・・・こんな形で会って・・・、会った瞬間に、殺されてしまうなんて・・・。」
スネーク「いや、殺されてはなかったんだ。息を吹き返したんだ。なのに、こんなヤツの・・・こんなヤツのファンレターを守ろうとして、ミキちゃんは・・・。」
家元「知らなかったんだ・・・。」
いちご娘「知らなかっただと・・・。それをいちばん言いたいのは、ミキだ。自分を殺したストーカーと、自分を勇気づけてくれるファンレターの書き手が同じだったなんて。クッキーを渡そうとしていた相手が、突然、自分の横に現れ、自分を絞め殺すだなんて・・・。」
家元「知らなかったんだ・・・。」
(完)
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コメント
あざっす!
投稿: 管理人 | 2014年11月28日 (金) 03:18
素晴らしいです。
投稿: えまりら | 2014年11月15日 (土) 06:39